ファミリー メンタル クリニック

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「軽度発達障害」概念の混乱

2007年03月14日 | 児童精神医学
先日沖縄市職員に講義した際も強調したが、軽度発達障害という用語は曖昧で何に対して軽度と表現しているのか分からない。DSMという診断基準にもそんな用語は出ないし、国の法律でも発達障害と記されているが、[軽度]発達障害とは表現されてない。きっと重度の発達障害と考えられているグループがあり、対比されているのだろう。しかし、ADHDの児童が問題となる場合には[軽度な問題]ではなく、結構重たい問題となることもある。ボクなんかは皮肉で重度な軽度発達障害もありますと言っている。

単純に軽度はIQで問題がない場合と考えてみる方が分かりやすい、と思ったがそうでもない。
よくよく読むとアスペルガー症候群の診断基準にはIQが70以上と明記されているわけではない。
言語発達、対人関係のパターンや、こだわりなど自閉症的な症状から診断する。
IQが60でも50でも自閉症の症状が目立ち、言語発達が問題なければ、アスペルガー症候群と診断することになるのだろう。
(診断「学」的な理解を述べている。)

しかし話が分からなくなるのは高機能自閉症という医学用語だ。
高機能とはIQが70以上(おおかたこのような定義だ)で自閉症と考えると良いのだろうが、
今度は軽度発達障害の「軽度」と「高機能」の対比で意味が分からなくなる。
ここでいう高機能とは、何でもこなせるとか、世間で言う頭が良い、とは少し意味合いが違うようだ。

色んな本で諸説ある。
当初読んでいた文部科学省関連の本では軽度精神遅滞は 発達障害に含まないようなニュアンスだった。
従って、法律でも軽度精神遅滞はどこに位置づけられるか不明だが、だからと言って支援は特別に必要だ。

中にはIQが50程度で普通学級に在籍し不適応を来たし、はじめてIQ検査で、この子が如何に困っていたのかが分かることがある。

特別支援教育は恐らく軽度精神遅滞や境界知能の児童を前提としていない。
教師も教育委員会も発達障害の定義を理屈できちんとしないまま 特別支援教育を更に誤解し、ヘルパーを派遣することが特別・支援教育と考えている節がある。

IQ55で勉強が困難な児童に学習障害と診断することは難しい。
そんな風に困っている児童に中学生も後半になり診断書を作成し特別支援教育対象でヘルパー申請をしても、
それなら特殊学級ですねと、教育委員会側が事務的に判断しないとも限らない。

親は学校が診断書をもらってこいというので、提出した。
しかしふたを開けると思いもよらぬ展開が・・・・そんな風にならないか心配だ。



(最初からIQの問題があり、本人に無理に勉強をさせるよりも、社会で役立つような知識技術を指導し、就労できるように教育する方が良い場合がある。決して特殊教育が悪いと言っているのではない。最初から児童の将来に役に立つだろうと思える方法を進言しているのかどうかを、ここでは問いたい。)

全くの個人的な考えをいえば、やはり特別な支援が必要という意味で、軽度精神遅滞児童も特別支援教育対象と考える方がよいと思う。ただし諸法律との整合性の問題はあるのだろうが、現場は現場であって、法律は国会で修正が出来るはずだ。

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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
平成19年3月15日文科省の通達 (御願不足)
2007-05-15 14:01:44
匿名で失礼します(こんな名前を名乗るのはナイチャです)。先生のブログ、毎度読んでいる精神科医です。さて先生がこのブログを書かれた翌日、その批判をかわすかのように文科省が「発達障害」の用語をめぐって通達を出しています(URL参照)。支援法との整合性を図ったとされていますし、悪評高き「軽度」を名指ししたのはアッパレですが、逆にすべての垣根を取っ払う態度に出ています。再度失礼いたしました。
(御願不足=uganbusuku)さんどうも (なかまた)
2007-05-15 15:19:15
コメントにあった文章は以下の通りです。確かにこのblogを読んでいるなと笑ってしまいます。

平成19年3月15日
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課

 今般、当課においては、これまでの「LD、ADHD、高機能自閉症等」との表記について、国民のわかりやすさや、他省庁との連携のしやすさ等の理由から、下記のとおり整理した上で、発達障害者支援法の定義による「発達障害」との表記に換えることとしましたのでお知らせします。



1.  今後、当課の文書で使用する用語については、原則として「発達障害」と表記する。
 また、その用語の示す障害の範囲は、発達障害者支援法の定義による。
2.  上記1の「発達障害」の範囲は、以前から「LD、ADHD、高機能自閉症等」と表現していた障害の範囲と比較すると、高機能のみならず自閉症全般を含むなどより広いものとなるが、高機能以外の自閉症者については、以前から、また今後とも特別支援教育の対象であることに変化はない。
3.  上記により「発達障害」のある幼児児童生徒は、通常の学級以外にも在籍することとなるが、当該幼児児童生徒が、どの学校種、学級に就学すべきかについては、法令に基づき適切に判断されるべきものである。
4.  「軽度発達障害」の表記は、その意味する範囲が必ずしも明確ではないこと等の理由から、今後当課においては原則として使用しない。
5.  学術的な発達障害と行政政策上の発達障害とは一致しない。また、調査の対象など正確さが求められる場合には、必要に応じて障害種を列記することなどを妨げるものではない。