土木屋政策法務自習室(案)

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道路法と道路交通法の通行規制の内容に関して考察してみた。

2017年12月18日 21時03分41秒 | 道路法
 道路の通行規制は、道路管理者が行う場合と警察が行う場合とがあります。
 以下には、通行規制の法根拠を明らかにするとともに、規制権者の違いによる権限の内容の違い、すなわち規制区間内において通行者を選別して通行させることができるかについて明らかにしたいと思います。
※この考察は、道路管理者が法面崩落等の危険性があり通行止めにした区間について、一部の限定した者に通行させる運用があったことから、道路管理者の通行規制の権限の内容について確認する意味で書いてみました。

 
1.はじめに
 道路においては、工事を行う場合や道路構造に損傷が生じた場合、あるいは交通の安全を図り交通障害を防止する場合に通行規制が行われる。この通行規制は、道路管理者が道路法に基づき行うものと、公安委員会及び警察官等(以下「警察官等」という)が行う道路交通法に基づき行われるものとがある。
 このうち、道路管理者による通行規制の態様は、「①道路法第46条にもとづくもの、②道路法第47条(車両制限令)にもとづくもの、③道路法第43条の2にもとづくもの、④その他のもの、に大別することができる(行政実務p141)」とされる。このうち道路の破損等及び工事を原因として、道路構造を保全し交通の危険を防止する場合には、道路法第46条第1項各号を根拠として通行規制を行うこととなる。
 一方、警察官等が行う通行規制は、道路交通法第4条、第6条及び第8条の規定に基づき行われる。
 以下には、これら道路法と道路交通法の通行の禁止又は制限の規定について、関係条文から各規制権者の規制の内容を明らかにする。
 
2.通行規制に関する法令
 道路法及び道路交通法における通行規制に関する規定について整理すると、下表のとおりとなる。
 
 
 このうち、道路法の通行規制は、破損等(道46①一)あるいは工事(道46①二)の物理的変状を原因とした規制であることから、その規制の効果は通行する車両等の全てに一律に及ぶこととなる。つまり、土砂崩れによって通行不能となった場合には、営造物(道路)が通常有すべき安全性を欠いている状態であり、一般車両はもちろんのこと警察や消防の緊急車両であっても通行することができないこととなる。
 一方、道路交通法の規制の場合には、道路法と同様に道路構造の損壊等による通行規制(道交6④)と、標識等によって全ての通行者が一律に規制される規定(道交4①、道交8①)がある。このうち、道交6④については、通行規制の要件を「道路の損壊、火災の発生その他の事情により道路において交通の危険が生ずるおそれがある場合」とし「道路の損壊」を例示しているものの、「その他の事情」として交通の危険が生ずるおそれのある広範な事象を対象としており、道路構造の物理的変状はこの規定の通行規制において必須ではない。また、物理的変状を伴わない規制(道交4①、道交8①)については、別途、警察官等への交通整理(道交6①)に従う義務あるいは警察署長の許可(道交8②)による通行の規定が用意されている。さらに、緊急自動車等については道路標識等による通行禁止の例外扱いとする規定(道交41①)が用意されており、緊急自動車等の運行に支障のないよう配慮がなされている。
 
3.各規制権者の権限の内容
 前述のとおり、道路法の通行規制は例外なく全ての通行者に及ぶのに対して、道路交通法の通行規制は危険防止及びその他交通の安全と円滑を図るためであれば一般的な規制に対して別途、個別あるいは通行者の種別に応じた規制措置をとることのできる権限が警察官等に与えられている。つまり、警察官等は、通行者の属性によって通行の可否を選択的に判断することが可能である。具体的には、災害発生時に一定区間を通行禁止とし避難及び救助関係者のみを選別して通行させることができたり、パレードや祭典において特定の者の通行のみを認める措置等が挙げられる。
 一方、道路において土砂崩れや路肩崩落が生じ道路管理者が通行禁止等の通行規制を行った場合には、一律に全ての通行者に対して規制の効果が及ぶこととなるため、その規制の原因を解消し通常有すべき安全性が回復するまでは個別の通行者を選別して通行させることはできない。
 ただし、道路法の規制に道路交通法の規制が重なることも考えられる。この場合は、道路法の通行規制において通行が認められた形態を侵さない範囲で道路交通法の規制が行うことができるものと考える。たとえば、道路管理者が土砂崩れ等による片側交互通行規制を行った後、その区間にある集落の住民を早急に規制区間外への避難させようとする場合などである。この場合、警察官等は住民の避難を優先するため避難者以外の通行を一時禁じ住民の通行のみを認めたうえで、道路管理者の片側交互通行規制に重ねて規制を行うことも可能であるといえる。
 
以上
 

 
【参考文献】
[行政実務] 新建設行政実務講座・第6巻、建設行政実務研究会編、第一法規出版、昭和57年11月15日発行
 

 

【関係法令】
◎道路法(抜粋)
(この法律の目的)
第一条  この法律は、道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定め、もつて交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的とする。
(道路の維持又は修繕)
第四十二条  道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。
2  道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める。
3  前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。
(通行の禁止又は制限)
第四十六条  道路管理者は、左の各号の一に掲げる場合においては、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができる。
一  道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合
二  道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合

 


 

◎道路交通法(抜粋)
(目的)
第一条  この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。
(公安委員会の交通規制)
第四条1 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。この場合において、緊急を要するため道路標識等を設置するいとまがないとき、その他道路標識等による交通の規制をすることが困難であると認めるときは、公安委員会は、その管理に属する都道府県警察の警察官の現場における指示により、道路標識等の設置及び管理による交通の規制に相当する交通の規制をすることができる。
2  前項の規定による交通の規制は、区域、道路の区間又は場所を定めて行なう。この場合において、その規制は、対象を限定し、又は適用される日若しくは時間を限定して行なうことができる。
3  公安委員会は、環状交差点(車両の通行の用に供する部分が環状の交差点であつて、道路標識等により車両が当該部分を右回りに通行すべきことが指定されているものをいう。以下同じ。)以外の交通の頻繁な交差点その他交通の危険を防止するために必要と認められる場所には、信号機を設置するように努めなければならない。
4  信号機の表示する信号の意味その他信号機について必要な事項は、政令で定める。
5  道路標識等の種類、様式、設置場所その他道路標識等について必要な事項は、内閣府令・国土交通省令で定める。
   (罰則 第一項後段については第百十九条第一項第一号、第百二十一条第一項第一号)
(警察署長等への委任)
第五条1 公安委員会は、政令で定めるところにより、前条第一項に規定する歩行者又は車両等の通行の禁止その他の交通の規制のうち、適用期間の短いものを警察署長に行なわせることができる。
2  公安委員会は、信号機の設置又は管理に係る事務を政令で定める者に委任することができる。
(警察官等の交通規制)
第六条  警察官又は第百十四条の四第一項に規定する交通巡視員(以下「警察官等」という。)は、手信号その他の信号(以下「手信号等」という。)により交通整理を行なうことができる。この場合において、警察官等は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため特に必要があると認めるときは、信号機の表示する信号にかかわらず、これと異なる意味を表示する手信号等をすることができる。
2  警察官は、車両等の通行が著しく停滞したことにより道路(高速自動車国道及び自動車専用道路を除く。第四項において同じ。)における交通が著しく混雑するおそれがある場合において、当該道路における交通の円滑を図るためやむを得ないと認めるときは、その現場における混雑を緩和するため必要な限度において、その現場に進行してくる車両等の通行を禁止し、若しくは制限し、その現場にある車両等の運転者に対し、当該車両等を後退させることを命じ、又は第八条第一項、第三章第一節、第三節若しくは第六節に規定する通行方法と異なる通行方法によるべきことを命ずることができる。
3  警察官は、前項の規定による措置のみによつては、その現場における混雑を緩和することができないと認めるときは、その混雑を緩和するため必要な限度において、その現場にある関係者に対し必要な指示をすることができる。
4  警察官は、道路の損壊、火災の発生その他の事情により道路において交通の危険が生ずるおそれがある場合において、当該道路における危険を防止するため緊急の必要があると認めるときは、必要な限度において、当該道路につき、一時、歩行者又は車両等の通行を禁止し、又は制限することができる。
(通行の禁止等)
第八条1  歩行者又は車両等は、道路標識等によりその通行を禁止されている道路又はその部分を通行してはならない。
2  車両は、警察署長が政令で定めるやむを得ない理由があると認めて許可をしたときは、前項の規定にかかわらず、道路標識等によりその通行を禁止されている道路又はその部分を通行することができる。
(緊急自動車等の特例)
第四十一条1 緊急自動車については、第八条第一項、第十七条第六項、第十八条、第二十条第一項及び第二項、第二十条の二、第二十五条第一項及び第二項、第二十五条の二第二項、第二十六条の二第三項、第二十九条、第三十条、第三十四条第一項、第二項及び第四項、第三十五条第一項並びに第三十八条第一項前段及び第三項の規定は、適用しない。


 
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