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「中小企業・零細企業」の知財マネジメント 【新井モデル】 のまとめ
2010年8月12~18日の間、5回に分けて投稿した「新井モデル」を編集して再投稿します。
皆さんの参考になれば幸いです。
2010年08月12日投稿
おはようございます。知財経営プロデューサーの新井信昭です。
→「地球環境新聞」電子版はこちらです
今日からは、中小企業・零細企業の知的財産マネジメントのコンサルティング実例(新井モデル)を複数回に分けてご紹介します。
新井モデルの対象となるのは、「有限会社後藤金型興業所」です。とても大切な私のクライアントのうちの一社です。ここでは、「後藤金型」と呼ばせてもらいます。
▲後藤金型のキャップと「新井モデル」が紹介されている書籍 photo by 新井信昭
後藤金型は、1970年に現社長である後藤孝氏が創業。現在は息子2人とともに3人が従事する資本金300万円の典型的な「零細企業」です。
→ 「後藤金型」のホームページはこちらです
零細企業でも事業戦略と知的財産マネジメント次第で「ここまでやれる!」ということを、多数の零細企業・中小企業オーナーの皆様に分かってもらうためのご紹介です。
もちろん、ご紹介に当たって後藤金型の承諾を得ています。
後藤金型はプラスチック金型の設計、製作を行っています。エアゾール容器用のキャップを製造する金型製作を得意としています。
日本テレビ「ぶらり途中下車の旅」などのメディアにも好意的に取り上げられ、さらに複数の書籍でも紹介されています。
▲後藤金型を紹介する「日本のモノづくりイノベーション」 photo by 新井信昭
後藤金型と私の出会いは、
新井信昭が知的財産コンサルタントとしてコンサルティングする「東京都知的財産総合センター」のご紹介によるものでした。
「『エアゾールのキャップ』を作ったから、相談にのって欲しい」。それが紹介者の第一声。
最初に見せられたエアゾールキャップは、先の写真にあるものとは違うもの。
コンサルティングと後藤金型による試行錯誤を重ねた結果、先の写真や後藤金型のホームページにあるエアゾールキャップができあがりました。
できあがったエアゾールキャップは果たして売れるのか?の売り込み先はどのように選択するのか?まず、まず販売戦略について協議しました。
さらに、知財権化するしない、権利化するとしたらどのように、出願は単独か製缶会社に共同出願を申し入れるか、等々の知財マネジメント(知財戦略)について検討しました。
具体的な戦略内容は、明日のブログで書きます。
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2010年08月13日投稿
おはようございます。知財経営プロデューサーの新井信昭です。
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昨日(8月12日)に続き中小企業・零細企業の知的財産マネジメントのコンサルティング実例(新井モデル)のご紹介です。
▲後藤金型のキャップと「新井モデル」が紹介されている書籍 photo by 新井信昭
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まず、販売戦略についてです。
詳細は省略しますが、エアゾールキャップの売り込み先は、後藤金型と以前から取引のあった東洋製罐としました。この時点で採用されるかどうかは未知数でした。
次に、知的財産戦略です。
後藤金型のエアゾールキャップは、一見すればその構造が分かります。構造が分かるのであれば第三者に真似される恐れがあります。
真似されるのを防ぐためには特許出願を行うことが決まりました。
先行技術調査の結果、特許性も確認できました。
ここで、私は二つのアドバイスをしました。
■特許出願するだけで十分か?
特許出願はエアゾールキャップの発明を技術的(思想的)に守るために、たいへん有効です。
ところが、特許明細書はその性質上抽象的に書かざるを得ませんので、特許権に入る入らないで意見が分かれる場合があります。
特許権に入るように特許明細書を作成してありますので問題はないのですが、それを理解させるまでどうしても時間がかかります。売り込みにいったとき「検討しておきます」と言われるのがオチ。
そこで、権利でカバーされていることが一目でわかるように「意匠権」を併せて取ることを勧め、これを受け入れてもらいました。
結果として、特許権と意匠権をとることができました。
■どのような内容の特許出願とするのか?
この点、後藤金型の担当者がよくがんばってくれました。
発明の捉え方や特許明細書の法的意味、先行技術との違いなどを細かく説明し、それらを完璧に理解してくれました。
「分からないから弁理士に頼んだんだよ!」とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。
「専門家に任せておけばよい!」と豪語する弁理士もいます。
私は、依頼人と弁理士が一緒になって特許明細書を書かなければ、よい権利は取れないと考えています。
後藤金型の担当者は私の期待を裏切りませんでした。私の説明を一生懸命聞いてくれ、それを砂に水がしみ込むように吸収してくれました。
「新井モデル」成功の一因は、権利取得に対する担当者の姿勢にあったことに疑いを挟む余地はありません。
週明け(8月16日)のブログでは、特許権と意匠権をどのように使ったか、について書く予定です。
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2010年08月16日投稿
おはようございます。知財経営プロデューサーの新井信昭です。
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8月13日に続き中小企業・零細企業の知的財産マネジメントのコンサルティング実例(新井モデル)のご紹介です。
新井モデルで成功した後藤金型はエアゾールキャップの金型製造を得意とする企業。
→ 「後藤金型」のホームページはこちらです
後藤金型のホームページから分かるように、そのエアゾールキャップには「ガス抜き構造」が付いています。
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100円ショップで次の写真にあるようなガス抜き具を見つけました。
▲100円ショップで見つけた「ガス抜き具」 photo by 新井信昭
このガス抜き具はスプレー缶に穴をあけてガスを抜く方式であるのに対し、後藤金型のエアゾールキャップはそれをはめたスプレー缶のノズルを押しっぱなしにしてガスを抜く方式です。
このエアゾールキャップについて後藤金型は、特許権と意匠権を手にしました。この点は、8月13日のブログで紹介しました。
特許権と意匠権は、いわゆる独占排他権であり財産権の一つ。
独占排他権とはいえ、類似品が現れたときにそれを排除することは資金的・労力的に3人で経営する零細企業には無理。この問題をどのようにクリアするか?
自分たちが製作した金型を使ってエアゾールキャップを作り、それを販売していく方法もあるにはあるが、それを自分たちだけの力で行うことは現実には難しい。これもクリアすべき問題でした。
特に中小企業・零細企業オーナーの皆様は、この現実をしっかりと認識してください。特許権や意匠権をとればよい、というのではありません。その使い方がとても大事です。
どのようにしたら最も収益が上がるだろうか? 特許権と意匠権の財産権としての価値(知的資産としての価値)の活用について後藤金型と私は時間をかけて話し合いました。
サプライチェーンやバリューチェーンをどのようにして築くか?
置かれている現状、業界の様子を後藤金型から聞きつつ私は、特許や意匠の制度についてそのメリット・デメリットについて説明するとともに種々の提案をしました。
結論として、金型を売却することによる売却代金と、専用実施権(通常実施権ではない)を売却先である大手製缶企業に設定してロイヤルティを得るという「二重収益構造」を採用することにしました。これが「新井モデル」です。
特許権者の代わりですから、特許権者でさえもその範囲の実施ができないという強大な権利です。
他人の知的財産を尊重するという大手製缶企業の姿勢と理解により、この収益構造が実現。
ご存知の方も多いと思いますが、「専用実施権」とはその設定範囲内で特許権者の代わりに特許発明を独占的に実施できる権利です。
「なぜ、専用実施権なの?それじゃ他の会社にエアゾールキャップを売れないでしょうに。通常実施権にすべきだったのではないか?」などと専門家から良く言われます。
しかし、私に言わせるとその考えは特許法の教科書に書かれている方法。現実的ではない。
なぜ、専用実施権なのか、については、明日(8月17日)のブログで書く予定です。
2010年08月17日投稿
おはようございます。知財経営プロデューサーの新井信昭です。
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8月16日に続き中小企業・零細企業の知的財産マネジメントのコンサルティング実例(新井モデル)のご紹介です。
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▲100円ショップで見つけた「ガス抜き具」 photo by 新井信昭
ここからが、8月16日のブログの続きです。
なぜ、専用実施権なのか?
理由は、次の3つです。
■トラの威を借る(ポリスファンクション)
大手製缶業者に矢面に立ってもらい、類似品の発見やその排除を肩代わりしてもらうためです。
特に類似品の排除について。警告書の送付や訴訟の提起は3人だけの零細企業には重荷すぎます。
専用実施権者は、特許権者と同様に、自社の名義で警告書を送付したり訴訟を提起したりすることができます。
専用実施権者として大手製缶業者がそこに居てくれるだけで第三者に対する抑止力があります。この力を借りようとしたわけです。
■大手製缶業者の販売ルートを活用
3人の会社で独自に販売することは不可能です。大手製缶業者の販売ルートに乗せてもらいエアゾールキャップの普及を図りました。
■大手製缶会社との信頼関係を深める
大手製缶会社とはもともと取引がありました。
通常実施権に比べより権利者に親密な専用実施権を設定することにより、大手製缶業者との信頼関係を深めました。
上記3つのポイントのうち後二者については比較的納得してもらえるものと思います。
最前者の「トラの威を借る」については、専用実施権の設定を考える企業は非常に稀と言えましょう。
このような場合、取引先大手と「共同出願」して「共同権利者」になってもらう方法をとる中小企業・零細企業がたいへん多い。
これは東京都知的財産総合センターや日本弁理士会における2000件を超えるコンサルティングの経験則です。
しかし、私は「共同出願」には断固として反対します。この点も「新井モデル」の一つの特徴です。
共同出願に断固反対する理由は、明日(8月18日)のブログで書く予定です。
2010年08月18日投稿
おはようございます。知財経営プロデューサーの新井信昭です。
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8月17日に続き中小企業・零細企業の知的財産マネジメントのコンサルティング実例(新井モデル)のご紹介です。
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なぜ、大手企業との共同出願に断固反対するのか?
理由は、次の2つです。出願が特許されたことを前提にします。
■他の共有者、すなわち大手企業が特許発明を自由に使えてしまうからです。
貴社と大手企業が特許権を共有しているとき、大手企業は貴社からOKを貰わないで特許発明を自由に使うことができます。法律の規定でそうなっています。
資金力、生産力、販売力のどれをとっても貴社に勝る大手企業が、特許発明に関する製品を(貴社に無関係で)自由に作りそして販売したとしたら、貴社はどのようにして収益をあげたらよいのでしょうか?
その通り、お手上げです。貴社が大手企業と同等以上のビジネスを行うことはほぼ不可能です。
自ら発明しておきながら、蓋を開けてみると儲けているのは大手企業だけ、という図式ができてしまうわけです。
■貴社は特許権の持ち分について、大手企業のOKがなければ第三者にライセンスすることができません。
大手企業にすれば第三者が特許発明を使えば、その分自社の収益が落ちる可能性があります。それでもなおOKしてくれると思いますか?
私が大手企業の知的財産部長なら絶対にOKは出しません。自社の首を絞めることになるからです。
貴社は自分で作っても大手企業との競争に勝てるわけがありませんし、第三者に使わせてロイヤルティを得ることもできません。まさに八方塞がりです。
例外がまったくないわけではありませんが、「共同出願」には上述したような落とし穴が待ち受けています。
なぜ、そのようなことを言うのか?
2000件を超えるコンサルティングの経験に照らすと、出願費用を半分持つから共同出願にしよう」という悪魔の囁きにも似た申し出をいとも簡単に呑み、その結果、困っている中小企業・零細企業オーナーが余りにも多いからです。
今回ご紹介した後藤金型のコメントを、次の「お客様の声」に掲載してあります。ご覧になってください。
→ 「お客様の声」はこちらです
中小企業・零細企業の知的財産マネジメント「新井モデル」は、一応、今日で終わりにさせていただきます。
また、遠からず特集で他の「新井モデル」をご紹介したいと思います。
以上でまとめは終わりです
今日もお読みいただき有難うございました。
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