ハムぞーの「職業野球研究所」

~プロ野球がある風景を楽しむ。そんな話をぼちぼちと~

完全ウェーバー制がプロ野球を滅ぼす?? ~熱き野球ファンよりの手紙~

2004-11-12 20:39:12 | 「職業野球研究所・特別調査室」

久々に、「さすらいの釣り師」チヌタクさんよりの手紙が参りました。今回も鋭い提言をされております。論文形式で少し長いですが、全文一気に掲載いたします。
なおブログ開設1ケ月を記念して、チヌタクさんを当研究所「主席客員研究員」のポストでお迎えしたいと考えております。(主席って言うけど、一人しかいないと言う声有り)
※なお、着色は所長の手によるものです。


所長様、秋の荒食いの時期ということもあり、磯や波止での釣りに忙しく、久しぶりのお手紙になってしまいました。今回は、プロ野球の構造から、ドラフト制度を考えてみたいと思います。

挑戦的なタイトルですので、誤解を避けるため、はじめに立場を明らかにしておきますが、僕は完全ウェーバー制支持者です。ただ、球界改革として、ドラフト改革やFA制改革に注目が集まりすぎているようにも思え、あえて、これらの制度を導入することによる弊害について考えてみたいという趣旨です。

結論から言えば、ドラフトの完全ウェーバー制が導入され戦力の均衡化のみが実現すれば、球界は更なる衰退への道をたどるということです。

その理由を考えるために、二つのスポーツに触れたいと思います。サッカーとプロレスです。あえて、球界を他の“スポーツ”にたとえれば、野球の対抗馬に挙げられることも少なくないサッカーではなく、プロレスだと思います。
サッカー界の頂点は日本サッカー協会。競技の普及・育成・強化が活動目的です。Jリーグは、いわば、その下部組織に当たります。一方、レスリング界にも、競技の普及・強化を目指す日本レスリング協会があります。ただ、同協会は、例えば、(株)新日本プロレスリングとは関係がありません。新日本プロレスリング社の事業目的は、そのHPによれば、プロレスリングの興行のほか、不動産の賃貸や、芸能人の出演斡旋、生命保険の募集など。笑ってしまうほど多岐にわたります。

プロレスにおいては、目的はあくまで興行そのものであり、競技の普及・強化はあくまでそのための手段と考えていいでしょう。サッカーにおいては、(例えばJリーグの)興行は手段であり、競技の普及・強化が目的である。と言う極論も成り立つのではないか。もちろん、クラブレベルではなく、『Jリーグ全体としては』という前提に基づく考え方です。

同一スポーツであるにもかかわらず、アマチュア野球団体とは関連を持たず、それどころか敵対し続けてきたプロ野球界は、やはり、プロレスを思わせます。さらに、両者には、面白い類似点があります。一昔前の新日本プロレスリング社を例に取れば、アントニオ猪木、藤波、坂口といった競技者が、社長、CEOなどの役職を占め、社の意思決定を行っています。中でも、猪木氏の発言権が他を圧していたのは言うまでもありません。プロ野球においても、競技者の代表であるオーナー達によるオーナー会議が意思決定機関であり、この中で、一競技者の代表である読売の影響力が絶対的である点も、新日における役職レスラー達と猪木氏を彷彿させます。

当然ながら、新日本プロレスのドル箱カードは、アントニオ猪木戦。ファンは、猪木が、ヒール役のレスラー達を、延髄蹴りや卍固めでマットに沈める姿が楽しみで会場に足を運び、テレビに釘付けになったのです。新日ファン、ほぼイコール、アントニオ猪木ファンである限り、猪木が弱くては、興行的に持ちません。

プロ野球も同様です。王、長嶋や、松井、高橋の大活躍で巨人が勝ち続け、優勝することを期待して、ファンは後楽園・東京ドームに足を運び、巨人戦中継に夢中になってきました。ただ、プロ野球が新日本プロレスを大きく上回る点があります。ヒーローである巨人が、最大のヒールでもあったこと。こればかりは、さすがの猪木氏も、古くは力道山、ジャイアント馬場といったヒーロー達も真似できなかったことです。

勝ち試合は巨人ファンがテレビ観戦し、負け試合はアンチ巨人ファンが観戦するという、スポーツ興行上の魔術のような運営により、視聴率の高値安定が続き、それゆえ、巨人戦のテレビ放映権料も高値で維持され続け、少なくとも、セ・リーグの各チームの経営を支えてきました。この図式を維持するために不可欠の要素が、巨人の絶対的な強さです。負けてばかりのレスラーでは、ヒーローとしてもヒールとしても人気が出ないのと同じ理屈です。ヒーローとヒールの二役を務める巨人は、新日におけるアントニオ猪木以上の絶対者であり、また、そうでなければ、プロ野球の発展もなかったと言えるかもしれません。

読売グループが、当初から、意図的・戦略的にこうした“ビジネスモデル”を作り上げたかどうかは知りません。ただ、改革の必要性は叫ばれる今でも、この構造は基本的に変わっていません。
パ・リーグは、当然、この“ビジネスモデル”の圏外に位置するため、いかに、野球の質を高めても、経営努力をしても、黒字になるわけがないといえます。その象徴とも言えるのが西武ライオンズ。同球団は、綺羅星のごとくスター選手をそろえた80年代の黄金時代以来、常に強豪であり続け、保護地域をカバーするU局にも恵まれ、大都市圏に立地し続けてきました。

1リーグ化に向けた堤氏の暗躍に立腹するプロ野球ファンといえでも、西武ライオンズが、チームを強くする努力や、経営努力を怠ってきたと主張するのは、無理があります。ダイエットすらできないK1ファイター、曙の巨体のように、パワフルではあっても、醜ささえ感じさせる、現在の巨人軍と比べ、80年代の西武ライオンズは、タイプの違うスターに恵まれていただけではなく、緩慢なクロマティーの隙を突き、一気に本塁を陥れた日本シリーズにおける辻選手の走塁に代表されるような、非常に素晴らしいチームでした。

その西武の身売り話が新聞紙上をにぎわす今、明らかに、綻びや陰りは見えるものの、『経営可能なプロ野球界』、つまり、巨人の傘下に発展してきたセ・リーグと一体化したいというパ・リーグ各球団の希望はあまりにも悲痛で説得力に満ちています。

こうした現状、構造を放置したまま、完全ウェーバー制を導入し戦力の均衡化を図ることは、再び新日本プロレスを例にとれば、常勝アントニオ猪木に不公平感を抱いた、藤波や長州、外国人レスラーのファンが公平な試合を求め、結果として、アントニオ猪木の勝率が5割前後になることを目指すようなものではないかと思います。既存の新日ファン、すなわち猪木ファンの激減が予測されるのと同様、プロ野球界においても、少なくとも、球場に足を運びテレビ観戦も続ける巨人ファンは激減するでしょう。さらに、不都合なのは、絶対性を失った巨人は、アンチ巨人ファンにとっても憎悪、従って、“支持”の対象にはなりえません。

周知の通り、すでに、こうした傾向は表れています。ただ、優勝を望める戦力を保持し続けているため、かろうじて、一部の巨人ファンが支え続けているのではないか。また、絶対的な強さは失っても、ドラフトやFA戦略上の巨人の『汚さ』が、皮肉なことにヒールとしての巨人の価値を高め、増大したアンチ巨人ファンが嬉々として巨人の敗戦試合を見ているのではないかとも予測されます。

いずれにしても、巨人が実力的、順位的な凋落傾向を止めることができない限り、長続きする支持層とはいえません。今シーズン、巨人戦中継が10%を切ったことがニュースになりましたが、来シーズン以降、10%を超えるとニュースになる事態に立ち至ることも考えられます。1億を超えるといわれる巨人戦の放映権料が暴落することも十分あり得るでしょうし、そもそも、何が何でも、各テレビ局が、巨人戦中継を継続すると考えるほうが非現実に思えます。

ここで、再び、ウェーバー制に話を戻します。ドラフトにおける完全ウェーバー制の導入と、『巨人に依存しなければ経営が成り立たない構造』の改革とは、実は次元が異なる話です。逆指名や自由枠は、『巨人に依存しなければ経営が成り立たない構造』を支える制度ですので、皮肉なことですが、現在の球界、そして、各球団を支える制度といってもいいでしょう。

自由競争の弊害として、一場問題に表れた裏金の存在や、選手獲得への巨額な投資が経営を圧迫しているとの声もありますが、倫理問題を別にすれば、数億程度の裏金が経営悪化の主要因になることはあり得ないでしょう。眉唾物とはいえ近鉄の赤字が40億円と発表されるような経営状態においては、全選手に一切年俸を払わなくても赤字が解消されないわけですから、対処すべきは、この構造事態であるのは明白だと思います。

巨人に依存しなくても経営できる仕組みへの転換、もしくは、そうした方針の提示とセットで導入されて、はじめて、完全ウェーバー制は正常に有益に機能するはずで、前提となる構造改革ぬきに導入した場合、球界の衰退を招くと思います。

『Jリーグ百年構想』や『Jリーグ規約』を抜きにしては、いかに、川淵チェアマンといえでも、『読売ヴェルディ』を拒否し、なおかつ、Jリーグの発展を成し遂げるという芸当は不可能だったでしょうから。

では、巨人に依存しなくても経営できる構造とはどのようなもので、いかに転換していくかについてですが….少しバテました。また、次の釣りの後にでも述べてみたいと思います。


ありがとうございました。
皆さんはどのようにお感じになりましたか?

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11 コメント

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プロレス[興行]と巨人二役論 (sunrain)
2004-11-13 14:01:30
長文拝見いたしました。

プロレスの興行と比較しながら、(ヒール+ヒーロー)巨人二役論をたてることで『巨人に依存しなければ経営が成り立たない構造』を浮かび上がらせる点。特に

〈同一スポーツであるにもかかわらず、アマチュア野球団体とは関連を持たず、それどころか敵対し続けてきたプロ野球界は、やはり、プロレスを思わせます。〉という一文には説得力がありますね。(もちろん語義定義上のぶれ/個人差を許容範囲内においた場合ですが。)
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sunrain さま (ハムぞー所長)
2004-11-13 20:42:45
ご来所、ありがとうございます。



「強い巨人に勝たないと」というアンチがある限り、巨人は悪役としても強くなければならないと言う点は、現状を見るかぎり、まさに正論と言えそうです。



「パリーグはどこへ歩むのでしょう」ということも大切ですが、一番ファンの多い「巨人はどちらを向いて進むのでしょう」のほうが、プロ野球の命運を握っていると私は考えます。
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一気に読みました (risa-ferunandesu)
2004-11-14 13:50:19
合併反対やナベツネ叩きをしつつ、心の隅に1000分の一ほどの不安感があったのですが(みんなそうだと思います)、新しい視点で明確に論破されていてすっきりしました。

チヌタクさん、プロ野球機構に入ってください。

問題はご指摘された構造が決して計算された戦略ではなく、ながーい時間をかけて自然にできる鍾乳石のように時代とともに築き上げられた構造だという事です。



堤さんも宮内さんも一時はチーム強化に力を注ぎ、スター選手も育てたものの、全然努力しないセの球団に人気や収入面で勝てない事に無力感を感じていたのではないかと思うのです。(もの凄く良心的に彼らの気持ちに寄り添ってみました。それでも合併は許されない暴挙です!)



やはり野球界を一まとめに動かしていく規約が必要ですね。

チヌタクさんの次なるお手紙に期待しています。





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プロ野球70年・・・・ (ハムぞー所長)
2004-11-14 16:35:45
たしかに長きにわたりそのようなシステムで運営されており、金属疲労している事実はあるかと思います。巨人という善玉悪玉二役で奮戦しているのでは、もう支えきれないと言うことではないでしょうか。



時代はまさにバトルロイヤル、ちょっと力を抜くと盟主の座を追われ、こつこつと積み上げてまたリーグ制覇するというようになればいいんですけどね。



過去のしがらみをどのように軟着陸させるのか、はたまたハードランディングさせるのか、議論が必要ですね。

また日本は議論ナシで済ませてしまい、先送りしてしまう傾向があるので、そこらも腹をくくらねばならないのですが、現在の連盟の体制では、まあ無理ですものね。

良くも悪くもカリスマの手で、議論の場を作らねばならないが・・・・。
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アマとプロ (漁師JJ)
2004-11-15 11:33:44
どうも。プロレスブログをやってるJJと申します。

プロレスとの比較、大変興味深く読まさせていただきました。

確かに猪木氏も新日本のオーナー。ナベツネと共通する部分も多いかもです。

確かに現役時代の猪木氏はヒーローとヒールの2役は出来ませんでしたが、

現役引退し、オーナー1本になってからは現場への理不尽な介入からファンの反発を招き、ある意味「絶対的ヒール」になっちゃったんですけどね(苦笑)。



ただ「アマチュア野球団体とは関連を持たず、それどころか敵対し続けてきたプロ野球界は、やはり、プロレスを思わせます」についてひとこと。

日本レスリング協会と新日本を初めとするプロ団体は

決して仲は悪くないんですよ。そこは野球と違うかなと。

ルール、競技方法がプロとアマでまったく違うので野球やサッカーのように一緒にというのはちょっと無理なんですが(笑)

プロアマ間の交流は非常に活発に行われています。

アテネ五輪に新日本職員の永田選手が出ましたが、プロ選手が五輪選考会に出たことも過去ありますし、その逆もまたしかり。

(レスリング協会HPにプロ選手の勝敗記録が載ってるのは僕から見ても違和感がありますが^^)



野球の場合、社会人、高校野球、プロとそれぞれ別の新聞社が実権握ってたり、大会を主催していたりでまとめるのは大変でしょうが

ピラミッド型とまでは言わないものの、統一した組織、簡単に相互間の交流の出来る関係になって欲しいですよね。
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漁師JJ さま (ハムぞー所長)
2004-11-15 22:44:14
ご来所、ありがとう御座います。

「さすらいの釣り師」原稿に漁師さんでピッタリですね。



さて、通常はサッカーと比較されることの多いプロ野球ですが「プロアマの境目」に注目しているところがミソですね。



プロレスとアマレスは全く違う競技ですけどね。



その昔、南海ホークスの2軍が「南海土建」という子会社の社員になり都市対抗野球に出た話も有名です。当時はファームの試合が余り無かった事情があったそうです。



野球のプロアマは昔の引き抜きとかで仲が悪くなったそうです。その弊害で高校生の一茂のスイングをミスターが見れなかったのは有名な話です。



しかし、長きにわたり仲が悪いのは残念なことです。
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目からうろこが落ちました (ルパート・ジョーンズ)
2004-11-15 22:46:37
私の記事でもチヌタクさんのお手紙を紹介させていただきましたので、先ほどTBをお送りしました。



昨日「関西アレ野球ニュース」の渦さんとも話したのですが、根本はやはり讀賣依存が問題であり、これを何とかしないといけないという論旨には大いに賛成です。

ただ、讀賣依存をどうするかという点についてはNPB側と選手会側で意見が一致しているようには思えないんですよね。

今日もNPBと選手会で話し合いがあったようですが、まずはこの点の食い違いを解決することが大事な気がしました。



関係ないですが、もし檻ウミウシが強豪チームになればプロ野球史上空前のヒールがパにできることになりますね。間違ってもヒーローにはなれないでしょうが…
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彼もおそらくは・・・ (ハムぞー所長)
2004-11-15 23:46:06
チヌタク主席客員研究員も、どこかの防波堤の上で皆さんの反応を見て、きっと喜んでいることと思います。

またどこかの川岸か海岸から、研究所にメールをくれることでしょう。



スト回避の条件で設けた今日の委員会では、まず問題点を洗い出すこと、そして選手経営そしてファン3者共通の問題であるという認識を持つことから始めねばなりませんね。



オリ近球団は誕生の経緯から、「愛されない球団」であることは間違いありません。そこで目指すは「ヒール」!

ユニも真っ黒か何かにして、憎らしいほど強くなる。楽天を毎試合「公開処刑」、必ず30点以上取る。



「好き」の反対は「嫌い」ではないです。「無視」です。

アンチも人気と考えてチームコンセプトを考えてみるのも一考の余地ありですね。
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こんにちは (SEABLOG)
2004-11-21 18:50:08
こんにちは。いつもありがとうございます。とてもわかりやすくなるほどと思います。プロレスも人気の低迷にナベツネ氏をヒール役にという話をもとに新しい記事を書きました。またよろしくお願いします。
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SEABLOG さま (ハムぞー所長)
2004-11-21 19:31:41
ご来所、有難う御座います。

私はどうも理論的に整然とした話は苦手で(というものの話は長いですが)、こういう主席客員研究員の投稿は、物事を真面目に考えるいいきっかけになっており、又皆さんにも読んでいただければいいなと、思っております。



またチヌタク主席客員研究員は、本人曰く「さすらいの釣り師」でいつどこからメールが送られてくるかわからないのですが、反響の多さに本人も張り切って次回作を提供いただけると考えています。



今後とも、よろしくお願いします。
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