(@DIME)
《勝負所で力を爆発させたいなら自らの ルーティン を確立せよ》
2012年、43歳にして男子ゴルフの賞金王に輝いた藤田寛之(44)。通算15勝の大半が、40代になってからの勝利だ。正念場で見事なプレーを見せ続ける藤田。なぜ彼は 勝利の女神 に愛されるのか。
◎試合当日の計算された所作
ゴルフは、自然を相手にするスポーツである。参加選手に平等な条件が与えられるわけではなく、風や雨の影響、芝の状態などによって不運に見舞われることも少なくない。2012年、43歳で日本男子プロゴルフツアーの賞金王となり、 アラフォーの星 と称賛を集めた藤田は、そんな理不尽極まるスポーツだからこそ、運やツキを逃さないプレーを、そして生活を心がけている。
「ゴルフでは、前の人が打つ時は無風だったのに、自分が打つ時にはアゲンスト(向かい風)になるなんてことがよくあります。私も2年前のマスターズでは突然追い風が吹き、大きくコースオーバーしたことがありました。自然が相手なので、状況は一瞬にして変化します。しかし、それにいちいち不満を抱いていたら、結果には結びつかない。突発的なことが起きても心を乱さず、常に力を出し続けるためにはどうするべきか。私は何より自分のルーティンを作ることが大切だと考え、それを徹底することこそが、ツキを呼び込むことにもつながると思います」
試合当日の藤田は、スタートの2時間半前には会場に到着し、食事、ストレッチ、練習をしてコースへ繰り出す。ショットを打つ前は毎回、キャディーと話し合い、ゆっくりアドレスを取る。ラウンド中に少しでも空腹を感じたら、キャディーバッグに忍ばせているアーモンドを口へ。ホールアウト後は練習場で1日の反省をし、スイングの微修正を行なってから、コースを後にする。
自身で定めたルーティンを守り、一定のリズムを保つことが、何事にも動じないプレーを生み、勝負所で爆発的な力を発揮するのだ。
「これはスポーツ選手に限らず、ビジネスマンの方でも同じだと思います。大事なプレゼンや大勢の前でしゃべらなければならない時ほど、緊張して力を出せない方は多いでしょう。そんな時でも気負わず、普段どおりの生活を心がけることが重要です」
◎技術を極めれば自然と強さが備わる
とはいえ、コース上で常に冷静沈着に見える藤田とて、1番ホールのティーショット時には足が震えることもある。
「プレッシャーを振り切ろうと考えるのではなく、受け入れることが肝心。失敗したっていいわけですよ。ゴルフの場合は4日間72ホールの中で失敗はいくつも起こる。だけど、リカバリーするチャンスがいくらでもある。もしワンラウンド勝負なら、僕もアマチュアに負けることはある。でもそれが10ラウンドとなると負けない。そういうトータル的な強さが、プロには求められると思います」
そして彼は、勝負強さとは 技術の裏打ち があって初めて生まれるものだ、とこう続ける。
「自分の打ちたいショットができるという技術的な根拠が自信になり、それが好結果につながる。ところが、技術に自信が持てなければ自分を疑い、マイナス思考になる。技術を極めれば、自然と強さが備わっていくものです」
ゴルフ界には、石川遼や松山英樹のように、若くして勝利を重ねる選手がいる一方、常に上位争いに顔は出すものの、あと一歩、勝ち切れない選手がいる。それはスポーツに限らず、ビジネスとて同じだ。その わずかな差 について、藤田はこう分析する。
「練習場にいると、自分よりうまい人はたくさんいる。でも、練習で打つショットと、試合で打つショットは違う。勝つ選手というのは、コース上で練習場のようにボールをコントロールでき、かつ自分自身をコントロールすることができる。逆に勝てない選手というのは、練習で打てるショットがコース上で再現できない。毎日繰り返し練習していると、どうクラブと身体を動かし、ボールにどれぐらいの回転を加えればいいのかというイメージが瞬時にできるようになる。調子が良い時ほど試合中、イメージどおりのボールを打つことができるものです」
◎三兔を手に入れても「ゴルフがすべて」
昨シーズンの最終戦。藤田は大会3連覇と自身初の賞金王、そしてマスターズ出場権という 三兎 を追い、すべてを手に入れた。優勝会見では「ゴルフと家族は両立できない」と言い切り、オフの間に「ひとりで温泉に行きたい」と話していたのが印象的だった。
「さすがにそれは女房に怒られました。せめて『家族と温泉に行きたいと言って』と(笑)。家族が大切なのは当たり前ですが、無理に両立させようとすると、ゴルフに悪影響が出るし、それは家族も理解してくれている。だから今は、ゴルフと家族は完全に割り切って考えるようにしています」
4月に行なわれた自身2度目のマスターズは、肋骨を疲労骨折した影響もあり、最下位に。
「こればかりはアンラッキー。気持ちを入れ込みすぎたのかもしれないし、神様の 休め というメッセージだったのかもしれない。でも気持ちは切り替えた。失敗を引きずっていたら、次の一歩が踏み出せませんから」
アラフォーの星 の輝きは、さらに増していく。(敬称略)
《藤田流》実力を出し切る3つの法則
[RULE 1]U+A0本番に向けたマイ?ルーティンを作る
ゴルフならスタート時刻、仕事でもプレゼン時刻などから逆算してスケジュールを立てる。生活のリズムを崩さないことが肝心。
[RULE 2]U+A0勝負中のエネルギー補給を怠らない
空腹になると身体の動きに悪影響が出るし、集中力も持続しない。藤田の間食はアーモンド。食べやすく、栄養バランスも良い。
[RULE 3]U+A0縁起の悪かったものは大胆に捨てる
最近はゲン担ぎをあまりしないという藤田だが、スコアが悪かった日のウエアは捨ててしまう。悪いイメージを拭い去る狙いがある。
藤田寛之
1969年福岡県生まれ。専修大学在学中にプロ転向。97年、サントリーオープンで初優勝。昨シーズン4勝を挙げ、史上最年長賞金王に。葛城ゴルフ倶楽部所属。
◎各種データは取材時のものです。