平方録

有朋自遠方来 不亦楽乎

有朋自遠方来 不亦楽乎

伊予の松山から友人が上京してきたので品川まで出かけて行き、一献傾けながら旧交を温めてきた。
去年はわが家に招じ入れ、相模湾の魚で痛飲したのだが、今年は1泊しかできず時間がないというので、残念なことであった。
東京で1人暮らしをしているきれいなお嬢さんを伴っていた。

東京勤務時代に知り合った同業の士で、「レッドの会」というのを結成して飲み歩いたものである。
会名の由来は中華街にあった寂れたバーから取ったもので、当時90歳近かった日本語の怪しい日系人のお爺さんがたった1人でやっている怪しげな雰囲気の店に連れて行ったところ、大いに気に入って付けたのだが、店の名は「チェッカーズ」である。

このバーが変わっているのはサントリーレッドしか飲むものがなく、それも昭和の40年代あたりにまとめて買いだめしておいたものを取り出してきて、氷もなく、そのままストレートで飲むだけ、というシンプルさで、代金を払う段になると「いくらでもいいよ」としか言わない困った店だったのだ。
つまみは判で押したように、中華街で売っている松の実だけ。
いつ行っても美空ひばりのレコードがかかっている。美空ひばりの歌が好きだったそうだ。
壁には東京オリンピックの柔道無差別級で神永を抑え込みで破って金メダルをさらっていったオランダのヘーシンクのスナップ写真やら、女優の桃井かおりをモデルにした大判の写真が飾られていた。

ハワイ生まれの日系2世で、第二次大戦でヨーロッパを転戦し、占領軍の通訳として来日。除隊後に東京の講道館に通って柔道を学ぶうちに日本女性と結婚して中華街にバーを開いたんだそうな。
ヘーシンクは講道館の同門だったのだ。
写真は店のカウンターの中にいる姿を取ったもので、時々遊びに来ていたようである。

ところで、大びんに入ったサントリーレッドの味が抜群だった。
本来は安酒である。舌に乗せるとピリッと刺激が来るような、決して美味しいウイスキーではないはずだが、買い置かれて2、30年も経っているので、“熟成”されてしまっていて、実にまろやかになっていたのである。
瓶のキャップがスクリューだったために、ウイスキーが瓶の中で呼吸出来ていたんじゃないかと思う。
加えて爺さんの昔話はいつ聞いても面白く、飽きない店だった。
3人で出掛けて行ったのだが、初めて連れて行った2人は1度ですっかり気に入ってしまい、帰り道に「レッドの会」を結成して何度も来たい、ということになったのである。
6、7前に閉店してしまったのが残念でならない。

友人は現役時代とまったく体型は変わらず贅肉のない引き締まった体を維持していて、日に焼けて精悍である。
毎日午前中の2時間をテニスに当てて汗を流しているのだという。むべなるかな。
気候温暖な伊予の国で「○○ぞなもし」などと言いながらラケットを振っているのだろう、羨ましいリタイア生活ではないか。
雨の日は読書だそうで、一緒に連れていたお嬢さんが読み終えた文庫本を送ってくれるのを読んでいるとかで、益々羨ましい。
お嬢さんが読む小説だから、割と新しい作家ばかりらしく、若者の当世事情にも通じているようであった。

かつて「永遠のゼロ」という小説が泣けるからぜひ読んで、と手紙で薦められた。
さてはお嬢さんが読んだものだったの、と聞くと図星であった。
小説そのものは良かったのだが、作者がなぁ…、とそこは一致し、お嬢さんも同感のようだった。

また来年も同じ時期に上京するという。何と旧暦で生活していて、年賀状は元旦には届かない。また来年も上京するというが、お互いが暮らしている季節は当然ながら異なっているのだが、「同じ時期」と言えば通じるのである。



旧交を温めあった宴の跡
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「日記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事