HIRARISTEP

読書ノートなど。

「新時代の『日本的経営』」

2008-08-05 20:20:50 | 経営者団体
日経連「新時代の『日本的経営』」1995

1991年からの不況の深刻化と、グローバル市場での日本企業の競争力低下が危ぶまれる中、
「日本的経営」や経済システムの変革を求める声が大いに上がっていた が、特にそれを象徴していると思われるのが1995年に日経連が発表した「新時代の『日本的経営』」であった。

これは端的に言えば、「日本的経営」見直しのガイドラインであった。

具体的には、労働者を「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」に分類し、労働者の階層化を図るものであり、
「長期蓄積能力型」となる中核正社員以外を全て有期雇用契約、昇給無し、退職金・企業年金なしという処遇にし、労働力の流動的・弾力的な活用を目指し、総人件費を抑えるという狙いのものであった。

J.クランプ(『日経連』2003)が述べるように、労働力の「階層化そのものは決して目新しいものではなかった」。
「日本的経営」は常に大企業労働者/中小企業労働者、男性/女性、正社員/非正社員との分断線を引いてきた。
だが、今回のガイドラインにおいては、それらの中でも主として大企業の男性正社員をさらに分断・選別しようという方針が打ち出されていた。

従来「日本的経営」は男性正社員の「24時間の忠誠」と引き換えに、年功制、終身雇用制、企業内福利厚生などの処遇により、従業員の家族を丸ごと生活保障するシステムであったと解せられる(渡辺治『変貌する<企業社会>日本』2004) が、
「新時代の『日本的経営』」はその見直しを図るということの大いなる決意表明であり、それは人事労務管理戦略の転換及び労働者の企業への統合形態の転換を象徴するものと捉えられる。

このような雇用戦略を実行するためには、弾力的な労働力の調達を可能にする労働市場の形成が必要であるが、その要請に呼応するように昨今の規制緩和の中で労働契約法制、解雇法制、労働者派遣法制、労働時間法制などの見直しが実際に進められてきた。

そこで労働法制の規制緩和を推し進める合い言葉は「柔軟」で「多様」な働き方という響きの良いフレーズであったが、それが「雇用不安」と「処遇格差」の別表現であったことは昨今の「格差社会」と呼ばれる局面において、よりはっきりしてきたように思われる。