箔屋町だより

-ギャラリーこちゅうきょオフィシャルブログ-

忘れ得ぬひと-6

2017年10月06日 | ブログ

中秋の名月(10月4日)は、都下でも楽しめたエリアが多かったようです。8日(日)は二十四節気「寒露」ですが、確かに一雨ごとに肌寒さが増しています故に、今年後半は一段と旧暦の季節感に合う感がしてなりません。

お手伝いを任されました「2016年度日本陶磁協会賞・金賞受賞記念 重松あゆみ・伊藤慶二展」は、無事、好評裡に会期を終えることが出来ました。今週はその「戦後処理」に終始して、ようやくひと段落つき、目下この駄文を綴っております。重松・伊藤両先生から親しく謦咳に接する好機となりましたし、展覧会期中は多方面からご来駕が少なくなく、久しぶりに拝眉することが出来た諸氏との再会もありと、大いに得るところのあった一週間でした。今後の私儀にとっては、有形無形、種々の糧となるであろうとは、漠然とながらも大いに楽しみであります。

日本陶磁協会様の機関紙「陶説」の最新号(2017年10月号=通巻775号)を紐解きますと、辻清明先生(1927-2008)の回顧展に合わせた座談会、ご令嬢の辻けい先生をはじめ、同先生と由縁の深い4人の方々による、先生を偲ぶ好座談会の記録が掲載されています。私には未知の「辻清明像」が、実にハートフルに展開されていますので、大いに興味深く拝読いたしました。

東京国立近代美術館工芸館にて、『陶匠 辻清明の世界-明る寂びの美』展が11月23日(木)まで開催されています。忙中閑あり、休日を利用して朝一番乗りで現地入りし、同先生の代表作と、先生が収集された古美術の逸品を飽かずに拝見いたしました。総点数は多くはありませんが、精選された出品リストは見事のひとこと!拝見して実に面白く、時の経過も忘れるほど、充実感に満ちた展観といえましょう。

辻清明先生!真っ白の総髪、トレードマークというべきタートルネック・シャツにジャケット姿で、壺中居と当ギャラリーには、本当に頻繁にお見えになられました。入社して早々に、先生に拝眉したとき、その重厚かつ厳しい御風貌と、強烈なエネルギー=オーラの発散に当てられて、暫くボーっとしたことを、今でも鮮烈に覚えております。非常に強い眼力の持ち主であられました。発せられるお言葉も、黒白(こくびゃく)はっきりの高速調ですので、慣れるまで少々時間がかかったこともまた事実です。

それでも、鷹の如き眼光一点張りでなく、時折現われる、何とも言えない滋味=人間臭さ=やさしさが、先生とお会いするたびにはっきりと看取されますので、非常に懐の深い先生であろうとは、今でも変わらぬ我が「辻清明像」の一端です。

平成5年(1993)の1月から3月にかけて、NHK・ETVで「やきものを楽しむ」が放映され、広く好評でした。この番組のMC=講師を辻先生ご夫妻が務められ、私も全編を通じて拝見しました。両先生の作陶のご様子、全国各地の窯場の探訪、先生ご自慢の古美術コレクションの紹介、この三本柱で構成され、制作態度と編集も上々の出来でした。放映に合わせて、同番組のテキストが上梓されましたが、辻先生ご自身による校正が行き届いた素晴らしいもので、私も購読して大いに参考になりました。

※辻清明先生に関する、基礎的な文献は、現時点では豊富とまではいえません。そのなかで、上記のNHKテキストは色々な意味で、貴重かつユニークな内容ですので、大いに推奨するものです。何らかのかたちで、復活出版して欲しいものです。

月日を完全に失念しましたが、上記NHK番組放映後の或る日、多摩市連光寺に在る辻陶房に、お使いで辻先生をお訪ねしました。

事務的要件が済みますと、辻先生には珍しく、ご機嫌が麗しく、「kiyo君、折角だから、観たいものがあれば言ってごらん、なんでも見せてあげよう!」との天使の如きお言葉を賜りました。NHKでも取り上げられた、先生自慢の御自作=伊賀窯変ぐい呑をリクエストするのに、全く躊躇いたしませんでした。先生のお顔が益々明るくなり、収蔵庫からワザワザ出していただいたそれを、私は目にし、手に取って大いに驚きました。TV映像とテキスト画像からは全く把握出来ない大寸法で、存在感、質感、そして美=「明る寂び」そのものに、完全にノックアウトされました。全く誇張ではありません。

先生曰く、「どうですか?」、私儀答えて曰く、「先生、欲しくて仕様がありません!」、先生、「あ、そう、フフフフフ…。」

全く無遠慮の極みで、先生は辟易かつ大苦笑されたのですが、その瞬間の先生の笑顔の素晴らしさよ!。その後、何度も何度も先生の竜顔を拝し、お話をうかがいましたが、当時を超える笑顔をついに一度も拝むことは叶いませんでした。

上記展覧会場の第5展示室に、辻先生を真正面から捉えたポートレート、モノクロで晩年のものと拝察しますが、5葉展示されています。

「陶の巨人 辻清明」を撮ったものとして異彩を放ちつつ、「孤高の探索者」ともいうべき人間像が自ずと放射されているとみるのは、うがち過ぎでしょうか?

会期中はもう一度足を運び、このポートレートに対峙して、辻先生のことを自分なりに研究・解釈してみようと考えております。(by kiyo)