『世界でいちばんNGな恋』 感想

『世界でいちばんNGな恋』　（HERMIT）
コンプしたどー！　ついさっきな！
去年の１１月発売だったものを今になって、だとやはり丸戸信者失格ですかねえ。
でもなあ、丸戸先生ももうちょっと欲を出していいと思いますよ。絵師もブランドも選びなよ。
エロゲの販売コーナーでも、普通は「人気ブランド○○の最新作！」とか煽られてるのに
「あの丸戸史明の最新作！」だったんですよ、これ。もっと自信もってくださいお願いだから。

・シナリオ　８０～９０点
がっちり安定してきましたね、ますます…。押しも押されぬ実力派人気ライターの力作です。
極度のお人好しで数年勤めた有名会社のスケープゴートとなり、リストラされた芳村理（おさむ）。
「28歳で高学歴・高身長・無収入」かつHシーン以外CVあり！という、超・異色な主人公です。
で、メインヒロインは母親に置いてかれて一人ぼっちの○学生、144センチの大家さん・美都子。

このへんからもう、「学園もので意味もなく美少女からモテモテ」というエロゲとは
一線を画していることがわかって頂けるかと。誤解を恐れずに言うなら、非常に現実的な世界です。
母子家庭で何とかおんぼろアパートを支えていたのに、母親が男にふらついて家出。
○学生の美都子がどんなにバイトを頑張ったって限界がある。
そこで理が保護者になると申し出るのです。
　　「友達に…なれないかな？」
　　「何度引っぱたいてくれてもいい。だって友達だから怒るんだ」
　　「けれどたまには、笑いあったり、頼ってくれたり、…からかったりしてくれないかな？」
この時点で泣いたよねまず。年齢を重ねると涙もろくなるって本当だな…。
意地っ張りで一生懸命な美都子（愛称トコ）が、
この申し出を受け入れるところからが本当のスタート。
あだ名が「リストラさん」の理が必死で就職先を見つけ、
一生懸命仕事にあたる姿に胸を打たれます。

ネタバレですが、まあ…最初の会社はうまくいかないんだよね。で、初任給もなし。一銭もなし。
そこへトコから電話がかかってきた時の、あの辛さ。
一緒に泣いたね。帰れないよ！　無理だよ！
「大事な人を守る力」って…
気障な言葉や、拳の強さや、ファンタジックな魔法じゃないんですよね。
真っ当な職に就き、こつこつと懸命に働き、社会的な信頼を築き、収入を得ること。
それが現実的な「守る力」なんですよね。おとぎの国でなく、現実的な世界に生きているなら。
しかしまあよくこれを書いたよエロゲで。これプレイした後に学園ものやれる自信ないわ。

タイトルがタイトルなだけに登場人物もどこかしらダメダメで、
攻略ヒロインとは思えないほど生々しい側面も見せます。欠点満載、なのに愛しい。
全員諦めが悪いので、女の争いも熾烈です。笑えるけど。そのへんがヤな人はやめときましょう。

しかし、さすがに麻実とトコのシナリオは共通部分が多すぎだと思いました。
麻実の秘密が判明した後でトコへ行くのはキツい。それは麻実ルートまでとっといてください…。
また、ガキんちょの恋愛じゃないんだから仕方ないんだけども、
麻実とごにょごにょしてからトコルートに進むのもどうかと。
ドラマの展開としては面白いけど、せっかくの理の好感度が…。
テンポよく話が動くので飽きませんが、
そのぶんラストにドカーン！という驚きもありませんでした。
人間それぞれの味や描写は素晴らしいし面白いのですが、やっぱりパルフェの壁は高かった…。


・グラフィック　２０～３０点
ごめん、苦手…
立ち絵はさすがにまともですが、一枚絵は想像していたよりひどかった。
特にＨシーン、見ていられなくてスキップせざるを得ませんでした。で、バックログで読んだ。
画力が低いわけじゃないんですが…。

なんつーか…裸がさあ、30年前の「成人指定のおじさん向け漫画」みたいな。
触りたいとは微塵も思えません。童貞とか、セックスそのものに幻滅するんじゃなかろうか。
うーんと、あれだ。漫画版『バトルロワイヤル』を思い出しました。あんなエロです。

理が抜群にキショくて泣きたくなりました。この主人公、大好きなのに。
塗りもHERMIT独特の雰囲気で、あんまり流行を反映させたものではないんですね。
まあそれは線画がよければ気にならないんだけど…。
…すいません、もうよします…。
いやね、これが丸戸先生の作品でなかったら「ダサい画風だな」で終わってたんですけどね…。

えーと、麻実の立ち絵はいいですよね。
一枚絵だとトコがアパート前で手を差し伸べるシーンかな。


・システム　６０～７０点
スタート画面とか、そこかしこがけっこうダサいです。
ぶっちゃけ、最初に開いた瞬間「ああ、２流ブランドっぽいなー」と思ってしまった。
音量などの調節が大雑把でちょっと困る。それ以外はまあ…普通。
分岐がちょっとややこしい気がします。姫緒のおまけHはいらないんじゃないかい。
夏夜→姫緒→トコ中間エンド→姫緒おまけH→麻実→トコ最終エンド、がお勧めです。


・音声　７０～８０点
キャスティングは文句なし、抜群です！　派手ではないけどいいとこ持ってきましたね。
特に理、麻実、夏夜、佐々木（佐々木かよ）。理のCVがなんだかんだで一番味があったような。
美少女ゲームアワードに「主演男優賞」があったら間違いなく優勝でしょう！
一色ヒカルさんの演技には今まで何とも思っていなかったのですが…今回はかなりキましたね。
うん、これくらいの年齢の役が似合うんだろうな。

BGMはちょっと地味でしたね。
曲数がそう多くないので、いいシーンの度に「あーまたこの曲」と。
ブランド力を考えるとこんなもんなのかな？
OPの『陽だまりコイゴコロ』はトコのテーマって感じでかわいかったです。


総評
信頼の「丸戸」ブランド、社会人向けの純愛ホームコメディ。
脇役の心情描写まできっちりばっちり描ききっており、素晴らしい出来のシナリオ。
正直、絵は「いや、この画風好きだよ」という方でなければ「我慢する」他ないでしょう。

それすら補って余りあるクオリティの物語ですが、現実味がありすぎて辛い人もいるかも。
18歳以上という条件を満たしていても、あんまり若いと実感が湧かない内容だとも思います。
口当たりの良い学園ものをやり尽くし、飽きてきたエロゲーマーの方にお勧めです。
そして、そして…新作はいつですか丸戸先生ー!!!