Berryz仮面（１）

－２００９年９月１７日。

赤羽橋芸能事務所内にあるダンスレッスン室に、Berryz工房メンバーが集まっていた。

「先生遅くない。ウチらが遅刻したら怒るくせに」
携帯電話を操作している夏焼雅に話しかける、徳永千奈美。

室内を退屈そうにぐるぐると歩き回る千奈美に、キャプテン清水佐紀が近寄る。
「なにやってんの、ちい」
「お散歩。だって暇なんだもん」
「ストレッチやってなよ」
「もうやりました」

ため息をつき、退屈つぶしになるものはないかと自分の鞄を手に取る千奈美。

全身鏡の前でじっとしている嗣永桃子に菅谷梨沙子が話しかける。
「桃、髪伸びたね」
「でしょ、今伸ばしてるんだ。ショートとロングどっちが似合うと思う？」
「うんとね……」
「どっちも似合う？　そうだよね。ありがとう、梨沙子」
「まだなにも言ってないって」
苦笑いをしている梨沙子の背後で、千奈美が悲鳴をあげる。

千奈美に駆け寄る須藤茉麻と熊井友理奈。
「どうしたの」
「この前使ったＴシャツ、洗濯すんの忘れてた～」

鞄からＴシャツの入ったしわしわのビニール袋を取り出す千奈美。
顔を背ける茉麻と友理奈。
おそるおそるＴシャツの匂いをかぐ千奈美。思い切りむせる。

茉麻と友理奈、素早く逃げる。
千奈美、ビニール袋を手にメンバーと追いかけっこを始める。

そこへ、マネージャーの竈馬玄子が入ってくる。
「ずいぶんと楽しそうじゃない」
メンバー、立ち止まり玄子を見る。
「おはようございます」
「ダンスの先生ね、遅れるみたい」
「もう遅れてます」
不満げな表情の千奈美。
「仕方ないでしょ。例の食品倉庫襲撃事件、あれのせいで新幹線が止まってるって」

３日程前から国内の食品倉庫が次々と何者かに破壊され、食材を奪われているという事件についてはメンバーも知っていた。

「悪いけど、もう少し待ってて」
玄子、出ていく。

茉麻、鞄から本を取り出す。
「一緒に読む？」
「あ、これ。この前言ってた本？」
茉麻と友理奈、壁に寄りかかり一冊の本を二人で読む。

雅と千奈美は、過去の振り付けビデオが収納された棚の前に立っている。
「みかんの振りビデオだって。見たくない？」
「ウチ、リゾナントが見たい」
千奈美、ガラス戸を開けようとするが鍵がかかっていて開かない。
「やめなよ」
雅、『無断持ち出し禁止』の貼り紙を指差す。
キャプテン、桃子、梨沙子もやってくる。
「懐かしい。ピリリがある」
桃子、興奮して雅を叩く。
「痛いって」
「みや、『正夢』の振りビデオだって！」

本を読んでいた茉麻、立ち上がり棚の前に行く。
「ウチも観たい、正夢」
首を横に振るキャプテン。
「鍵かかってて開かないみたい」

茉麻、ガラス戸に手をかける。
「よいしょっ」
鍵、ぶっこわれ、開く。
笑顔で『正夢』のラベルが貼られたDVD-Rを取り出す茉麻。
「ほら、開いたよ」
メンバー、顔が引きつっている。

「スイッチオン！」
プレーヤーにDVDをセットし、テレビの電源を付ける桃子。
「この頃の愛理、楽しみじゃない。きっとまだ子供の顔だよね」
「うん」
うなずく梨沙子。
画面に映像が流れ始める。
人が沢山映っている。

残念そうに友理奈を見る、茉麻。
「これ、違うじゃん」
「なんの映像？」

「これ……」
震えた声で語り出すキャプテン。
「エルダークラブのリハ映像だ……」
メンバーの顔が曇っていく。

－世間をあっと言わせた出来事。いや事件。
2009年3月31日。
エルダークラブメンバーがハロー！プロジェクトを卒業。
と、同時に全員が行方不明。いまだ誰も発見されず。
これによりハロー！プロジェクトも半年間活動を自粛。

同年9月。
半年経ち、ハロー！プロジェクトがやっと活動再開。
レッスンも開始されたのだった。－

「ごめんごめん」
玄子が入ってくる音に驚き、慌ててDVDの電源を切るキャプテン。
「やっぱ今日先生、来られないみたい」
「じゃあ今日は……」
「うんでもせっかくだから、あれやってもらおうかな」
「あれ？」
梨沙子が首をかしげる。
「来月渋谷のミュージアムに飾る用のメッセージ。本当は明日やってもらおうと思ってたんだけどね。オッケー？」
「はーい」と一斉に返事するメンバー。
玄子の見てない隙に、DVDを元に戻すキャプテン。
「それじゃ、会議室に集まって」
ダンスレッスン室を出ていくメンバー。