弁護士川原俊明のブログ

川原総合法律事務所の弁護士活動日記

課税と属地主義

2011-08-22 17:48:21 | 税法
 日本の税制は、古くは律令制のもとでの租庸調に始まり、明治時代の地租改正によって近代的な税制が整えられました。しかし、いつの時代でも、民にとって、税金は重い負担であります。税負担を免れようとする人々と、厳しい税徴収を行おうとする当局とが、知恵比べをしてきました。
 さて、現代の日本の税制は、原則として、属地主義という建前が取られています。これは、課税基準時において日本国内に「住所」を有する者に課税するという考え方です。 この属地主義のもとで税負担を免れようとすれば、国内に「住所」がない状態にすればよいと考えるでしょう。
例えば、竹中平蔵氏は、住民税が「1月1日」に住民票の住所地で課税されること(地方税法24条1項1号、2項、39条、294条1項1号、2項)に着目し、「1月1日」の前後を挟み、アメリカへの転出届を出しすぐ日本への転入届を出すという手法で、住民税の負担を免れました。 これは、2002年に雑誌「フライデー」で脱税疑惑と報道されため、竹中氏が名誉毀損されたと提訴し、竹中氏が勝訴しています。
最近では今年2月に、武富士の元会長の長男が、元会長夫妻からの株贈与をめぐり、贈与税など1330億円の追徴課税処分の取消しを訴えた事案で、最高裁が処分取消を認める判決を出しました。
この事案では、長男の「住所」(相続税法1条の2第1号〔H15年改正前〕)が国内か香港のいずれにあるかが争われました。最高裁は、「住所」の判断は、客観的に生活の本拠たる実態を具備しているか否かにより決すべきものとした
上で、長男の生活の本拠が香港にあると認定し、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実態が消滅するものではないとしています。
これは、相続税法上の「住所」概念は、民法上の「住所」概念(民法22条)の借用概念であることからの帰結とされています。
 なお、長男はもちろん香港への転出届を出しています。 納得できない点もありますが、憲法84条で租税法律主義(法律なくして課税なし)が取られている以上、立法的に解決されるのを待つしかないでしょう(武富士の件は、平成12年法律第13号により立法措置がとられました)。 ちなみに、アメリカのように住民票のない国も多く、IDカードなどで身分を証明する仕組みとなっています。
 日本では、海外転出届を市区町村の住民登録窓口に出せば、住民票がなくなります。
 ただし、住民票を移すと選挙人名簿に登録されないなどの不利益もあります。
 もっとも、節税か脱税かの違いは微妙です。税金のことは、税理士だけでなく、弁護士にもご相談下さい。




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