プロフィール

東京在住。元メインフレーム系SE。
趣味は読書、絵画鑑賞、オーケストラ、小劇団演劇、最近宝塚にも…
そうそうカントリーダンスも始めました。
当ブログはTwitterのlogになっているため、セカンドブログで自筆しています。
よろしかったらご覧下さい。
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ウェイリー版源氏物語

2008-10-31 23:32:33 | 源氏物語
■源氏物語 1 ウェイリー版 アーサー・ウェイリー英語訳
佐復 秀樹日本語訳 平凡社ライブラリー ¥1,600
(The Tale of Genji , Lady Murasaki : Arthur Waley)

伊坂幸太郎を読むノリで、そのまま読むことができる源氏物語です。
これは四分の1分冊目で、桐壺から明石までが収録されていました。

たいていの書評には、読みやすいと書かれていますが、その通りです。
主語がきちんと書かれていること、過剰な敬語、謙譲語がないからでしょう。 登場人物に深い思い入れがないことがさいわいしているとも思いました。
訳者の情感がこもりすぎているのはしんどいものです。

ええと、迷訳、誤訳はかなりあります。
細かいところですね、微妙な感情表現が「外国人」ぽいのです。
例えば日本人の現代語訳なら「あわれにお思いになった」で済ますところを、場の状況に応じて「可愛いところがある女だとますます好きになった」「みずぼらしくてうんざりし、気持ちが冷めていく」などと積極的に意訳をしています。
へぇ、源氏ってそんなふうに思っていたんだと、何回も目から鱗が落ちました。(⌒-⌒)

「賢木」「花散る里」「須磨流謫」「明石」についてはこのウェイリー版がとてもよかった。
源氏の政治的な敵味方の面々、女君たちの思いがじっくりとあからさまに書かれているからミーハー的にもたいへん面白いのです。
源氏物語は「須磨・明石」で挫折する読者が多いと聞きますが、ウェイリー版なら飽きずに先に進むことができるでしょう。

~~~~~~
11月に2巻目(「澪標」から「野分」まで)が刊行されます。
さっそく買いに行かなくては。



サフランの花

2008-10-18 00:52:40 | 源氏物語
アーサー・ウェイリーの源氏物語は4巻構成のようです。
わたしが買ったのは1巻目、桐壺から明石まででした。

桐壺、帚木、空蝉、夕顔、紫、サフランの花、紅葉の賀、花の宴、葵、賢木、花散里、須磨流謫、明石

いつもの巻名と呼び方が違うのがありますね。
 :
サフランの花って、なによ。

前後関係から、末摘花の巻を指しているのはわかりますけれど、サフランの花ですか~
常陸宮の姫君の洗練度がだいぶ上がりますねぇ。(笑)


ええと、末摘花(すえつむはな)はベニバナのことです。
山形県の特産ではなかったかしら。
ベニバナは植物油の原材料として有名ですね、それから紅い染料も採れます。

アーサー・ウェイリーが住んでいたイギリスには、ベニバナがなかったのかも。
ですから、末摘花・・・先っぽが紅いというイメージに繋がる花としてサフランを選んだのかと深読みしています。

~~~ちょきちょき~~~
お鼻の先っぽが紅いために、源氏物語ではバラエティ系に分類されがちな末摘花の姫君は、常陸宮の女王(皇族の姫君)でした。
源氏が末摘花を捨てるに捨てられなかったのは、彼女の血筋に対する敬意と、姫君の温厚で誠実な人柄のせいでしょう。

源氏は末摘花の前では謹厳実直かつ、くそまじめに応対をしていたそうですから、影響力が強い女性とも言えるわけで。



源氏物語の1000年 あこがれの王朝ロマン 横浜美術館

2008-09-20 23:46:29 | 源氏物語
台風13号一過の土曜日、横浜美術館:源氏展の帰り道、駅ビルの本屋で新潮10月号を買いました。
月刊新潮って¥950もするんですね、源氏展の入場料¥1300といい勝負です。

未だつまみ読み段階ですが、橋本治と三田村雅子の対談は面白かった。
好き好きはあるにしても、「夕顔」「若紫」「末摘花」「葵」「須磨」「柏木」の新訳・超訳源氏物語も楽しい趣向。


~~~~~~
今回の展覧会は、存分に楽しむことができました。
わたくしは、美術展へはひとりで出かけることが多いせいか、さらっと流し観?してしまうことが多いのです。 でも今日は古典に詳しいTさんとワイワイ言いあいながら、長い時間をかけて観覧しました。

展示は三つの章で構成されていて、第一章は古写本(鎌倉本、河内本、陽明文庫本)、藤原道長直筆の日記など、文字が主体。 第二章がいわゆる源氏絵で、第三章は明治以降の源氏物語をテーマにした日本画、現代語訳本の展示でした。

第一章は、原文が読めたなら面白かったと思うのですが、悲しいことに素養がございませんのでアラビア文字を読むのと大差ない状態で、鎌倉本の表紙を見て「ほんとうに青いんですね」と馬鹿を漏らしたり。。。


第二章の源氏絵はTさんと盛り上がりました。
六曲二双の大屏風が何点も出品されて、源氏物語の各巻の名場面が描き込まれています。 30から60の場面です。
これをTさんとひとつひとつ、あれは雨の夜の品定め、これは空蝉が義娘と囲碁を打っているところ、それは正月の衣装を選ぶ場面ね、その下のは明石の君だわと、、、周囲にはひんしゅくを買ったことでしょう。 (お前ら、うるさいよ)

描かれている場面はどの屏風も似たり寄ったりなのですが、年代が違うと趣きも変わります。


こちらは屏風に金扇を並べて、その中に源氏物語が収まっています。 艶やかさではこのほうが勝っていましたが、上の絵ほうが良いねと、Tさんとわたくしの感想は一致しました。

Tさんから、源氏物語は最初は「須磨」「明石」から書かれたそうですねと話しかけられたとき、わたしは知らなくて「え?そうなんですか」と呆けてしまったのです。(恥)

『お仕えする中宮から新しい物語の執筆を求められた紫式部が、石山寺に参籠して、琵琶湖に映える八月十五夜の月を眺めているうちに一つの物語の構想が浮かび、とっさに手許にあった大般若経の料紙の裏に書き連ねていった…これが『源氏物語』「須磨の巻」であると伝えられています。』
(石山寺のサイトより)


紫式部が源氏物語を執筆しているところを描写した絵も、たくさんありました。
10枚以上はあったと思います。 いや、近代画家の作品を含めたら20枚に近いでしょう。

繰り返しこの構図が出てくるものですから、わたくしは 石山寺に行かなくては という強迫観念に取り憑かれてしまったのですよ。
わたしがそう口走るものですから、Tさんは笑っていらっしゃいました。

~~~ちょきちょき~~~
Tさん、今日はお付きあいいただきありがとうございました。
2時間以上も鑑賞したのは久し振りです。 常設展示も見たかったのですが、歩き疲れて足が痛く、腹も減ったしで・・・次の機会には常設展も覗いてみたいと思います。



藤壺 瀬戸内 寂聴

2008-07-15 00:30:25 | 源氏物語
本屋の中をほっつき歩いていたら、ひょいと見つけた超薄の文庫本。
■藤壺 瀬戸内 寂聴 講談社文庫 ¥400(税込)

源氏物語は54帖の中編小説を数珠つなぎにした長編小説だ。
光源氏を主人公にしたものが41帖、過渡期の3帖、息子たちにスポットライトがあたる10帖、で構成されている。

帖の名前がだけがあって本文がない「雲隠(くもがくれ)」は、本文が途中で散逸してしまったのではなく、最初から題名だけの帖だったようだが、現在では帖の名前が見あたらないが当初は書かれていたのではないかと考えられている帖(巻)がある。

「輝く日の宮の巻」または「藤壺の巻」と呼ばれるその帖は、「桐壺の巻」と「帚木の巻」の間に位置づけられる。 そこで源氏と六条御息所のなれそめ、朝顔の姫君との交流、源氏と藤壺の宮との最初の逢い引きが語られている、、、と想像されるのだ。


丸谷才一は、これをテーマにして「輝く日の宮」という小説を書いた。
わたしも発売直後にのめり込むようにして読み、たいへん面白かった。
ところが、彼の「輝く日の宮」には源氏と藤壺の逢い引きシーンはありません。
源氏物語に興味を持った女性研究者の物語、そう、現代小説に近い。
劇中劇のように、ときたま光源氏が登場するつくりになっていました。

それに比べたら、さすがに瀬戸内寂聴尼。
「藤壺」は逢い引きシーンがかなりを占めている。 
六条御息所、朝顔の姫君については敢えてカットしたのだと思うが、六条御息所についてはもうひとつ踏み込んで欲しかった。

彼女の先輩の円地文子は、「藤壺の巻」こそは書かなかったが、最初の逢い引きシーンを創作した円地源氏を出版した。 
寂聴尼の「藤壺」にどんな反応をするだろう。

ところで、前半は現代語なのですが、後半は古語で書かれている。
これは寂聴尼の創作小説だから、彼女は古語の部分も自分で創作したということになる。
さすがですね。



GENJI雑感 五節の舞姫

2008-05-03 00:27:21 | 源氏物語
五節の舞は、新嘗祭(今の収穫感謝の日)に帝の前で四人の乙女が舞う「舞」のことです。
天つかぜ雲の通ひ路吹きとぢよ をとめの姿しばしとどめむ (僧正遍昭)

源氏物語にもふたりの五節の舞姫(ごせちのまいひめ)が登場します。

ひとりは、若かりしころの源氏が舞姫を見て心おどらせ和歌を贈った、筑紫の五節と呼ばれる女性。
もうひとりは、夕霧(源氏の息子)が年頃になったとき、父と同じように舞姫の美しさに感動して、舞姫(藤典侍)に和歌を贈りました。

父と息子はこ似たような行動をとりましたが、その後はちょっとちがいます。
先代の舞姫は、地方官である父親とともに赴任先の筑紫へ渡ったため、源氏とは和歌のやりとりがあっただけでした。 仄かな恋心で終わったのですね。

ところが夕霧の場合は、この舞姫(藤典侍・とうのないしのすけ)を第二夫人にしました。 堅物と言われた夕霧にしては電光石火の早業です。


夕霧は幼なじみの雲居の雁(くもいのかり)と付きあっていたのに、彼女の父親に仲を引き裂かれてしまい、傷心の日々を送っていました。
そんな時に美しい舞姫を見たものですから、つい心が動いてしまったのでしょう。

日影にもしるかりけめや少女子が天の羽袖にかけし心は (夕霧)

藤典侍(とうのないしのすけ)、典侍は女官の役職名。
彼女は舞姫になったあと、その美貌を買われて宮中に出仕をしたため、藤典侍という役職名で呼ばれています。

藤は藤原のこと。 彼女は藤原惟光(ふじわらのこれみつ)の愛娘で、惟光は掌中の珠のように大事にして可愛がっていました。
惟光は出仕には反対していたようです。 ですから夕霧に見初められたことは、惟光にとってはたいへん喜ばしいことだったので、この縁組みには大賛成だと自分の奥方に話すシーンがありました。


藤原惟光は源氏の家来ですが、源氏が若い時代には物語にしょっちゅう登場していたので知名度はそこそこ高いのではないでしょうか。
「夕顔」では彼は大活躍をしたし。

夕霧の夫人となった藤典侍の子ども達は、誰もが頭が良くて姿形も良かったんですね。
北の方(第一夫人)の雲居の雁の子ども達より出来がいいとはっきり書いてあるのは、雲井の雁がちょっと可哀想。

宇治十帖で、匂宮が六の君を第一夫人に迎え、先に結婚していた宇治の中君が悲しむシーンがありました。 その六の君は、夕霧と藤典侍の間に生まれた女君なのです。
祖父である惟光が健在だとしたら、さぞかし喜んだことでしょう。

~~~ちょきちょき~~~
モノクロの写真は大嘗祭(だいじょうさい)の五節の舞です。
大嘗祭は天皇が即位をした年の新嘗祭のことでして、ご覧のとおり五人で舞います。
一番下は昭和天皇即位の五節の舞。

今上天皇即位の五節の舞はTVで観ました。
宮内庁の女官が舞姫になったようなのですが、すべて中高年の女性たちだったので、なんだか淋しかった。



源氏物語千年紀展特集(日経新聞)

2008-05-02 00:51:45 | 源氏物語
「源氏物語千年紀展 ~恋、千年の時空を超えて~」が開催中です。
■会場:京都文化博物館 会期:6月8日まで、10時~18時 


今朝の日経に見開き2ページの特集記事がありました。 瀬戸内寂聴さんと大和和紀さんの対談です。 「源氏物語を語る(恋愛心理 今も普遍 個性豊か 女の競演)」

<登場人物について>
寂聴「好きになる女性は、読んだ年齢によって変わっていく。 この年になると朧月夜が一番いい。 俵万智、丸谷才一も彼女のファンだ」

大和「藤壺はマドンナでありながら悪女だと思った。 お得な人生を歩んだのは明石の君ではないだろうか」

<絵になる名場面>
寂聴「若紫(幼少の紫の上)が泣きながら走ってくる場面、女三の宮がすだれの側に立っているところを柏木に見られるところ」

大和「葵の上と六条御息所の車争い」

<現代語訳、漫画化>
寂聴「円治文子は与謝野晶子や谷崎潤一郎に続いて現代語訳を書いた。 その生みの苦しみをしょっちゅう見ていたので、自分が現代語訳をするには大変な決心が必要だった」

大和「人間関係が複雑だから目で覚えるのが一番かもしれない。 タイトルに「源氏」をつけなかったのはオリジナルの登場人物を出すつもりだったから。 でも途中から無理だとわかって原作に忠実に取り組んだ」

<紫式部について>
寂聴「紫式部は実は多くの男性遍歴があったんじゃないかと思う。 それでなければあそこまで(男について)書き込むことはできなかった」

大和「友達になりにくいタイプの女性だと思う」

~~~ちょきちょき~~~
わたし・・・瀬戸内寂聴さんは、どうも苦手ですねぇ。(苦笑)
この対談でもあけすけな調子でお話しになっていて、まちがったことを言っているわけではないんですが、下世話すぎるというか。

「ほらほら、ここの場面。 はっきり書いてないけれどふたりはセックスをしてるんですよ」
そうかもしれないけれど(笑) でも声を大にして言わなくてもいいじゃないですか。
読む人が読めばわかる、気がつかないならそれでいい。
だと、思うんです。



二つの与謝野源氏

2008-04-30 23:21:04 | 源氏物語
給料日だったので、勇んで本屋へ。
角川文庫のコーナーで、与謝野晶子の源氏物語が(上・中・下)揃っているのを見つけた。

■与謝野晶子の源氏物語(上) 光源氏の栄華
■与謝野晶子の源氏物語(中) 六条院の四季
■与謝野晶子の源氏物語(下) 宇治の姫君達たち
 序文:上田敏 森林太郎(鴎外)
 解説:神野藤昭夫 角川ソフィア文庫

与謝野晶子(1878-1942)は、源氏物語の現代語訳を三度している。
「新訳」と「講義」と「全訳」だ。

この三冊が「新訳」の改訂版であることは、ぱらぱらめくってすぐにわかった。
私が最初に読んだ源氏物語が、書体、字間、ルビを現代風に整えて読みやすくなっている。
嬉しくなって、、興奮して頬が赤くなっていたんじゃないかと思う、、三冊をしっかり握りしめた。


ところがである。
私が手に取ったすぐ隣りに、もうひとつの与謝野源氏が並んでいた。

■全訳 源氏物語 一 新装版 
■全訳 源氏物語 二 新装版
■全訳 源氏物語 三 新装版
 紫式部 現代語訳:与謝野晶子 角川文庫

これは「全訳」の改訂版(新装版)である。
「新訳」を三冊握りしめたわたしは、本棚の「全訳」を見つめてひとりで焦っていた。 どうしよう、どちらを買うべきか。
実は与謝野源氏は「全訳」のほうはまだ読んでいないからぜひ読みたいが、全五巻の後ろの二巻がまだ発売されていない。

迷いに迷った末に「新訳」のほうを買うことにした。
「全訳」は最後までそろってから全巻を一気に「おとな買い」する。

~~~ちょき ちょき~~~
「新訳」は抄訳ではないのですが、かなり簡略化されています。 嫋々としたところがない。
ですから平安王朝の優雅さを味わうには役不足ですが、飽きずに読み終えることができるのではないかと思います。
余計なことが書いていないから、原文を読むときの手引きとしてもいいですね。

でもひとつだけ残念なことがありました。 わたしが読んだ旧版には各巻の表紙に晶子の和歌がしたためられていたのですが、今度の版にはそれがない。
全訳のほうには晶子の歌が入っているのかしら。 入っていて欲しいなぁ。



GENJI雑感 あなたは幾つ?

2008-03-19 22:33:45 | 源氏物語
そうそう、年齢の話しをしようと思っていたんですよ、てぃーぽっとさん。
夕顔の巻では光源氏は十六か十七歳、さて夕顔は何歳だったでしょうか。
夕顔の君は、まだ十九歳でした。

当時は元服(成人)が十三歳、男子は元服と同時に最初の結婚をしました。
源氏の君は桐壺の帝の第二皇子として子供時代を過ごし、元服と同時に一般の貴族に身分が変わったんですよね!
光源氏は左大臣の姫君と結婚し、左大臣家の婿殿となります。 左大臣家の姫君、葵の上は三歳年上の十六歳でした。

有力な貴族にとって、自分の娘を誰と結婚させるかこれはとても重要なことでしたから、そんじょそこらの男と結婚させるわけにはいきません。 姫君の結婚には満を持して臨むため、少々トウが立っても大切に手元に置いておきます。
左大臣殿は、源氏の君が元服するのを待って、源氏の後ろ盾になるという暗黙の約束のうちに、姫君との結婚を成功させました。

夕顔の巻は源氏が元服してから四年ほど過ぎた頃で、夕顔は葵の上と同い年、子連れのおばさんと見ちゃぁいけません。
そうしてみると、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)はまちがいなく子連れのおばさんでしょうね。 夕顔の巻の頃には十三か十四歳の姫宮(亡き皇太子の忘れ形見)がいらしたので、御息所は二十七歳になっていたかと思われます。


~~~~~~
源氏物語に登場する人たちはほとんどが四十歳までに亡くなるか、出家してしまいます。
若菜の巻には光源氏の四十の賀の様子が描かれていますが、現代なら還暦の祝い、いや古希の祝いに近いニュアンスだったのでしょう。
人生四十年か、コンパクトな人生です。。。

そうそう、源氏の親友の頭中将は左大臣家の長男で、葵の上の兄君です。
源氏とは親友であり、義理の兄弟であって、おまけに従兄弟でもありました。 源氏の父帝と頭中将の母上が兄妹だったからです。
濃い縁で結ばれた仲なんですね。



GENJI雑感 夕顔と玉鬘

2008-03-19 00:52:39 | 源氏物語
夕顔は、源氏物語の初めの頃に登場する印象的な女君(おんなぎみ)です。

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

重病の乳母の家を見舞いに訪れた光源氏が、向かいの家の軒下に咲く白い可憐な花に目を向けたところ、家の中から童女が出てきて、この花を白扇に載せて差し出しました。
扇には上品な女文字で、歌が散らし書きされていました。

源氏の君は風流心のあるこの女君に惹かれて、ここへ通い始めるのですが、夕顔は自分の正体を明かそうとしません。
源氏も自分が誰なのかを教えなかったので、謎の男と謎の女の恋物語となります。

どうやら頭中将(源氏の親友)の愛人だった人らしい。
そこまでわかったところで、源氏は彼女を自分の別荘へ連れ出します。
ところがその晩に夕顔の君が急に亡くなってしまうのです。
ある人の生霊に取り憑かれて・・・ではないかと源氏の君は思うのですが、ほんとうのところはわかりません。


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「玉鬘の君(たまかずらのきみ)が登場した時には、腰を抜かすほどびっくりした」
これは私の母の感想です。
わたしもやはり驚きました。 すごーい!(まだ、高校生だったので)

夕顔には頭中将とのあいだに女の子がいたらしい。 
しかしどうしても見つけ出すことができなかった。
夕顔の巻はそう締めくくられて、読者はその後の波瀾万丈の物語に気を取られてしまいますが、十六年の歳月が過ぎてから、天から降ってきたようにして玉鬘の君が登場いたします。

玉鬘は、美しい(玉)髪(蔓)という意味だそうです。
この時代は、髪が豊かで美しいあることが美人の条件だったことを考えると、玉鬘という愛称で呼ばれるこの女性は、きわだって美しい人だったのでしょう。

源氏の君も目が眩んでしまい(笑)、本来ならば実の父親である頭中将のところへ行かせなければならないのに、夕顔と親しかった自分が父親代わりになると、無理矢理に引き取ってしまいました。

あら、、、もう少しおしゃべりをしたかったのですが。
明日の仕事が待っているので、また近々。 おやすみなさい。
(画像は、能人形 半蔀(はじとみ)、夕顔をテーマにした演目です)


GENJI雑感 めぐりあひて

2008-03-14 22:51:36 | 源氏物語
めぐりあひて 見しや夫(それ)ともわかぬ間まに 雲くもがくれにしよはの月つきかな
(百人一首 第五十七番 紫式部)
『めぐりあって見たのが、それかどうかもわからない短い間に、早くも雲に 隠れてしまった夜中の月のように、久しぶりに会ったのに、すぐに帰って しまったあなた。 どうしてそんなにいそいで帰ってしまったの。』

子供の頃は恋の歌だと思い込んでいました。
口語訳を見ても恋の歌らしく読めますでしょう? ところがそうではないんです。

紫式部の実家は地方官(受領、国司と呼ばれる)だったので、娘時代は父親と一緒に任地で暮らしていました。
地方官の任命式(除目・じもく)は毎年の春、前の任期を終えた地方官たちは一斉に都へ帰ってまいります。
次の赴任地はどこになるのだろう、都に近い裕福な土地に行きたいものだがどうだろうか。 もしかしたらどこにも任命されずに失業してしまうかもしれない。
地方官の任命式は悲喜こもごも、源氏物語の中にもこの話題が取りあげられていました。

ところで、地方官の家族は任命式の前後のわずかの時間しか都に居ることができませんから、寝る暇を惜しんで都の生活を謳歌するんですね。 紫式部は、泊まりがけでやってきた幼なじみの少女とおしゃべりに夢中になっていたのだと思います。 お相手の少女も地方官の娘、ちかぢか次の任地に旅立つことが決まっていたのではないでしょうか。

~~~~~~
久し振りに幼なじみの少女と会っておしゃべりに興じていたら、もう帰る時間だという。 次に会えるのは何年に先になるかも知れないのに、どうしてそんなに慌ただしく帰ってしまうの?

手紙のやりとりだけでは満足できない、もっともっと貴女と一緒にいたいのよ、お話しはつきないわ。 うーん、さぞかし賑やかだったことでしょうねぇ。

~~~ちょきちょき~~~
<百人一首・私のオハコ>
春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山 (持統天皇)
かささぎの渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞふけにける (中納言家持)
ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただありあけの月ぞ残れる (後徳大寺左大臣)
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む (後京極摂政前太政大臣)
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む (柿本人麻呂)

「あんたは動物ネタばっかりなのねぇ」 祖母からもそう言われております・・・




GENJI雑感 約八百人

2008-03-12 23:52:19 | 源氏物語
当時の皇族貴族は全体でも八百人くらいだと、なにかで読んだことあります。 これには受領(ずりょう)という地方官も含まれての人数なので、いくら何でも少なすぎるのではないかと思ったのですが、昔の統計では女と子供は数に入っていないことを思い出して納得しました。

その中でも特にランクが高い人たちが、源氏物語の登場人物です。 帝にお目にかかることができる官位を持ったお公家さんたち、殿上人(てんじょうびと)ですね。

紫式部は彰子中宮に仕える高級女房でしたから、帝を拝見する機会もあり、言葉を交わしたこともあったかも知れません。 しかし、地方官の娘であって、中宮の使用人に過ぎない紫式部は、源氏物語に登場するには役不足なのです。

ところが源氏物語には紫式部と同じ、地方官クラスの女性が登場しています。
ひとりは空蝉(うつせみ)、もうひとりは明石の君(あかしのきみ)、このふたりは他の女性たちよりも格下の身分でした。

空蝉は物語の初盤に登場することもあって、キャラクタが地味な割にはよく知られていますが、もう一人の明石の君を知らない方は多いのではないかと思います。
光源氏がたった一度、不遇を託っていた須磨明石時代、ここにたどりつく前に読むのを止めてしまうと明石の君と会うことができません。

光源氏には血の繋がった三人の子と、血の繋がらないもうひとりの子がいました。 複数の女性と関わりあいを持つのが当たり前のこの時代、光源氏は子だくさんではありませんでした。
そのうえ女の子はひとりだけで、この姫君はのちに帝にお輿入れをして明石の中宮(あかしのちゅうぐう)として源氏一族の栄華の時代をになうことになります。 この姫君の実母が明石の君なんですね。

明石の君は光源氏に見初められ(ほんとうは少々ニュアンスがちがうのですが、今はそういうことにしましょう)、やがて身ごもりました。
光源氏はその彼女を置いていったんは都へ帰ってしまうのですが、女の子が生まれたことを知ると彼女と幼子を都へ呼び寄せます。
光源氏のたったひとりの姫君は、光源氏にかかわるいちばん身分の低い女性から生まれました。 これは明石の君とかわらない境遇の紫式部のさしがねかもしれません。

ところで明石の君はすらりとした背の高い美人だったようです。 聡明でありながら謙虚で非の打ちどころがない、完璧すぎるのが欠点ではないか、どこかの巻で源氏の君がつぶやいております。

~~~ちょきちょき~~~
低い身分から最高位まで登り詰めた女性といえば、篤姫もそうですね。 養女と実子のちがいはあっても、お家の繁栄のために一役買う立場であるところが似ています。



GENJI雑感 なまえについて

2008-03-10 23:34:28 | 源氏物語
源氏物語には本名で登場する人物がいない。
物語に登場する女たちは美しい名前で呼ばれてるが、これはすべて愛称、いわゆる源氏名(げんじな)である。
女は表舞台で活躍することがないから、本名で登場する機会が持てなかったと思われがちですが、そうでもないのです。 男もまた同じく、本名では登場していません。

源氏物語を原文で読みますと、男はすべて官職名で呼ばれていることがわかります。 主人公の光源氏でさえそうなのです。

源氏物語は、光源氏が生まれてから出家するまでのおおよそ五十年間のお話しということもあって、世の移り変わりにより官職名は変わっていきますから、これは誰のことなのかといつも意識していないと、物語を見失ってしまうことがある。

源氏の君の親友、また終生のライバルでもあった頭中将(とうのちゅうじょう)も、官職名でしか登場しないために、呼び名が定まらずにわかりにくい。
頭中将というのは若いときの役職だからすぐに実情に合わなくなってしまい、でも彼をなんと呼んだらいいのか。
数々の現代語訳もその点では苦労をしているようで、「左大臣殿(昔の頭中将のこと)」と註釈が入っていることもある。
それに比べると、女たちはひとつの名前で呼ばれ続けるから、よほどわかりやすい。

帝(みかど)の血筋である親王や内親王は、生まれた順番に一の宮、二の宮、三の宮、女性ならば女一の宮、女二の宮と呼ばれますが、帝は子だくさんのことが多く、おぼえるのがたいへんです。
そもそも帝も、当時は一世一代ではないから、今の帝、先の帝、その前の帝と、あちこちにおわしますから、こちらも誰のことかわかるように工夫を重ねている。

源氏の父帝は桐壺帝と呼ばれていますが、これは源氏の母が宮中では桐壺の局(つぼね)に住んでいたからで、妻の住まいが帝の名前になっています。
これは変わった命名ですね。 ちょっと安易かも。