岐阜の川柳

岐阜川柳社(柳宴)からのお知らせです。

平成21年 多治見市 文芸祭

2010年04月01日 13時17分42秒 | 日記

      多治見市文芸祭  平成22年2月28日

        審査員   大脇 一荘
【文芸祭賞】
一億が語り部となる敗戦忌      太田 良喜

【市長賞】
よっこらせ孤独の二文字背負い込む  北野 朝里

【市教育委員長賞】
花を摘む指に微罪を絡ませて      長尾 茂 

【奨励賞】
実る穂に明日を託して夕焼ける    飯田由美子
日本の原風景に母がいる       位田 仁美
健やかな寝息泥だらけの大器     掛樋 嗣征
難題を避けた奥歯がまだ疼く     木村 英昭
老いてなお母は母なり山の音     倉田恵美子
返事まだ聞けず送り火焚いている   佐藤 リツ
残り火を闇に閉ざさぬ趣味の汗    佐藤 一秋
かたくなに明日へ生きる灯を点す   三戸 素水
同居するつもりもないが母も老い   清水 靜子
変革の時を生き抜く老いの汗     高橋 良子
たそがれて仏ごころが満ちてくる   武田 一虎
イニシャルも愛も崩して巻く毛糸   続木美也子
頬杖をつけば私がよく見える     橋本由紀子
手の平の夢の続きを待つあした    松尾由美子
ロボットは自由の芯をまだ知らず   吉富 廣

【入選】
安らぎが欲しくて里の母を訪う    池村 和子
ななめには開けてはならぬ心の戸   伊藤紀雍子
依怙贔屓ほどの悪さは神もする    鏡渕 和代
仲良しの内は互いに庇う傷      掛樋 絹子
子が見てる背筋はいつも天を向く   加藤 三笑
気負いなく余生を送る墨を磨り    金子 匠果
一票に泣き一票に湧く歓喜      工藤 桂祐
陶芸の心両手に受ける茶器      小林 邦弥
年金を親子で貰う高齢化       佐藤 伸子
派手かしらなどと笑って妻は買い   沢田 正司
アルプスの水若者の音で飲む     鈴木 正
母たちが越えた坂ですわたくしも   住田勢津子
せせらぎを耳に至福の露天風呂    土田 元美
コンセント抜けば寂しい人ばかり   野村 辰秋
上からの目線が語尾を跳ね上げる   播本 充子
子のための布石打たない愛もある   菱田みつ子
生きている実感日々が万華鏡     藤井 益子
わだかまり解けていつもの青い空   堀  敏雄
平穏な老後を壊す認知症       松方 尚義
大空はいつでも夢の現在地      三上 博史

審査員作品     大脇 一荘
真っ直ぐに生きて小石蹴躓く
まだ恩が返せずいのち愛おしむ
幸せは財無く地位もないくらし
選評      大脇 一荘
前回私が審査を担当したときの川柳部門の応募総数は、三二六句でした。それから2年を経た今年は二七〇句と大きく増加しております。内容的にも可なりの充実を感じ喜ばしく思っている次第です。
近来の傾向として、文芸祭への応募は減少傾向にありますが、ここでは逆の傾向が見られるということは、関係者の皆様のご努力と市民の皆さんの意識の高さのためであり心から敬意を表します。
さて、今回の作品には佳作が多く規定の抜句数まで絞り込むのに苦労をしました。入選と選外の境目となる付近では特に神経を使いましたが、最終的な決め手は、句に表現されている生きてゆくための姿勢におきました。
川柳は人間を詠むものです。人間の赤裸々な姿・心・生き様を、自分の心の中にあるフィルターで処理し、五・七・五の形に投影したものだともいえます。その結果読み手の心を波立たせ、共感とか、感動とかを呼べた句、それが佳句だといえるわけです。
感動の無い人生はないといいますが、小さなものから大きなものまで、日日の真剣な暮しの中で起きた自分の心の波動を、五・七・五という短い詩形を通じて、どう読み手に伝えるかが大切であると考えています。
上位入選句はその意味で読み手の心の奥まで届く何かを感じさせた句であるといえます。

入選句を一つずつ見ていきましょう。

【文芸祭賞】
一億が語り部となる終戦忌
戦後も早六四年経ちましたが、戦争中を知っている者には消すことのできない記憶が生々しく残っています。もう二度と戦争をしてはならないということを、みんなが語り部となって次の世代へ伝えなければなりません。
【市長賞】
よっこらせ孤独の二文字背負い込む
「よっこらせ」には、作者の人生が凝縮されており、この五文字から作者の姿が髣髴と浮かんできます。高齢者社会のあり方が問われているようです。

【市教育長賞】
花を摘む指に微罪を絡ませる
美しい花を摘んで心を和ませる。幸せを感じるひとときです。しかし今日までの生き方を振り返ると、これでよかったのかと少しためらいを感じてしまう。人間の微妙な心のゆれを巧に据えています。

【奨励賞】 (奨励賞以下は順不同)
かたくなに明日へ生きる灯を点す
人は人、自分は自分という生き方を通してきた作者。明日へ向けて点す灯も、自分自身の信念に基づくものなのでしょう。
頬杖をつけば私がよく見える
ロダンの「考える人」の姿が浮かんできます。今までの自分、これからの自分の事をじっくりみつめているのかも。

老いてなお母は母なり山の音
お母さんはいつまで経ってもお母さんです。下五の「山の音」が、相乗的な自然の摂理として効いています。

イニシャルも愛も崩して巻く毛糸
編み直すためのセーターを解いているのでしょう。それをまた新しい愛の形に生まれ返らすために。

返事まだ聞けず送り火たいている
お盆に迎えた亡き父・母に相談を持ちかけたのですが、返事を聞かないうちにお盆が終ってしまったのです。
難題を避けた奥歯がまだ疼く
面倒を嫌ったのですが、それが後悔となって奥歯を疼かせているのでしょう。

実る穂に明日を託し夕焼ける
子どもたちも大きく逞しく育って何の心配も無い。穏やかな余生が羨ましいですね。

日本の原風景に母がいる
普段母の存在はそれほど意識しないものですが、原風景にはかかせない存在となっています。

変革の時を生き抜く老いの汗
日本もアメリカもチェンジの時を迎えています。ここで余生を全うするには、汗する努力が要ります。

同居するつもりはないが母も老い
諸種の事情から同居はできないけれど、だんだん年を取っていくお母さんが心配です。親子の情愛が匂います。

たそがれて仏ごころが満ちてくる
人生も黄昏てくると、体力が落ちると共に気持ちも和んできます。仏壇に手を合わせたくもなります。

残り火を闇に閉ざさぬ趣味の汗
このごろは公民館活動が盛んです。新しい楽しみ、新しい仲間を見つけて大いに汗を流しましょう。

ロボットは自由の芯をまだ知らぬ
ロボットには心がありませんから自由を欲しがりません。自由は人間だけの特権です。「芯」は出色。

健やかな寝息泥だらけの大器
末は博士か大臣かという言葉がありました。無限の可能性を秘めた子供の寝顔は頼もしい限りです。
手の平の夢の続きを持つ明日
折角のいい夢が開けの鳥の声で途切れてしまいました。その夢をしっかりと握り締めて明日に期待しましょう。

これ以外の入選句もなかなかの佳作が揃っていましたが、句数の制限もあり紙一重の差で賞から洩れました。悪しからずご了承下さい。それほどレベルの高い作品が多く楽しく選をさせていただきました。
この文芸祭を通じて、川柳が持つ魅力をたくさんの皆さんに知っていただき、今年より来年、来年より再来年と、より多くの佳作が寄せられることを心から願っています。


平成21年 土岐市 文芸祭

2010年04月01日 13時16分09秒 | 日記

    土岐市文芸祭    平成21年12月12日

文芸祭賞
 十を知り百を夢みて待つ明日         松 葉  隆

市長賞
 ふる里の路地に昭和の風が舞う        堀  敏 雄

教育長賞
 切れそうな絆に今日もぶら下がる       水 野  建

優秀賞
 たまさかの出会い予期せぬ愛になり      長 尾  茂 

 熟年に足りない色を模索する         肥 田 宏 子

 思慕を秘めやがて別れに抱く余情       毛 利 まさ女

 千の風抱いて至福の輪に溶ける        岩 前 久 子

入 選
 戦争を風化させない体験記          伊 藤 千 枝

 人間の知恵がもたらす温暖化         梅 田 周 作

 血税で嬉しがらせるマニフェスト       加 藤 舞 女

 記憶ある間の詩を残すペン          金 子 匠 果

 プライドがまだ邪魔をする定年後       嘉 本 昭 子

 逢えそうなそんな気がして待つ星夜      鬼 頭 笑 子

 おとなりへ欠伸回して平和論         木野村 忍

 踏ん張った大地で明日の夢ひろげ       桑 原 千 絵

 砂利道でくすくす笑う足の裏         河 野  桂

 耐えてます今日で十日の無言劇        斎 藤 幸 子

 桃山の時代を繋ぐ土岐の猪口         天虫庵 桑 山

 言いたくは無いがと膝を寄せてゆく      三 戸 素 水

 手のひらに貴方のぬくみ残る日々       柴 山 みき子

 勝ち取った記憶が薄い選挙権         武 山  博

 一票の重さ知ってる軽いペン         田 中 久 元

 磨くより錆びないようにする加齢       中 島 翠 花

 苦い苦い薬舌禍の果てに飲む         成 瀬 雅 子

 古里の香りを残す無人駅           林   正 美

 たんぽぽと宇宙へ飛んだ旅日記        平 瀬 敬 子

 詫びながら叱って母を歩かせる        藤 吉 政 春

 指だこが陶師の半生物語る          水 野  一

 老いてゆく私を笑う古時計          和 田 あきを


【選 評】
小 林 映 汎

 川柳は人間をテーマにして、そこに渦巻く題材を、ユーモアを交え時には風刺を絡ませて十七音字で表現する短詩型の文学である。
句材を探る目は、時には側面からまた裏面から据えてこそ、句意の深い作品が出来る。
今回は前回を上回った参加を得て、また質の高い作品に接し、その一句一句に秘められた余韻等を味わいながら色々と教えられた。
言葉を選び、感性を磨いて更に良い作品を来年度も期待する。

文芸祭賞

十を知り百を夢にて待つ明日   松葉 隆

人の生き様をズバリ突いた作品である。数字を文脈の中に絡ませ、夢のある明日へ生きる思いを、さり気なく表現され川柳の一要素であるユーモアを秘め、句意の深い作品に仕上げている。

市長賞

ふる里の路地に昭和の風が舞う  堀  敏雄

遠い日へ過ぎ去った昭和、然し未だ古里には、原風景のままの路地が様々の佇まいで残されている。
平易な文脈の流れの中に望郷の念が寂しく描かれている。結語により句意を深めた作法は見事である。

教育長賞

切れそうな絆に今日もぶら下がる  水野 建

多面的な視野で句材を探り、異を突いた見事な作品である。文脈の中に風刺を絡ませ、ユーモアを交えた深読みの出来る作品は、読み手に共感と感動を与える。これぞ川柳の真髄を究めた作品であろう。


平成21年 可児市 文芸祭

2010年04月01日 13時14分39秒 | 日記

     可児市 文芸祭    平成21年12月13日

文芸祭賞
 東京に空しく老ひぬ矍鑠と       広 見   金子 閑山

市長賞
 ケアプランだまって母は聞くばかり   瀬戸市   勝見 孝雄

教育長賞
 いつからか家で聞くだけ盆踊り     各務原市  海野まさこ

奨励賞
 軍人勅諭ところどころをまだ覚え    筑紫野市  和田あきを

 エコというブランドが今風を切る    羽島郡   堀 敏 雄

 世襲では票の重さが身に付かず     大垣市   伊黒 敬雄

 ご長寿と後期で揺れる高齢者      下恵土   三戸 八郎

 まだ食える賞味期限と猫にやる     安八郡   傍嶋 斌二

 店員に聞けばどれもがお買い得     鳩吹台   荻原 善治

 もう八十まだ八十と四股を踏む     川辺町   加藤かつみ

入選
 バイキング孫の躾を買って出る     岐阜市   下里 正臣

 バスツアー夫唱婦随のみやげ物     土 田   山本 順一

 風鈴も音を忘れた熱帯夜        美濃市   池村 和子

 故郷の草いきれさへ懐かしい      兼 山   川合 淳子

 晩学に右脳たっぷり空けておく     各務原市  葛西 麻絵

 ちょくちょくと俺の記憶は千切れ雲   岐阜市   松尾 美峰

 犬猫の写真が主役年賀状        矢 戸   高野 徹

 ダイエット朝食抜きの測定日      八百津町  伊藤 隆雄

 気は前期嫌な後期の保険証       瀬 田   陣岸 高義

 訃報欄年で憶測する死因        養老郡   伊藤 利枝

 下駄の緒も馴染み踊りも弾みだす    東白川村  三戸 素水

 花束をそっと抱くよう介護され     岐阜市   安藤 徏

 お悔やみの言葉を迷う百二歳      本巣郡   川島 宏子

 西瓜切る西瓜嫌いも数に入れ      若葉台   高須 善信

 夏の絵の中に溶け込む郡上節      郡上市   野田まさお

【選 評】
               杉 山 海苔風

 今回の応募者は前回より三名多く、前回は前々回より六名多くなっていました。
 この文芸祭に応募される方が、微増とはいえ増加していることは、地域文化の発展を願う者として、大変心強く喜ばしく思います。
 前回はいろいろ注文をつけましたが、この度は特に申し上げることもなく、ご精進の賜物とご同慶に耐えません。
 作品の質も大変良いものが目立ちました。また、「川柳らしさ」・「これぞ川柳」という句を数多く見ることができ、大変結構なことと思っております。

《文芸祭賞》
東京に空しく老いぬ矍鑠と

(評)大都会の一隅にはこんな思いの人もいる。達者で、財もそこそこ。だが、愚痴でも悔いでもない空虚を感じる。寂寞とした老境を詠んで余すところなし。

《市長賞》
ケアプラン母は黙って聞くばかり

(評)ケアを受ける立場で何が言えよう。今度の支援のあれこれを話してくれるが、黙って聞いているだけ。だんだん子と距離ができる。

《教育長賞》
いつからか家で聞くだけ盆踊り

(評)気力体力どちらも、この頃とみに弱って。とりわけ気力が、昔を偲んで踊り囃しを口ずさみながら。はなやいだ太鼓に指を打つ。

《奨励賞》
軍人勅諭ところどころをまだ覚え

(評)ことが軍人勅諭ときては、骨の髄までしみ込んでいる。寝ても醒めてもうわ事みたい。

エコというブランドが今風を切る

(評)水道高熱エコならざるはなし。まさに世はエコノミー時代。寿命は延びてますが。

世襲では票の重さが身に付かず

(評)選挙民の怖さが分かるかな。票のためなら土下座もいますよね。七光りではわからんよ。

ご長寿と後期で揺れる高齢者

(評)ご長寿でと敬老日、高齢者保険と、取っていく、全く年寄りの手は捩りやすいものね。

まだ食える賞味期限と猫にやる

(評)まだ食える・微妙ですな。猫にやる、自分じゃ食わぬ、苦労人ですようまいことをいう。

店員に聞けばどれもがお買い得

(評)アルバイトの店員なら何と言いますか。正社員ですねきっと、店長に聞いたのと違う。

もう八十まだ八十と四股を踏む

(評)いるのですこういう老人が、でも長寿社会はこうでないと、四人で一人支える時代だ。

 どの句も川柳味あふれる佳吟です。人生の重みが感じられます。人間を謳うのが川柳本来の使命ですから、この調子でいきたいだすね。お年でないと出来ない句がほとんどですが、それなりの味はよく出ています。
 若い気で作っても、それは自分じゃない、頭で作らないで、お年なりの句を作ってください。本物が一番尊いものですから。

《入選》
バイキング孫の躾を買って出る

(評)見ていられないのです。親がいても言わぬから、ここは一番子育てのポイントを。

故郷の草いきれさえ懐かしい

(評)生まれ故郷の懐かしさはこの草いきれにさえも、古里の草はやはりここだけの匂い。

晩学に右脳たっぷり空けておく

(評)意気やよしです。学びて老いず。三歳にして早からず、八十歳にして遅からずですよ。

気は前期嫌な後期の保険証

(評)若い気でいたいのに、何でわざわざ後期保険証などと。厭味もいい加減にしてよ。

お悔やみの言葉を迷う百二歳

(評)「お年に不足もございませんわね」とも言えず、「もっと長生きを・・」も何か取って付けたようで、考えてみるとなるほど、お悔やみの一言がずっと浮かびません。こんなところも川柳は見逃さないのですね、いい句です。

 まだまだ入選にしたい句がありましたが、枠もあることで止むを得ず、割愛しました。
 今後もこのまま続けてください。


平成21年 羽島市 文芸祭

2010年04月01日 13時11分27秒 | 日記

       羽島市文芸祭     平成21年12月6日

(文芸祭賞)
去り際の愛を悟った後ろ影         岐阜市  毛利まさ女

(市長賞)
蓮池の蛙菩薩の顔になり          岐阜市  河野 桂 

(教育長賞)
控え目に生きて曇りのない鏡        揖斐郡  草野 稔 

(県議会議員賞)
幸せの風は意識をさせぬまま        各務原市 田中美枝子

(市議会議長賞)
凛として不戦を誓う母の愛         春日井市 加納 金子

(文化協会長賞)
戦争を語り続ける墓がある         鶯谷高校 田中 和来

(入 選)
人生の紆余曲折で刻む皺          羽島市  森崎 敬玉

脱皮する時だと思う雨つづき        海部郡  柳  圭

転居地に初代の薔薇が無事根付く      豊橋市  石橋 紀子

劇中の景へ重ねる旅プラン         岐阜市  岩前 久子

高齢の真っ只中にゐて孤独         羽島市  秋江 久子

労いの言葉が汗を風にする         岐阜市  林  正美

正論をかざし貧者の中にいる        羽島郡  木野村 忍 
握り飯愛を入れるとでかくなる       羽島市  渡辺 眞弓

郷土芸いま山里の情に触れ         岐阜市  松葉 隆 

うれしい日ヘアートニックかけすぎる    養老郡  細野 晃一

一病に生きる喜び気付かされ        岐阜市  藤吉 政春

財産は無いが笑顔の丸い家         各務原市 水野美代子

ストレスを晴らす薬の酒を呑む       常滑市  村田 旺堂

枝豆のうちはビールも大人しい       各務原市 葛西 麻絵

百人の味方に勝る妻の笑み         可児市  丸山 重司

キャラメルの少し焦がした恋の味      羽島市  日比野愛子

割り切れぬ奇数に揺れる句読点       岐阜市  山添 静子

目立たない位置で支える気ばたらき     岐阜市  金子 匠果

人並みってどのへんかしら今の位置     岐阜市  郷 喜美子

主婦の目に一円玉が落ちている       岐阜市  大野三七吉

愛の文字閉じた瞳の中に浮く        岐阜市  長尾 茂

逆算の余生へ旅のスケジュール       海津市  佐藤 伸子

切なさを秘めて別れの手を握る       岐阜市  堀  宏

思惑が違う握手を軽くする         羽島市  菱田 光子

誕生日あなた好みの花も添え        岐阜市  斎藤 幸子

雨はもういやだと影も拗ねている      各務原市 鬼頭 笑子

それなりの野心まだあり老後にも      筑紫野市 和田あきを

試されているのか年をまた聞かれ      各務原市 武藤 良夫

一人っ子に少し太めの躾糸         各務原市 嘉本 昭子

ぬくい絵が母の曲がった背にある     美濃加茂市 藤橋 多美

あなたへの一筆箋はよく動く        常滑市  松本トシ子

明日への希望見つけた空の色        各務原市 阪本 幸子

母の歳母に詫びたい事ばかり        揖斐郡  今井 極子

肩を揉み合えば一と日があたたかい     神戸市  松下 弘美

バラの苗植えて気になる庭の隅       揖斐郡  豊田 美見

白球よ舞い上がれ今ゆめ載せて       岐阜工高 飯沼 貴規

(佳 作)
それぞれに好き嫌いある花の蝶       加茂郡  山戸 素水

アーケード昭和のままの町が病む  大垣市 成 瀬 雅 子

DNA母の愛には超えられず        岐阜市  中島 晋吾

目に香る菊一本をお裾分け         半田市  鈴木 恒夫

この指に止まれと老いの独り言       岐阜市  安藤 徏

ぬか床の母から子へと繋ぐ味        羽島市  後藤 栄子

晩学に染まり余生のネジを巻く       大垣市  水野 建

またかよと互の愚痴を聞き流し       羽島市  今枝 昭子

汗掻いて励む姿勢に明日がある       大垣市  伊黒 敬雄

かずら橋ゆらす人あり貸す手あり      岐阜市  山本はるゑ

悠久の流れの中で顔洗う          岐阜市  柴山みき子

疲れると分かっていても振るうちわ     岐阜工高 森  健人

僕の声届いてますか夏の夜         岐阜工高 小川 準市

自分にもできないことを人にいう      岐阜工高 浅井 一輝

変わらない駆け抜けた日々手の中に     岐阜工高 松田 直也


総 評
 第三十六回の文芸祭は多数の方々より応募を頂き、特に高校の部に於いては前年対比五十名増の参加があり、ご指導頂いた先生方及び関係各位に厚くお礼を申し上げたい。
 川柳は俳句と同じ十七音字で詠む短詩型の文学である。俳句の自然諷詠に対し川柳は人間諷詠であり、日常の暮しの中の喜怒哀楽を五・七・五の言葉のリズムに乗せて渦巻く題材をユーモアを交え、又ずばり突く風刺を、文脈の流れに絡ませて人情の機微を表現する、これが川柳である。単なるその場の描写、説明に終始するのではなく、深読みが出来る、こんな作品を期待する。

選 評

〈文芸祭賞〉              

去り際の愛を悟った後ろ影           毛 利 まさ女

 二人の仲も何時か波が立ち、去り行く後ろ姿を見て、初めて真実の愛を悟った。別れの切なさ、辛さを平易な文脈の流れの中にさり気なく詠み込み、結語により更に句意を深めた作法は見事である。

〈市長賞〉

蓮池の蛙菩薩の顔になり            河 野  桂

蓮池に浮かんでいる蛙も、何時しか菩薩のような顔になってきた。蓮池の蛙に託して、人の世の生き様・人情の機微にも触れ、ユーモアと風刺を絡ませて心温かい作品に仕上げている。

〈教育長賞〉 

控え目に生きて曇りのない鏡          草 野  稔

鏡に自分の思いを委ね、軽いタッチの措辞の流れの中に風刺も絡ませて、川柳の一要素である「軽み」を巧に表現している。非常に共感を覚える作品である。

〈県議会議長賞〉

幸せの風は意識をさせぬまま          田 中 美枝子

気が付かないまま意識もなく過ごしてきた今、「真の幸せ」とは?
風を擬人化して問いかけ、更に結語により作品の句意の深さがよく表現されている。

〈市議会議長賞〉

凛として不戦を誓う母の愛           加 納 金 子

誰よりも戦争の辛さ、悲しさを知っている母が、厳しく不戦を訴えている姿には心を打たれる。措辞の流れの中に母の愛が凛とした形で表現され、共感を呼ぶ作品である。

〈文化協会長賞〉

戦争を語り続ける墓がある           田 中 和 来

墓へ託した自分の思いを、力強く訴えている作者の姿が目に浮かぶ。平明な文脈の流れの中で戦争の悲しさを語り続け、読み手に感動を与える見事な作品である。

   評  小 林 映 汎

審査員作品
                   小 林 映 汎
躓いたあたりで探す道標
雨の日は雨のこころで聞く挽歌
風下で聞いた策士の裏話

                   堀  敏 雄
いそいそと出かけうきうきして帰り
ご迷惑ですか今でも片思い
三人とも福耳でないお札

                   齋 藤 佐代子
愛すると生まれる勇気だってある
判断の扉も二人なら軽い
氷砂糖が自然に溶けたような嫁


平成21年 岐阜市 文芸祭

2010年04月01日 13時09分34秒 | 日記

     岐阜市 文芸祭    平成21年11月29日

文芸祭賞
 上り鮎まだ故郷の川は澄む      岐南町  木野村  忍 
市 長 賞
 鎮魂のひと時へ止む蝉しぐれ     岐阜市  北 川 健 冶
市教育長賞
 大輪の花を咲かせたこぼれ種     羽島市  菱 田 光 子
秀 逸
 横顔に隠した花の自己主張      岐阜市  岩 前 久 子
 過去は過去いま乾杯の声高く     岐阜市  毛 利 まさ女
 温もりで余白を埋める愛の詩     岐阜市  長 尾  茂 
入 選
 岐阜発信信長の意気今に継ぐ     岐阜市  佐 藤 晴 美
 奢られた飯に主張を翻す       可児市  金 子 北 陽
 我を捨てて輪のさわやかな風拾う   岐阜市  猪 狩 栄 一
 補聴器が雑音ばかり聞いている    岐阜市  山 添 静 子
 背伸びした恋が別れを連れてくる   岐阜市  林   正 美
 明日へと夢をつなぐや車椅子     岐阜市  小 林  豊 
 疲れ鵜は鵜匠に顔を寄せてくる    岐阜市  三 輪 信 夫
 折れそうなこころに温い一行詩    岐阜市  森   妙 子
 黄昏の旅路孤独な道ひとり      岐阜市  松 葉  隆 
 晩学の母の手帳にない余白      岐阜市  武 藤 敏 子
 糸を吐く命も吐いて繭の中      大垣市  成 瀬 雅 子
 一幅の絵に納めてく総がらみ     岐阜市  中 島 晋 吾
 サングラス掛けて他人のようにいる  岐阜市  後 藤 嶺 子
 古日記開ければこんな日もあった   可児市  金 子 閑 山
 抱き上げた母の軽さに歩が迷う    可児市  丸 山 重 司
 下町にある常連の指定席       岐阜市  安 藤  徏 
 知りたいが聞くに聞かれぬ深い訳   神戸町  若 原 惣 一
 湯の宿の下駄夫婦ではない会話    海津市  佐 藤 伸 子
 晩学を続けて今日の詩に馴染む    岐阜市  大 野 三七吉
 膨らんだ夢虹色のシャボン玉     笠松町  堀   敏 雄
 夢捨てた鬼には深い訳がある     福岡県  和 田 あきを
 二日酔い今日は拗ねてる万歩計    岐阜市  渡 邊 北 穂
 何気ない言葉の綾に読む本音     岐阜市  齋 藤 幸 子
 ライバルの癖を見抜いてからの策   各務原市 鬼 頭 笑 子
 平温に生きて正面少しずれ      各務原市 田 中 美枝子
 助走ばかりしてきて歳をとりました 美濃加茂市 藤 橋 多 美

佳 作
 故郷によく似た水の味がする     岐阜市  田 中 和 来
 情念が時空を超えて石になる     池田町  草 野  稔 
 理解者のはずの伴侶も今は敵     岐阜市  加 藤 峰 子
 遺稿集手にとり偲ぶ彼岸明け     八百津町 伊佐治 知 子
 臍繰りに手をつけ買った補助食品   愛知県  石 橋 紀 子
 駄作だが捨て切れず未だ持つ一句   高山市  松 井 紀 男
 嫁の癖味方変えれば長所だよ     大垣市  木 村 和 彦
 自転する地球に育つ四季の花     海津市  小 林 邦 弥
 不器用な手つき介護へ焦れている   岐阜市  早 坂 冨士子
 篝火に踊る鵜の喉技で絞め      岐阜市  土 田 元 美
 信念を曲げぬ老父の丸い背(せな)   大垣市  松 井 漁 夫
 指定席すまして乗れど飛騨ことば   飛騨市  盤 所  宏 
 久し振り父さんが居る縄電車     岐阜市  可 知 百合子
 住み馴れた岐阜へ感謝の句を捧げ   岐阜市  尾 田 米 女
 昼寝覚め右脳左脳のもつれ合い    大垣市  早 崎 美弥子
 お目出度う百二十年県都岐阜     岐阜市  河 野  桂 
 突風に負けぬ男の面構え       岐阜市  森 川 春 女
 長電話ヤカンの蓋も疲れ果て     関 市  鵜 飼 道 楽
 みょうがぼち名代の味が妙に受け   岐阜市  高 橋 千代子
 ころころと言葉ひとつを温める    愛知県  松 尾 由美子
 牛歩でも今日より明日へ夢を持ち   可児市  井 藤 秋 月
 衆生のいのちを育む滝の音      美濃市  岡   哲 心
 ねぎらいの鮎を呑ませている鵜匠   郡上市  野 田 まさお
 好き嫌い超えて空気に似た夫婦    養老町  細 野 晃 一
 雪中の蔵で目覚めている新酒     岐阜市  今 井 きよ子
 金の要るカードばかりを持ち歩く   岐阜市  坂 井 八 郎
 スイレンの池に善人顔揃い      岐阜市  国 井 幸 子
 わが人生消しゴムきかぬ曲がり角   岐阜市  藤 吉 静 江
 今日はどう朝一番に見る鏡      北方町  川 島 廣 子
 葛藤を静かに消していく夕陽     岐阜市  辻   清 子
 ふる里の川に煩悩捨ててくる     各務原市 葛 西 麻 絵
 雑念の踏絵を白く塗り替える     大垣市  水 野   建
 聞き上手だけで終った話下手     各務原市 森   瑳千子
 勝ち逃げを味わって知る痛快さ    岐阜市  松 山 惣兵衛
 年賀状だけの知人が徐々に減り    岐阜市  堀   宏 
 プラス思考心の老いに待ったかけ   大垣市  松 居 澄 江
 白髪増す父へやさしくなる言葉    各務原市 広 井 康 枝
 一椀の米に昭和の涙あり       岐阜市  加 藤 シズカ
 待つ人と困る人への雨予報      岐阜市  井 川 英 子
 あれあれで会話成り立つ老夫婦    羽島市  今 枝 明 子
 物忘れ個性なんだといたわられ    岐阜市  水野   一 
 手の平でおどる亭主に負けた振り   岐阜市  木田   漣 
 選ばれて批判する側される側     岐阜市  林   正八郎
 妊婦服今の私にちょうどいい     各務原市 古 川 松 美
 老眼を知らない各種説明書      各務原市 嘉 本 昭 子
 花活けてしばし安らぐ主婦の朝    揖斐川町 今 井 極 子
 能舞台人の心を静しずと       山県市  岡 田 祐 子
 
   総 評 
 
 川柳は庶民の生活の中から生まれた日本独特の文芸であり、日常生活の中で喜怒哀楽を、五・七・五のリズムににせて十七文字に取り入れ読む人に共感を与える此れが川柳である。
 今年度は岐阜市制百二十周年記念に当たり市当局も此れに因んで各所で行事を行って居り、文芸祭の川柳応募作品にも記念に関する句が多数寄せられたが、残念ながら優秀作品は見当たらずちょっと期待がはずれ、がっかりのてい。
 応募作品は僅かながら前年度を上回り少し安心した次第である。
 作品も高齢者が多く次の世代を担う後継者の育成に力をそそぎ、投句者の倍増を目指したいものである。次回は更に多数の作品を応募されるのを待っている。
(安田 緑風)
   選 評 

文芸祭賞
  上り鮎まだ故郷の川は澄む          木野村忍

 何十年振りで故郷を訪れた句である。誰しも故郷を忘れることはなかろう。
 久し振りの故郷の川は昔と少しも変わらず上り鮎の姿も清流にくっきりと映している。まだ故郷の川は澄むと詠んだところの(まだ)!!が、ぐっと此の句を引き締め故郷を訪れ感激に浸った様子を旨く掴んだ優秀句である。

市長賞
  鎮魂のひと時へ止む蝉しぐれ         北川健治

 不戦の誓い次代へ ― 今年も八月十五日六四回終戦記念日に日本武道館で全国戦没者追悼式が催される。参列者は勿論、その時刻には全国一斉に黙祷が行われる。その時刻喧しく鳴き続けていた蝉も戦争の悲惨さ、戦争で亡くなった人々を弔う為一瞬鳴き止んだとの句意である。戦争に参加したと思われる作者は、心の壁にずっと刻み込まれた戦争の虚しさを戦争を知らない次代の人々に伝えねばと心から叫んでいる。この句は選者ばかりでなく、人々に共感を呼ぶ見事な一句である。
市教育委員会賞
大輪の花を咲かせたこぼれ種           菱田みつ子

 十七字の流れるような措辞の中に人間形成に感銘を与える句である。句意を説明するまでもなく、奥深い内容をさらっと詠んだところに花の一生が刻まれていて秀句。

秀 逸
横顔に隠した花の自己主張            岩前久子

 正面の顔と側面の顔とは、まして心も同じでない事は、神仏は別として人間を始め、どんな生物にも存在していると思う。正面は美しく咲き、世間の目を楽しませてくれる花も、自己主張は持っている。それを正面に出さず、横顔にそっと隠し持っていると、花の優しさを作者は代弁している。奥ゆかしい作品である。

秀 逸
  過去は過去いま乾杯の声高く         毛利まさ女

 過去にどんな辛苦が育ったか、今最大の喜びの鐘が鳴り響く。此の瞬間乾杯の声も喉が破れる程に張上げ美酒の旨さに我を忘れる程の感激の句意、作者の熱気が選者にも伝わってくる快心作である。

秀 逸
温もりで余白を埋める愛の詩           長尾 茂

 心が温まる句で心の余白か或いは書面の余白か、気落ちした心身に気遣う人の温情がひしひしと心に伝わって来る。新しい発想ではないが、五・七・五の形態を旨く文字に絡ませた秀句。
                                       (安田)
   招待作品
                   森 崎 敬 玉
失敗の山で拾った宝物
底辺の中で見つけたこの気楽
なんとなく心が弾むいい予感
大海を知らぬ果報な井の蛙
無駄骨を抱いて明日へ生きる糧

審査員作品
                   小 林 映 汎
 転がったままで戻らぬ僕の過去
 同列に並び噂の中に居て
 勢いで割った仮面をまだ抱え
 反論を一列ごとに読み替える
 戯画を描くその真ん中に僕が居る