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平方録

瑞泉寺の白いフヨウ

光則寺、海蔵寺と回った最後は鎌倉駅と鶴岡八幡宮を飛び越え、二階堂紅葉ヶ谷の奥深くに位置する瑞泉寺へ。

紅葉ヶ谷の名前の通り寺もモミジの名所で、尾根を隔てたすぐ隣には獅子舞の谷と言うイチョウとモミジの紅葉(黄葉)が見事な場所もある。

臨済宗円覚寺派の禅寺で、夢窓国師によって建てられ、作庭された池泉庭園があり、スイセンやウメ、フヨウなど季節ごとの花が咲く花の寺としても知られる。

谷戸の奥深くにあるため、深い森の木立と静寂に包まれた独特の雰囲気の寺で、不便なところに建つ割にはこの日巡った3寺の中では訪れる観光客は最も多い。
ただ、猛烈な残暑に見舞われたこの日はさすがに境内のどこにも人影はなく、帰りがけに参道下の拝観料を納めるところにいた2人連れの女性を見かけただけだった。
拝観料を取っていた寺の人によれば、「本堂前は白いフヨウの花で真っ白になるんですけどねぇ…、今年は暑さのせいしょうか、まだチラホラしか咲かない」と首をかしげていた通り、他の花もほとんど見られず、思いのほか寂しい境内だった。
まさか!? という若干裏切られた気分で山門を出た。
 
 

山門に通じる長い参道は階段になっている

左が苔むした急な旧階段 右の緩やかな傾斜の階段を上る


この寺の塀は五本線の筋塀になっている
筋塀とは定規筋と呼ばれる白い水平線が引かれた築地塀の事で、元々は皇族が出家して住職を務めた門跡寺院の土塀の壁面にその証として5本の定規筋を引いたのが始まりだそう
5本線が最高の格式を表すそうで、5本のほかに3本や4本があるそうだが、5本以外はあまり見かけない


南無秋の悲願の入日赤々と (宮部)寸七翁
山門の柱には月替わりで住職選の名句が掲げられる
 
山門を抜けると木々の間に独特の反りを見せる屋根の本堂と庫裏が目に入る


山門をすぐ右に折れ、庫裏の玄関側から歩き始める 右の建物は南方庵


南方庵に開いた通路から奥の内庭が垣間見えた


花芯の赤いフヨウが1輪ぽつりと咲いていた


本堂への参道の両脇には白い花のフヨウが植えられているのだが、咲いているのはごくわずか…


夏の庭の目玉だっていうのに…
 

本堂の裏手に回るとサルスベリが咲いている


本堂裏手の山を削り穿たれて作られた国指定名勝・夢窓国師の手になる池泉庭園(京都の天竜寺や西芳寺のそれより以前に作られている)


シュウメイギクもやっと2、3輪…


しかも花が小さい気がした


ここはモミジの名所でもある
それにしても、この日回った3つの寺の中で最も咲いている花が少なく、がっかりさせられた


手のひらに豆腐を乗せていそいそと いつもの角を曲がりて帰る  方代
 
山門の前にある歌碑に刻まれているのは山崎方代の歌
ボクも好きな歌の一つで、手のひらに豆腐を乗せてくれる豆腐屋を知っているし、寝泊まりしていた小屋があった場所までの3つ4つの角も目を閉じれば順に浮かんでくる
大正3年に山梨県の右左口村で8人兄弟の末っ子に生まれ、昭和60年に71歳で亡くなっている
唯一のエッセイ集「青じその花」によれば「母が四十八、父は六十をとうに越していた。まさかと思っていたのが生まれてきたのである。霜のきびしい朝であった。父は焼酎の酔いにまかせて、生き放題死に放題の方代と命名してくれた」と名前の由来を明かしている
この寺の住職とは2代に渡って親交があり、今でも寺に「方代研究所」(確かそういう名称だった)が置かれているし、毎年9月第一土曜日には「方代忌」が執り行われているように、この寺と浅からぬ縁のある歌人である
 

瑞泉寺を後になだらかな坂を下りきると広々としたところに出る
池と山際との間に石造りの基壇が3つ、規則正しく並んでいるのが遠目に確認できる
源頼朝が建立した永福寺(ようふくじ)がここにあった
 
永福寺は頼朝が建立した寺院で、源義経や藤原泰衡をはじめ奥州合戦の戦没者慰霊のため、往時の荘厳な様に感激した平泉の二階大堂大長寿院を模して建久3年(1192年)に工事に着手
建設から何年も経たないうちに焼失し、そのまま再建されることも無く荒れ地のまま放置されてきたが、発掘調査の末に堂は二階堂を中心に左右対称で北側に薬師堂、南側に阿弥陀堂の両脇堂が配され、東を正面にした全長南北130mに及ぶ伽藍であることが判明、建物の前の池も全長100mを越す大きなものであることが分かり、史跡公園として整備が進められている
(写真はコンピューターグラフィックスによる想像図)


木陰に入って南風を受けながらしばし休憩する
朝から光則寺、海蔵寺、そして瑞泉寺と自転車で回ってきて谷戸に籠る蒸し暑い空気と市街地の照り返しのひどさに辟易し、昼ご飯を食べたらどこにも寄らず、そのまま家に帰ろうと決めた
 
 
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