ファミリー メンタル クリニック

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要するにひとりごと・・・

県民へのうつ病キャンペーンの前にもっと自分の仕事をしなさい!!

2007年02月24日 | 精神保健・医療行政
1月に「うつ病による自殺予防キャンペーン」を沖縄県がおこなった。非難のための非難はしないが、コードのように福祉部局内でキャンペーンという言葉を使うのは良いが、対外的に使う言葉ではないだろうと思う。
そんな批判のための批判と思われかねないことはパスして、個人情報を守りつつ沖縄県保健福祉行政を担う若いケースワーカーへの苦言を呈することにする。

先に述べたように沖縄県は特に働き盛りの中年男性の自殺が多い。それを予防しようと言うことだ。無くなった方からは何も聞くことはできない。しかし治療中であったり、未治療であったり、うつ病での自殺がある一定以上の割合であろうと予想は出来る。

だから沖縄県は県民に啓蒙活動=キャンペーンを行っているのだ。

しかし、先日、生活保護申請のため事情聴取に来た福祉事務所の担当者は最悪だった。
どこで、そう思ったかというと・・・

この方はうつ病で薬は全部で何錠飲んでいるのですか?と言う質問だ。
その質問の前に、L(という抗うつ薬)を最高量の200mg処方してます。とボクは伝えている。
いや、これが、患者さんの家族で老齢のお母さん等なら分かる。
いやしくも福祉行政に携わり、安くもない給与を税金からもらっている者だ。

毎日薬を飲んでいるのですか? とその次の質問だ。
ムカ! と来たが、患者さんが生活保護を受給できるように事情を説明するのがボクの仕事だと言い聞かせたものの、さすがに「あなたうつ病のことを全く勉強していませんね!!」と注意した。
その若い担当者は少したじろいだようだが、はい不勉強で・・・と正直なら良いと言うことでもないだろう。
外来の患者さんも数人待っていて、結局その担当者に長い時間説明をしたので、診察が終わったら7時半を過ぎてしまった。

結局、この訳の分からないケースワーカーのために予約をしている肝心の医療が必要な患者さんが後回しにされるのだ。(担当者への話を30秒で終わっても、30分かけてもクリニックに収入は0。きっとそんなことは考えてもいないだろう。)

確かに5時半頃に・・・お話をと答えたが、その若い担当者は「まだですか?」と自分の時間を確かめるので、話を聞くことにした。たいていは忙しい中、患者さんの診察が優先の病院なので、腹が立とうがデートの約束があろうが、これまでの担当者は未だですか?なんて聞く人はいなかった。

患者さんというのはつらい思いをしながらも2時間も待つのだと言うことを学んでもらっても良かったかなと今頃になり反省している。


若い、まだ大学を卒業して5年も経たないくらいの年齢なのだろうか?

そんな病気で就労も家事も出来ず鬱々と暮らしている人の気持ちを考えるだけの最低限の想像力さえ持ち合わせてないようだ。
想像力がなくても、事務所に帰れば教科書もあれば、上司も先輩もいるだろう。

更に、この人には厳しく説明しないといけないとここまで言うべきか迷ったが、色んなことを話した。
この患者さんは、生活保護申請中で病院に行けないと思っている。(うつ病の認知であったかもしれないが)
高熱が出た。のどが痛い。扁桃腺に膿が出ている。針を焼いて自分で膿をつつき膿を出した。病院に行くお金もなかった。

想像力のかけらもないケースワーカーにその話をした。
一歩間違うと大量出血した危険性もある。
人は追い込まれるとどんなことをするか分からない。
ましてやうつ病で否定的な思考をしやすい状態では。
(患者さんは精神的な疾患だけでなく他の科でも複数診療を受けている。きっと生活保護でなければ、国民保険料を支払い治療費を支払うだけの収入を得ることは無理だろう。)


また、この方 だるくて体も重くて、炊事も出来ないようですけど、どうしてですか?とうつ病の症状を全く理解していない。更にその担当者は、でもその方はニコニコして元気そうでしたよ・・・ととどめの一発を口にした。

この若い担当者を責めるのは簡単だが、このblogの最初に戻る。
沖縄県はうつ病による自殺予防キャンペーンを行っている。
有り難い話だ。
しかしボクが指摘したいのは、県民の啓蒙よりも、自分たち公務員(県と市町村と)が全員うつ病のことをまずは知って欲しい。
どこの部署でもうつ病の症状と向き合う。
自分の上司だったり部下だったり、自分や家族等が罹患することもある。

県民にうつ病について啓蒙する前に公務員自身が勉強して欲しい。
少なくない数の公務員がうつ病で我々のクリニックを訪れる。
しかし、聞くと上司も全くうつ病の理解がない。
県民の命を守る前に、身内のことから先にやってよ! と言いたい。
県民自殺予防キャンペーンの前に、公務員自殺キャンペーンで実績を出してくれ!と言いたい。

先の福祉の担当者は案外サイテーでなく平均的なケースワーカーではないかと思うと怖くなった。公務員採用試験を合格する優秀な人たちではあるが、それと病気で弱っている人などの立場での福祉業務を遂行する能力とは、どうも別の能力のようだ。

精神保健センター所長もうつ病に力を入れている。県教育委員長も精神科医が就任した。
まずは隗より始めよである。

注)これも誤解されると困るのだが、ある特定の人物をblog上で非難しようとしているわけではありません。
その担当者は福祉領域でなければ県職員で優秀かもしれないし、それはボクが判断することではありません。
言いたいことは、県の中枢部はキャンペーン何かする前に 自分たちが勉強して欲しいという、そこにつきます。


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6 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
言葉にならないですね。 (まさしく)
2007-02-25 19:19:22
 先生の今回の記事を何度も何度も読み返して・・・。やはりコメントせずには、いられませんでした。 
 行政のこれが現実かと思うと!
 怒りも悲しみもを通り過ぎて呆れてしまいます。
 この福祉の担当者は、想像力も乏しければ、共感する力もないのでしょう。
いやしくもその任に就いた時には (在宅介護人)
2007-02-25 22:26:17
建設も福祉も障害関連も、まずはその知識を学んで仕事に取り組む、それが職業人としての最低限の心得ではないでしょうか? 先生の憤怒に共鳴します。今、生活保護認定を厳しくして予算を削る方向に流しているのが政府・行政の手法だということを横に置いても、上司の指導不足をまず感じました。そして疑問。例えば要介護認定についても、医師の意見書以外の診療情報は他言せぬことになっているはずですが、一市職員が対象者の病歴を確かめる権利はあるのでしょうか?それは越権行為というものではありませんか?申請に基づき状況を考慮するのがあたりまえじゃないかと思うんですが。
何かが違うのですよ (なかまた)
2007-02-26 12:53:31
たとえ若いケースワーカーであっても、上司はいるのです。
でも最近の若い人は(こんな発言をするのも妙ですが)困っても上司にノウハウを聞かないようです。人にものを聞くことが出来ないようです。

また、公務員試験に合格するくらいだから極めて優秀なのでしょう。でも自分から問題を解決していく力は低いように思われます。
そもそも自分でモノを考えることが出来ていない、想像力がない。

・・・と若い人を責めることは簡単です。
でも今回の問題は個人の資質もあるでしょうが、公務員に対する啓蒙活動が全く奏効していない現状だけはわかりました。
雇用・労働環境の類似性 (kaetzchen)
2007-02-26 15:24:31
として,秋田県も中年男性の自殺率が高いことが挙げられます。要するに家庭を今から持つ・持ったばかりの大黒柱が,いきなりリストラにあって未来を塞がれた形でのうつ病発症 → 自殺(未遂)というケースが多いのではと思われます。大都会でも大阪府は電機メーカーの不振のせいで大量のリストラを受け,大黒柱が次々と「人身事故」を起こしていく……。そうなる前の「防波堤」としてケースワーカーは存在するはず。

でも,公務員試験に受かる人に「問題解決能力」を求めるのは,なかまたさん,ちょっと酷ですよ。彼らは目の前に差し出された参考書や問題集を(その中身がたとえ大ウソであっても)丸暗記できる能力しか持ってません。

いつだったか神戸新聞で取り上げられた,給食調理士の「逆学歴詐称」問題だって,役所側の本当の狙いは「労組対策」にあります。つまり給食調理士に労組の活動家が多いため,学歴を高くすると染まってしまう確率が高いから,だそうです。<神戸市の知り合い@市役所 曰く

結局,神戸の給食調理士「逆学歴詐称」問題と同様,採用したケースワーカーへの啓蒙活動がまったくと言ってなされていないということは,どうも沖縄県だけの話ではなさそうです。
見るべき資料も見ていない? (アルト)
2007-02-26 20:38:59
 私は自分がうつ病当事者で、担当部署はまったく違いますが一応人と接する職の公務員の末端(年度ごと契約更新の嘱託。専門職でも)ですから、下記のようなものが関係部署には厚労省から出されていることは押さえています。

「地域におけるうつ対策推進方策マニュアル」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5.html#1
 
 活字になったものは、関係部署には配布されているはずだと思うんですけど。仕事に当たって見るべき資料も見ていないということもあるんじゃないでしょうか。
 あと、例え上記資料を見逃したとしても、うつ病の人のケースを取り扱うなら、昨今ネットでいくらでも最低限のうつ病の基礎知識はえられるはずが、その努力もしてないと思われ、同じ公務員として身が痛いです。

 が、公務員職場でのうつ発症率の高さもなかまたさんの言うとおりであり、同時に管理職がメンタルヘルスを学んでないのも、管理職に必須として自治体が研修を施してないのも事実だと思います。(努力している自治体が皆無とは言いませんが)
 私は自分が闘病しながら働くために、あるいはやむなく短期病休を取るために、理解のない管理職に病院でもらったパンフレットや本のコピー等を手渡すようなことをしなくてはなりませんでしたし。(学校現場)同僚は休むに当たって、「治るめどは?」だの「休む目当ては何?」なんていうトンデモな言葉を浴びせられてますから。
 ヒラの職員の自己メンタルヘルス教育まではまだまだ手が回らなくても、せめて管理職には必須研修にして欲しいものです。
 公務員職場の、足元のメンタルヘルスの知識水準が向上しないでいて、ちゃんとした市民サービスができるとは思えませんから、まずはそこから。

 もちろん直接市民に対応する関連部署では、全職員に啓蒙するぐらいでないと。

 付け足しですが、秋田県の自殺率の高さの要素には、老人の自殺率が高い、ということがあるのだったと記憶しています。
 それも独居老人ではなく、家族と同居している老人の方が、家族の中で居場所がなく身を縮めるようにして生活しているためうつ発症率が高い、そのことと相関関係がある、という事だったと思います。
 それで大学などとも協力し、地域保健に力を入れ始めて、だんだん発生率を下げつつあるようです。
 
例によって誤解されそうですが (なかまた)
2007-02-27 10:23:11
この担当者個人の資質の問題だけではないようで じつはボクは非常に困っています。
現場で病気で就労も出来ない人の対応をするには、かなり技術が必要です。事務的にはうまくいかないでしょう。

それを上司や先輩・同僚が指導していないような面が非常に気になります。