詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

10年前もやっぱり「タンホイザー」 ドレスデン国立歌劇場 2007年11月13日

2017-09-22 20:57:35 | 日記
昨日観たバイエルン国立歌劇場の『タンホイザー』演出はともかく、演奏は尻上がりによくなっていきました。10年前もドレスデン国立歌劇場が『タンホイザー』を上演していたのですね。キャストは変更があっても強力な布陣だった模様。ペーター・コンヴィチュニーの演出だったらしく、かなり変わっていたようだが、昨日ほどではなかったみたい。それにしても10年前だというのに記憶がほとんどない。

 終演後のロビーにスコア?を持った指揮者の準・メルクルを発見!成田から到着したばかりでないのなら彼に指揮して欲しかった。(リヨン管の来日公演の指揮してたんですね。残念!)横浜の初日を観た友人からは指揮者に対して芳しくない話を聞いていたので覚悟をしていたけれど、第1幕は序曲からお話しにならないような酷さで3回ほど椅子からずり落ちそうになった。第1幕終了後は盛大なブーイングを浴びていたが無理もない。5万円以上もしたチケットを買った観客は泣くに泣けなかったものと思う。このガポール・エトヴェシュという指揮者の経歴をみると、ドレスデンでは指揮した記録がない。二流指揮者といわれても仕方がないキャリアである。

 どうした訳か第2幕、第3幕と尻上がりに調子を取り戻して終わってみれば感動。もちろん指揮者の力であるはずもなく、粒ぞろいの歌手と能力の高いオーケストラのおかげだと思う。オラフ・ベーアが来日不可能となり、アラン・タイトスのヴォルフラム。エリザベートも来日不可能となったデノケの代役で元帥夫人を歌うことになったアンネ・シュヴァンネヴィルムスに替わって日本でもお馴染みのカミッラ・ニールンドが歌った。(彼女の元帥夫人だって本当はありでしょう?サロメを歌うとはいえ)ヴェーヌスのガブリエレ・シュナウトも含め、「サロメ」のキャストが勢揃いという感じ。アラン・タイトスもカミッラ・ニールンドも感動的な歌唱を披露して大満足させてくれた。

 題名役のロバート・ギャンビル、ガブリエレ・シュナウト、領主のハンス=ペーター・ケーニヒといった歌手陣も健闘をみせ、チケットのお値段に見合った歌手が揃っていた。先頃のベルリン国立歌劇場と比較すると大きく違ったのはやはり指揮者である…。ロビーにいたなら、やはり準・メルクルに振って欲しかった。今回は「ばらの騎士」を降ろされた?ので彼の指揮を聴く機会が無いのである。本当に残念。

 大嫌いなコンヴィチュニーの演出。嫌いとはいうものの密かにトンデモ演出を期待している部分もある。全体が彼にしては穏当な演出で、実は少し肩透かしを食らった気分。横浜の初日には演出家がカーテンコールに登場したらしいから日本用に手直しがあったかもしれない。
 

天使が描かれた泰西名画風の緞帳。実はスクリーンと二重写しで、幕が進むにつれて開幕のその絵が小さくなっていくという趣向。ちょっと意味は判らなかった。第1幕は縦半分に切った巨大なお椀のような装置の中でヴェーヌスベルクの住人がタンホイザーの人形を持って彼を弄ぶ。傾斜を利用して滑り台のように滑り降りてくるのは面白い工夫だった。牧童は蝶々というかミツバチまーやというか不思議な存在。ヴェーヌスベルクの住人が倒れるとお椀の装置が割れて、白装束の巡礼達が現れるという趣向。さらに舞台装置が下手と上手に引かれると、舞台前面にはお椀の断面を輪切りにしたような装置が残る。この枠が最後まで固定されていて世界を区切る感じ。

 第2幕は舞台奥に上手の天井に向かって大階段で周囲はブルーの色調。舞台前面のお椀の断面はクリーム色、周囲は紅殻色?でとっても美しいラインと色調で気に入った。第2幕は「タンホイザーごっこ」といった感じで幼稚園のお遊戯会みたい。とっても面白い。ローマへ出発するタンホイザーが階段を上っていくのも印象的だった。

 第3幕だけはトーンが変わっていて黒一色。巡礼は歌舞伎の武田奴みたいな異様なマスクで不思議な感じ。タンホイザーとエリザベートとヴェルフラムが三角関係で、エリザベートはヴェルフラムに抱かれてリストカット。「夕星の歌」は絶命寸前のエリザベートを抱いて歌うという凄まじいもの。

 上手から登場したタンホイザーが匍匐前進で登場。ヴァルフラムはエリザベートの亡骸をコートで隠し、タンホイザーの「ローマ語り」を聴く趣向。ヴェーヌスは舞台奥の階段からアル中のようになって登場。最終的には自殺したタンホイザーとエリザベートをヴェーヌスが抱いて幕。ヴォルフラムはタンホイザーがローマへ出発したのと同じ階段というかヴェーヌスが降りてきた階段を上っていく。なんだか意味ありげな演出だけれど毒がなさすぎかも。プログラムによるとドレスデンの現地では失笑をかったトンデモ演出があったらしいいけれど、さすがに日本版ではカットされたらしい。(まさか酔っぱらったヴェーヌスとかヴェーヌスがタンホイザーとエリザベートの亡骸を抱くこと?別に失笑することでもないけれど…)色々あっても終わってみればけっこう感動的であった。だから第一幕の音楽の生温さが惜しい。なんだったんだろうアレは?

 しつこいけれど、準・メルクルに振って欲しかった。本当に残念。「ばらの騎士」の超目玉だったデノケも出ないし、なんだかケチのついた公演になってしまったみたい。生まれて初めて見たオペラは、26年前のドレスデン歌劇場の来日公演「魔弾の射手」だっただけに期待していたんだけれどなあ…。

2007年11月13日(火) 東京文化会館 18時開演 22時20分終演               


指揮:ガボール・エトヴェシュ 
演出:ペーター・コンヴィチュニー 

舞台美術:ハルトムート・マイヤー 

衣裳:イネス・ヘルテル

タンホイザー:ロバート・ギャンビル
領主ヘルマン:ハンス=ペーター・ケーニヒ
ヴォルフラム:アラン・タイトス 
エリーザベト:カミッラ・ニールンド
ヴェーヌス:ガブリエレ・シュナウト

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