天体望遠鏡

長女の誕生日が近い。
「何が欲しい？」
毎年、我が家ではプレゼントが恒例の行事になっている。
幼いころは、大げさなものではないが、必ず娘二人と家族4人でワイワイ食事を囲んだ。

これは、それぞれが大人になって、それぞれの暮らしがあって、実現していない。
ちょっぴり、さびしいけれど、それはそれで、仕方あるまい。

「天体望遠鏡が欲しい」
「ん？」
「こないだ、プラネタリウム見てきてん。すごいよかった」
小さいころ、行った記憶があるが、はっきり思い出せない。

何か、散髪屋にあるような椅子に寝転がって、真っ暗な天井を見上げた。そんな記憶はある。

釣りに凝り、スキューバダイビングに凝り、スカイダイビングに凝り、3頭のダックスフントを飼う娘。
幼いころは、一人遊びする人見知りっこで、心配していたが、親が思うほど子は心配ない。
どうして、どうして活発になったもんだ。

親が変わってるので、ここはＤＮＡ上、仕方ない。

で、天体望遠鏡って、いくらぐらいするんだろう。
見当がつかない。

「ずっと、それで研究するわけでもないし、すぐ飽きるんちゃうか」
凝りはするが、長続きしない。
家人にはそういった。
しかし、夢があっていい。

米国式の量販店「コストコ」へ別の用事でショッピングに行った。
あった。

デンと置いてあるではないか。
でかい。コンピューターで作動し、交換レンズも５個。横文字でツラツラ書いてある。
面白そうだ。こっちが欲しくなった。

月へ行ったアメリカ人には、身近なグッズなのか？大きな箱で大量に陳列してあった。
約25,000円也。梱包して店から郵送した。

「届いたよ。すごいね。本当にありがとう。夜が楽しみです」
早速、届けた長女からお礼の便り。

「すごいでえ。●×▼※」
夜中にエキサイトした娘から電話がきた。
こちらは、もう酔っぱらって、半分寝ていて、何を言ってるかわからなかった。

「ま、ええ。喜んでるんやったら。ムニャムニャ」
家人と楽しそうな話し声が、宇宙空間にいるような声が耳の奥の方で漂っていた。