GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「28才の別れ」

2008年03月04日 | Weblog
「はい、〇〇商事株式会社です」
「俺だ、今外からかけている。 返事だけでいいから答えて」
「はい、分かりました」
「携帯を変えたのか?」
「はい」
「どうして? 変えたなら教えてよ」
「いいえ」
「教えないということか?」
「はい、そうです」
「うーん、分からないなあ……じゃあ、これから連絡はどう取りあうんだ?」
「ないと思います」
「どういうことだ? もう逢わないということか?」
「はい」
「別れたいのか?」
「そう思っています」
「電話では埒があかない。今夜、××のいつものカフェで待っているから」
「いいえ」
「来ないのか?」
「そうです」
「本当に別れようとしているのか?」
「はい」
「誰かできたのか?」
「いいえ」
「とにかく、ゆっくり話そう」
「いいえ」
「せめて新しい携帯の番号を教えろよ」
「いいえ」
「……じゃあ、今から第三会議室に向かうからそこで話そう」
「いいえ」
「何を云っているんだ? このままではお互いの気持ちを話し合えないじゃないか」
「……私の気持ちはこの5年間、十分伝えてきました」
「では、失礼します」

       ☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「はい、〇〇ですが?」
「私です。今電話ボックスからかけています。話せますか?」
「いいや」
「そうでしょうね。横にはお子さんや奥さんがいるのでしょう」
「そうだ」
「こんな関係を断ち切りたい、そう思ったの。今まで何度そう思ったことか。 でもあなたに逢うと、自分の意図とは違う振る舞いをしまうの。 一人になることがきっと寂しかったと思うの。 愛してくれる人がいなくなる孤独を恐れていたの。 でもそんな自分が哀れに思えてきたの。 昔の私はこんな関係でも、ずっと続けばいい、週に一度逢えればいいと本当に思っていたの」
「……こちらから明日一番でお電話を入れさせていただきます」
「そんな敬語を使わないでよ。あなたらしくないわ。ナナに逢いたい、ナナを抱きたいと以前みたいに云ってみてよ。………ごめんなさい。云えるわけないわね。 困らせて、ごめん。 寒い電話ボックスでこんなことを云っている自分が情けないの……ごめんなさい。 云いたいことも云えない関係を断ち切ろうと決心したの。五年もかかったけど……このままそっと別れましょ。 私のこと今でも好きでしょ? 愛してくれてるでしょ?……」
「……」
「返事くらいしてよっ!」
「…ああ…」
「こんな関係を続けていて私のためになるの? 私の将来まで責任が持てるの? できないでしょ。」
「……」
「実は一週間前、『ジョー・ブラックによろしく』という映画のDVDを見たの。その中でこんなセリフがあったの。

   『好きなものを、ただ奪うことは愛とは言わない。
    愛の本質とは生涯を懸けて相手への信頼と責任を全うすること、
    そして愛する相手を傷つけぬこと』

あなたの私への愛は、この本質とは違っているの。 私の愛も違っていると気づいたの。あなたの愛も私の愛も、生涯を懸けて相手への信頼と責任を全うできないし、多くの人まで傷つけているの。 あなたはこの本質の意味が理解できるはずよ。 私は多くのことをあなたから学んだわ。仕事の仕方から優先順位の付け方、人との接し方や話し方、レポートの書き方から情報処理に至るまで。 社会人として、ここまでやってこられたのはあなたのおかげ。 たとえ他の会社に移ったとしても、なんとかやっていける自信があるわ。すべてあなたのおかげ。 だけど見方を変えれば女として最も美しい時をあなたに捧げたことも事実。……でもそのことは一片の後悔もないつもり、こう言い切りたいの。 そんな別れ方をしたいの。 二人の関係を素晴らしい思い出にしたいの。 お願い、わ、わかって……」
「……」
「明日からはあなたの部の一人の部下として、今ままでどおり接して下さい。…お願いします」
「……」
「本当にありがとうございました。 ……さ、さようなら……」
「……」
「さようなら」
「……わかった……」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。