日本のプルトニウム保有量の推移

前回、高速増殖炉「もんじゅ」の再開の目的はプルトニウム保有量を減らすためではないかと書いた。

原子力発電を行うとプルトニウムができる。原発からでる使用済み核燃料にはプルトニウムが約1%含まれている。


http://www.kepco.co.jp/plu/5.html

このプルトニウムは日本の方針では再処理で取り出されるため、使わなければ保有量はどんどん増える。プルトニウムは核兵器の原料になるため、その保有、利用は国際的に監視、制限されている。日本でも余剰プルトニウムは持たないという方針を取っている。

では、日本のプルトニウム保有量はどのくらいなのか?
内閣府原子力委員会で「我が国のプルトニウム管理状況について」として毎年プルトニウム保有量が公表されている。

内閣府原子力委員会・分野別情報 平和利用
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/sitemap/bunya17.htm

2000年末から2008年末までの保有量の推移は次の通り

日本のプルトニウム保有量の推移

右軸(青線)未処理プルトニウム量、左軸は国内、海外保管分
(画像クリックで大きく見られます)


国内分、未処理は全プルトニウム量(単位 kgPu)海外保管分については、2006年から核分裂性プルトニウム量(kgPuf)のみの公表になっているので、このグラフでも海外分は核分裂性プルトニウムのみに統一した(単位 kgPuf)。
最新のデータは2008年末時点で、

国内保管 9,696kg 海外分(核分裂性Puのみ)25,212kg 未処理 137,000kg

海外保管分の全プルトニウム量は、2008年末で約37,000kgと推定される。(2005年で海外での再処理契約は終了したので、海外保管分はその後増加しない)
国内保管分、未処理分共にプルトニウム量は増え続けている。プルトニウムの廃棄も利用もないので、当然の結果だろう。

平成19年末における各国の自国内プルトニウム保有量


(画像クリックで大きく見られます)

日本の使用済み燃料中のプルトニウム量はアメリカ、フランスに次ぎ第3位。未照射プルトニウム量は8.7t(8700kg)Puと少なくなっているが、これは自国内にあるプルトニウム量。海外保管分を含めると、約45t(45,000kg)Puと推計される。これを見ると日本はプルトニウム大国だということがよく分かる。

プルサーマル推進ともんじゅの再開方針が決定した、平成17年(2005年)の原子力政策大綱の公表。この年、北朝鮮が6カ国協議の中止と、核拡散防止条約 (NPT) からの脱退、さらに核兵器保有宣言を行った。同じく2005年、NPT(核拡散防止条約)運用検討会議が開かれ、核物質の管理の強化が急務になった。日本では今まで原子力発電を行った結果、プルトニウム量はどんどん増えていた。国際的な核不拡散を推進する立場の日本としては、どうしてもプルトニウムの保有量を減らさなければならない。

プルトニウムを含むMOX燃料を通常の原発で使用するプルサーマルで少しはプルトニウムを減らすことができる。プルトニウムの増殖を行わない高速炉の開発には時間がかかる。もんじゅを再開すれば、研究目的としてプルトニウムを消費することができる。

原子力委員会の資料に下記のような文がある。

 高速増殖炉は、その転換比(新しい燃料を作り出す効率)を柔軟に変えることができるため、余剰プルトニウムを発生させないように転換比を下げて運用できるとの観点から、プルトニウムを軍事利用させないという核不拡散性向上の手段としても有効な原子炉です。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/koso/siryo/koso10/siryo02.htm#03

また、平成9年の高速増殖炉懇談会(第8回)議事要旨によると、「もんじゅ」の転換比を(炉心設計変更せずに)転換比0.5位までまで変動は可能。となっている。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/koso/siryo/koso09/94.htm

つまりもんじゅでは、燃料となるプルトニウムを”増殖”させるのではなく、約半分に減らすことも可能。今回もんじゅを再開させたのも”増殖”ではなく、プルトニウムを減らすためだろう。

こう考えると、平成17年を境にプルサーマル、もんじゅの再開など重要な原子力計画が進んだことが理解できる。

問題は、なぜプルサーマルを行うのか、もんじゅを再開するのかをを国民に向け十分な説明を行っていないということ。再処理・直接処分にかかるコスト、核廃棄物処理、核不拡散防止の観点など、幅広い議論が行われたとは思われない。すでに積み上がったプルトニウムをどうするのか。また、今後発生するプルトニウム、核廃棄物をどうするのか。こういった議論がなされないまま、温暖化問題を理由にして原子力利用が推進されている。発展途上国での原子力開発計画が増えているが、今後数十年で廃棄物等、同じ問題に直面するだろう。

日本のこれからのエネルギー戦略をどう立てるのか。国際的な核不拡散にどう取り組むのか。様々な情報を公開、分析し、議論することが必要だと思う。


関連リンク
原子力政策大綱
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki.htm
外務省 核兵器不拡散条約(NPT)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/
核不拡散科学技術センター
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/
電気事業連合会 原子燃料サイクル
http://www.fepc.or.jp/present/cycle/pluthermal/index.html

高速炉でプルトニウム処分/米ロ、共同計画で合意
http://www.shikoku-np.co.jp/national/international/article.aspx?id=20071120000194&ref=rss
高速炉導入の道筋と新法人への期待(pdf)
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/data/051005o.pdf

「夢の技術」課題山積み もんじゅ、14年5カ月ぶり運転再開
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/51001391c4aeb0bd642d1163ecafe6c3
<温暖化対策>原発20年間にさらに20基必要 エネ庁試算
http://blog.goo.ne.jp/fun_energy/e/be97ec4e9a67075b425502152d606b86


2010/5/19 更新
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