ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

相談室

2010年06月02日 22時49分34秒 | 小説
「わからないんです」



少年は言った。


相手の女が答える。


「そう、どうして?」

「だって・・・」


少年は黙ってしまった。



しばらくの沈黙の後、少年は口を開いた。


「意味無いじゃないですか」

「意味?」

「そうですよ、何かしたって、結局無駄になるじゃないですか」


少年は子供っぽい声に似合わず、大人びた口調だった。


「そうかな?じゃあ、今君がしてることも?」

「そうじゃないんですか」


女は困ったような顔をして少年を見つめた。



「でも、しなきゃいけないことはあるでしょ?」

「そうですね」

「君は、それも無駄だって思ってるの?」


少年は言葉を詰まらせたが、すぐに答えた。


「出来ないんですよ」

「どうして?」

「わからないんです」


女は続ける。


「したくない、っていうことじゃないの?」


少年は首を振った。


「しなきゃいけないのは分かってます」

「そうなのね」

「でも、逃げちゃうんです」

「逃げる?」

「どうでもいいことばかりしてしまうんです。自分でもわからないんです」



「わからない」を繰り返す少年に、女は強い口調で言った。


「君は、逃げてる自分を直そうとしてないよ」

「・・・・・・。」


少年は黙ってしまった。

女は続ける。


「今の自分を見て、直せる所から直していこう」



言うが早いか、少年は突然叫んだ。


「質問に答えて下さい」


女は驚いて少し身体を引いた。


「僕は答えが知りたいんです、逃げないで下さい」

「・・・答え?」



少年の目はどこか虚ろだった。


「僕はもう何も分からないんです」


女は直感的に悟った。

―――彼は危険だ。


「もう何もかもどうでもよくなってきて・・・そんな自分が怖いんです」



女は突き放すように言った。


「私には答えられない。誰も答えられないと思うわ」


少年は俯いたまま動かなかった。


「その答えは君が決めることよ。他人に決めてもらうものじゃないの」


少年は黙ったまま立ち上がった。

そのまま出口までゆっくりと歩いて行った。



彼は納得したのだろうか。

それとも、何も分からないまま毎日を過ごしていくのだろうか。



女は迷いを振り払い、少年に言った。


「楽しい人生を、ね」


少年は少し微笑むと、静かに部屋を出て行った。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿