今日から1週間ほど無職の午後、
桜柄のティーカップで桜紅茶を飲みながら桜乃葉おこしをいただくまるで春みたいな
おやつタイムを、
私は華麗にキメ込んだ。
おもむろに戸棚から取り出したるは砂糖と、
そして例のスプーン。
そう、私は例のこの日を心待ちにしていた。
それが本物かどうか確かめるために放置しておいたのだ。
ほほーう、良い具合に酸化しているではないか。
わりとすっかり、いやむしろたったいままで偶然目にするまで
その存在を忘れていたなんてことがあるだろうか、
いやない。1日たりともないはずだと言いたい。
ポルトガルでは卒業式にスプーンのネクタイピンを付ける伝統があるのだということを、
ついでに思い出しもした。
12月にモロッコの市場で衝動的に買った、銀のスプーン。
まず重みがいい。
柄がちょっと歪んでいるのだが、それがまた手にしっくりくる。
傷もたくさんついているが、角も取れて口当たりも良い。
皿の表に銀製を示す四角い2つのの刻印があるのも洒落ている。
なにより深すぎる皿の部分は何を掬い取ろうかわくわくする。
さらにその皿は軸方向に細長い比率となっている。
また、皿の右側の横っ腹(写真で言うと上の部分)が強く打ち付けられたように微妙に凹み、
楕円の曲線が直線に近い感じになっているのがわかるだろうか。
これがまた細長さを強調しているのだ。
ここで皆さんにスープを飲むところを想像していただきたい。
はたしてどのように口の中に差し入れているのだろうか。
わたしはの場合、
①円形のスープ用スプーンの場合は適当に斜めから、
②楕円型の一般的なスプーンであれば零れないように横から口のなかへ丁重に傾ける。
その他のパターンとしては、
③口をすぼめてスプーンの先っちょから口の中に少し突き入れスープを流し込むというのもあるだろうが、
これはおそらく少数派ではないだろうか。
なぜならば腕が疲れるからだ。
ところがこの銀のスプーンは細長い。
いつものようにスプーンの横から口の中へスープを運ぼうとすると、
口の開口の方が小さいので脇からスープが零れそうになるし、
斜めから挑もうなんて、もっての他も外の所業である。
(ましてや右利きの場合、直線に曲げられた部分が口に当たることになるから液体の拡散リスクが増す)
そこで選択肢としては
③の先っちょから流しこむという食べ方が推奨される。
ところが、さきほども述べたように、この食べ方は腕が疲れるのだ。
付け加えて食べ方としてはオーバーアクションなので、
がっついているとさえ思われかねない。
しかし、後者の問題についてはちょっと待ってほしい。
太宰治の「斜陽」、
主人公のお母様のスプーンの使い方を参照して欲しいのだ。
本来このような食べ方は無作法らしいが、
ヒラリヒラリとスプーンを翼のように扱い上品に食べる様が姿が描かれている。
ともすれば、この銀のスプーンの形態は、
まるでその人物に使われるためにふさわしく成っている、ように感じる。
とりあえず今日のところは、
やわらかい布でふきふきふきして銀本来の輝きを取り戻したのち、
紅茶に砂糖をざっくり注ぎ込んでざぶざぶ混ぜた。
如何にも甘美な手際と香りであったが、
う、うん、まぁそこそこ!
桜紅茶はあんまり好きじゃなかった。
むしろ今後の人生で避けて通りたい奇天烈な代物だな。
妹の彼氏からのホワイトデーの品に勝手に口をつけた口がそう言った。
.