日本
2010.05.09(日)
今日の勤務は順調だった。
ただ問題は一つ、仮眠が早寝になっていることだ。
隊員の勤務の関係上、仮眠時間は一人が9時から1時まで、一人が1時から5時まで、そして残りが5時から9時までとなっている。元々夜型で朝寝をしていた私にとってこの早寝仮眠では体を横たえるぐらいがやっとで熟睡など出来ようもない。もちろんこの内のどれかで仮眠を取らなければいけないから仕方が無いと諦めるしかないのだが・・・
その仮眠時間に後1時間と迫った20:00時、防災センターに電話が掛かって来る。
受けたのは同僚だ。なにやらメモを取って私の方を振り向いてこう言ってきた。
「今ナイトマネージャー(ホテルの夜の責任者)から連絡があって不審者がいるのですぐに現場に来て欲しい」
ということだ。
当務長はたまたま席を外している、ここにいるのは同僚と私の二人、同僚は受付に座って業務をこなしている今、動けるのはどうやらこのプロフェッショナルだけらしい・・・
私は無線を取り、足早に現場へ向かう。
私のいるチームでは最初の不審者だ。これは美味しい経験だ。
現場は一階のメインエントランス付近、メインクローク横のソファーだ。
私の勤務するホテルは通常のホテルと少し違っていて鉄道駅と直結する2階にメインロビーやフロントデスクがあり、一階には宴会上が多数ある。不審者が泊り客の目に付きづらい一階で現れたことや今日は宴会が少ないので宴会客の目に泊まらないのは不幸中の幸いだろう。
現場に到着してナイトマネージャーをみつけると不審者は目の前だ。
そこにいたのはナイトマネージャー、そしてホテルのスタッフが一人、駆けつけた私、それに不審者の合計4人。
私は早速不審者情報をナイトマネから聞きだす。
彼は小声でこう伝えてくる
「不審者は彼なんですが・・・テーブルの上の植物の葉を抜いたり今見ての通りテーブルの上を乱雑に散らかしてなにやら作っていたり・・・、一応もう声も掛けて片付けるように指示をしているのですが・・・」
私は前にいる不審者を眺める。
身長は170-175cm程度、体重は68-73kg程度、白いシャツに茶色いアウトドアパンツ、それに紺のジャケットとブッシュハットを持っている。
机の上にはカメラ、茶色いボストンバックを並べA4サイズを少し大きくしたような油絵のキャンバスには絵・・・といっていいかどうかわからないような暴走族が壁に落書きするような物が描かれている。そしてテーブルの上はちらかされ、何故か小銭を円状にしてその中には煙草の葉が纏められ・・・
また彼の座っている横にはデパートの紙袋やペットッボトル、ジッポのオイル等が地面に置かれ・・・
真っ先に注意しなければいけないのは爆発物を生成出来る物を持っているかどうか?そして殺傷力のあるもの(ナイフ、拳銃等)を所持しているかどうかだが・・・それはどうやら無さそうだ。
私は注意深く監視し、ナイトマネージャーがまた彼に話しかける。私の勤務するホテルではお客様対応は基本的のはホテルのスタッフが行い、警備はナイトマネージャーの指示によって対応を決めると言うのが原則となっている。
話しかけている間私は彼の応答を聞いているとふと思い当たる節があった。
『あっ!この手の奴はインドやパキスタン辺りでよくみかけたはっぱ(大麻)にはまっておかしくなっているタイプだ!』
決め付けるのは良くないが・・・それにしても海外で良く見る「壊れた日本人」がこんな東京のリゾートホテルでおみかけするなんて・・・
片付けて退去するように話しかけるナイトマネに彼は
「もう少しで終りますから」
と机の上にCDウオークマンを置き、それを水で浸し、さらに机の上に自分の手持ちのキャッシュカードを並べ始める。
そのキャッシュカード類の中に何故か運転免許証も・・・
私は素早く名前と生年月日、本籍をメモに控える。
だが、この行動で確証がとれた、彼は不審者という以上に単なる異常者だ。
そしてナイトマネが「何をしているんですか?」と聞くとソファー前ののテーブルを中心に色々とアングルを選んで
「世界の芸術を造ってます!」
と答えてきた!
いかれたヤローだ。海外でもここまでいっちゃう人間はあまり見れない。
その世界の芸術をカメラに撮る訳でも無く、ただ単にテーブル周りを一周してテーブルを雑に片付けて・・・
ホテルから退去すると思いきやいきなり1階の徘徊を始めた。
『コイツはちょっとまずいな・・・』
私は彼の後をつけつつ、無線で防災センターとのやり取りを開始する。状況によっては増援も考えた方がいいだろう。
彼が徘徊している間にホテルのスタッフも2,3名現場に駆けつけてくる。
警備の厄介な所で実力排除という手段を用いるには相手から先に手を出さない限り、こちらから出してしまうと問題になるし、それにホテルも元々千客万来というスタンスがあるのでただ徘徊しているだけというのはつまみ出す理由には出来ない。とりあえず数を出して相手に居ずらい雰囲気を感じさせて退去願うというのが関の山だ。
入ってはいけない区域に入ったときホテルのスタッフが口頭注意し、そしてメインエントランスにまた戻った時にナイトマネージャーがまた彼に話しかける。
「どうされたいんですか?」
彼は笑顔でこう答える
「もう、死にた~い!」
『・・・』
『・・・・・・』
そしてホテルから退去する・・・
『うーむ・・・』
これで勤務開放になるかといえばそうは問屋が卸さない。
また入ってくるかもしれないのでしばらく付けてホテル圏外に立ち去ったかどうかまで確認しなければならない。
そしてメインエントランスから出てつけると・・・ホテルの前の車道を渡って反対側の歩道に座り込む彼が・・・
『・・・』
『これじゃ仮眠できない・・・』
しばらく彼を眺めているとまたホテルに戻って来る。
またメインエントランスから入り、そしてホールの中央に行くとなにやら天(天井)を仰いでやにわにこう一言。
「第一奥様、降りて下さ~い」
そしてまた動いてホテルの椅子に座り込む・・・
『わっ笑っちゃいけない、勤務中だ・・・・』
このホテルはリゾートというのを売りにしているので厳しい雰囲気をだしてしまう警察を呼ぶのは極力さける方向にしているのだが、流石にナイトマネージャーも痺れを切らしたのだろう。
「警察をお願いします」
と言ってきた。
私は無線で防災センターに伝え出動を要請する。
要請して15分ぐらい、ようやく警察が到着、ナイトマネがこれまでの状況を説明し職質をお願いする。
そして警官4名が彼を取り囲みホテルの外へと任意同行し、手荷物検査、職質とすばやく実施する。現場にきたパトカーは2台、これで連行してくれればこのくだらない不審者に結末が付く算段だ。
そして色々と取り調べて・・・
結果「無罪放免に・・・!」
『・・・』
『・・・・・・』
まあ確かにホテルの備品に損害を与えたとはいえ被害届を出した訳でもないので今彼の手持ちに何か不審物でも発見出来なければ妥当な判断だが・・・
『こっこれでまたホテルに来るようなら仮眠が・・・仮眠が・・・』
職質を終えた後彼はホテルから一直線に遠ざかる方向へ・・・
少なくともホテルに直ぐに戻れない場所に行くまではと彼の後ろをホテルの敷地内の限界まで追いつつ、警察にちょっと聞いてみると・・・
「いっちゃってますね・・・」
と、返答が・・・
『・・・』
『・・・・・・』
『国家権力よ、それでいいのか???』
不審者は後ろを振り返ることも無く、我々の視界から完全に消え去っていく・・・
現在時21:30・・・
仮眠時間に突入して既に30分経過・・・
また来るかもしれないが・・・どうやらこれで取り敢えずは一通りの結末を迎えることが出来たようだ。
しかしそれにしてもこのプロフェッショナル・・・
現場最初の不審者対応は・・・
ただ眺めて楽しんで・・・そして警察を呼んだだけであったようだ・・・
そして今後の不審者についてはこう思う。
『今度はこのプロフェッショナルの仮眠時間にどうか被りませんように・・・』
2010.05.09(日)
今日の勤務は順調だった。
ただ問題は一つ、仮眠が早寝になっていることだ。
隊員の勤務の関係上、仮眠時間は一人が9時から1時まで、一人が1時から5時まで、そして残りが5時から9時までとなっている。元々夜型で朝寝をしていた私にとってこの早寝仮眠では体を横たえるぐらいがやっとで熟睡など出来ようもない。もちろんこの内のどれかで仮眠を取らなければいけないから仕方が無いと諦めるしかないのだが・・・
その仮眠時間に後1時間と迫った20:00時、防災センターに電話が掛かって来る。
受けたのは同僚だ。なにやらメモを取って私の方を振り向いてこう言ってきた。
「今ナイトマネージャー(ホテルの夜の責任者)から連絡があって不審者がいるのですぐに現場に来て欲しい」
ということだ。
当務長はたまたま席を外している、ここにいるのは同僚と私の二人、同僚は受付に座って業務をこなしている今、動けるのはどうやらこのプロフェッショナルだけらしい・・・
私は無線を取り、足早に現場へ向かう。
私のいるチームでは最初の不審者だ。これは美味しい経験だ。
現場は一階のメインエントランス付近、メインクローク横のソファーだ。
私の勤務するホテルは通常のホテルと少し違っていて鉄道駅と直結する2階にメインロビーやフロントデスクがあり、一階には宴会上が多数ある。不審者が泊り客の目に付きづらい一階で現れたことや今日は宴会が少ないので宴会客の目に泊まらないのは不幸中の幸いだろう。
現場に到着してナイトマネージャーをみつけると不審者は目の前だ。
そこにいたのはナイトマネージャー、そしてホテルのスタッフが一人、駆けつけた私、それに不審者の合計4人。
私は早速不審者情報をナイトマネから聞きだす。
彼は小声でこう伝えてくる
「不審者は彼なんですが・・・テーブルの上の植物の葉を抜いたり今見ての通りテーブルの上を乱雑に散らかしてなにやら作っていたり・・・、一応もう声も掛けて片付けるように指示をしているのですが・・・」
私は前にいる不審者を眺める。
身長は170-175cm程度、体重は68-73kg程度、白いシャツに茶色いアウトドアパンツ、それに紺のジャケットとブッシュハットを持っている。
机の上にはカメラ、茶色いボストンバックを並べA4サイズを少し大きくしたような油絵のキャンバスには絵・・・といっていいかどうかわからないような暴走族が壁に落書きするような物が描かれている。そしてテーブルの上はちらかされ、何故か小銭を円状にしてその中には煙草の葉が纏められ・・・
また彼の座っている横にはデパートの紙袋やペットッボトル、ジッポのオイル等が地面に置かれ・・・
真っ先に注意しなければいけないのは爆発物を生成出来る物を持っているかどうか?そして殺傷力のあるもの(ナイフ、拳銃等)を所持しているかどうかだが・・・それはどうやら無さそうだ。
私は注意深く監視し、ナイトマネージャーがまた彼に話しかける。私の勤務するホテルではお客様対応は基本的のはホテルのスタッフが行い、警備はナイトマネージャーの指示によって対応を決めると言うのが原則となっている。
話しかけている間私は彼の応答を聞いているとふと思い当たる節があった。
『あっ!この手の奴はインドやパキスタン辺りでよくみかけたはっぱ(大麻)にはまっておかしくなっているタイプだ!』
決め付けるのは良くないが・・・それにしても海外で良く見る「壊れた日本人」がこんな東京のリゾートホテルでおみかけするなんて・・・
片付けて退去するように話しかけるナイトマネに彼は
「もう少しで終りますから」
と机の上にCDウオークマンを置き、それを水で浸し、さらに机の上に自分の手持ちのキャッシュカードを並べ始める。
そのキャッシュカード類の中に何故か運転免許証も・・・
私は素早く名前と生年月日、本籍をメモに控える。
だが、この行動で確証がとれた、彼は不審者という以上に単なる異常者だ。
そしてナイトマネが「何をしているんですか?」と聞くとソファー前ののテーブルを中心に色々とアングルを選んで
「世界の芸術を造ってます!」
と答えてきた!
いかれたヤローだ。海外でもここまでいっちゃう人間はあまり見れない。
その世界の芸術をカメラに撮る訳でも無く、ただ単にテーブル周りを一周してテーブルを雑に片付けて・・・
ホテルから退去すると思いきやいきなり1階の徘徊を始めた。
『コイツはちょっとまずいな・・・』
私は彼の後をつけつつ、無線で防災センターとのやり取りを開始する。状況によっては増援も考えた方がいいだろう。
彼が徘徊している間にホテルのスタッフも2,3名現場に駆けつけてくる。
警備の厄介な所で実力排除という手段を用いるには相手から先に手を出さない限り、こちらから出してしまうと問題になるし、それにホテルも元々千客万来というスタンスがあるのでただ徘徊しているだけというのはつまみ出す理由には出来ない。とりあえず数を出して相手に居ずらい雰囲気を感じさせて退去願うというのが関の山だ。
入ってはいけない区域に入ったときホテルのスタッフが口頭注意し、そしてメインエントランスにまた戻った時にナイトマネージャーがまた彼に話しかける。
「どうされたいんですか?」
彼は笑顔でこう答える
「もう、死にた~い!」
『・・・』
『・・・・・・』
そしてホテルから退去する・・・
『うーむ・・・』
これで勤務開放になるかといえばそうは問屋が卸さない。
また入ってくるかもしれないのでしばらく付けてホテル圏外に立ち去ったかどうかまで確認しなければならない。
そしてメインエントランスから出てつけると・・・ホテルの前の車道を渡って反対側の歩道に座り込む彼が・・・
『・・・』
『これじゃ仮眠できない・・・』
しばらく彼を眺めているとまたホテルに戻って来る。
またメインエントランスから入り、そしてホールの中央に行くとなにやら天(天井)を仰いでやにわにこう一言。
「第一奥様、降りて下さ~い」
そしてまた動いてホテルの椅子に座り込む・・・
『わっ笑っちゃいけない、勤務中だ・・・・』
このホテルはリゾートというのを売りにしているので厳しい雰囲気をだしてしまう警察を呼ぶのは極力さける方向にしているのだが、流石にナイトマネージャーも痺れを切らしたのだろう。
「警察をお願いします」
と言ってきた。
私は無線で防災センターに伝え出動を要請する。
要請して15分ぐらい、ようやく警察が到着、ナイトマネがこれまでの状況を説明し職質をお願いする。
そして警官4名が彼を取り囲みホテルの外へと任意同行し、手荷物検査、職質とすばやく実施する。現場にきたパトカーは2台、これで連行してくれればこのくだらない不審者に結末が付く算段だ。
そして色々と取り調べて・・・
結果「無罪放免に・・・!」
『・・・』
『・・・・・・』
まあ確かにホテルの備品に損害を与えたとはいえ被害届を出した訳でもないので今彼の手持ちに何か不審物でも発見出来なければ妥当な判断だが・・・
『こっこれでまたホテルに来るようなら仮眠が・・・仮眠が・・・』
職質を終えた後彼はホテルから一直線に遠ざかる方向へ・・・
少なくともホテルに直ぐに戻れない場所に行くまではと彼の後ろをホテルの敷地内の限界まで追いつつ、警察にちょっと聞いてみると・・・
「いっちゃってますね・・・」
と、返答が・・・
『・・・』
『・・・・・・』
『国家権力よ、それでいいのか???』
不審者は後ろを振り返ることも無く、我々の視界から完全に消え去っていく・・・
現在時21:30・・・
仮眠時間に突入して既に30分経過・・・
また来るかもしれないが・・・どうやらこれで取り敢えずは一通りの結末を迎えることが出来たようだ。
しかしそれにしてもこのプロフェッショナル・・・
現場最初の不審者対応は・・・
ただ眺めて楽しんで・・・そして警察を呼んだだけであったようだ・・・
そして今後の不審者についてはこう思う。
『今度はこのプロフェッショナルの仮眠時間にどうか被りませんように・・・』