ぼさっと、農道のようなところから出てきたサラリーマンバッグをもった親父を横目でみながら郵便配達の軽トラックが行きすぎました。「なんだぁ、あいつ。あんなとこに立って。どこから来たのかな。あ、さっき町で噂になっていた金持ちってあいつのことか?戻って乗せてあげたら喜ぶかな・・おっと仕事優先。それにアイスを買わなきゃね、そっちのが急ぐのよ」と郵便配達トラックは一瞬躊躇をみせたようでしたが、なにごともなく配達に向かいました。
「道路を越した先はずっと線路が直線であるような錯覚をしますが、実際はこの少し先で左にカーブしていくのです。ここを歩けば色々発見があると思ったのですけど、駅のマムシ注意の看板が頭をよぎり、遠く離れた倶知安駅長にね、小沢駅は、無人なので倶知安駅が管理していますので、駅長にご心配をかけるわけにもいかないし、サラリーマン探検隊長としても危険を冒すわけにはいかん、部下の命が優先であると線路跡を辿るよりももっと確かに証拠を探す仕事に切り替えたんですね。」
「え、部下はいないでしょうって。はい、私が隊長兼隊員ですので、隊長の命令に従ったまでです。あ、今は部下の立場ですが・・・」

「さて、ここから舗装路に沿って国道に戻るとなにやら橋が見えました。国道とは踏切で交差していたのではなく、国道が跨線橋で越えていたのでした。 もしかすると、そこに何か証拠があるかもしれないと足は自然とはやくなりましたね。もちろん、帰りの列車の時間も気になるところでもありましたしね。
着いてみると、証拠は簡単に見つかりました。線路を越える以外に命名のしようがない証拠です。このときは、発見に興奮したのか、暑かったのを忘れるくらい鳥肌がたちましたね。」

「国富跨線橋と彫ってありますよう。鋳造ですが、しっかりと線を跨ぐとなっていますよ。これが証拠、論より証拠。え、線を越したのは分かるけど、何線だか分からないだろうって。そこまで、いいますか??仕事できてないと仰るんですか?では、再現してみましょう。
ほら、見てください。
こちらは跨線橋から小沢方面を見たところですが、芝生の道みたいなところが線路跡ですよ。よく見てると線路が見えてくるでしょう。


「次に反対側は、前田駅側になりますけど、しっかり登りにかかる幻の線路がみえるでしょうが。これが、証拠です。これが私の仕事です。」


「今は、線路もなにもなくなり小沢~岩内間はニセコバスが午前7時から午後7時まで1時間に一本程度で計9本走っていますが、鉄道の頃も小沢発が6時4分から最終が午後9時過ぎまで8本で8時を逃すと次は11時59分という約4時間も間が空くダイヤだったようでね。無くなる理由も分かりますが、寂しいモノです。これは国富付近のバス停の時刻表ですね。」

「しかし、暑いですね。当たり前ですが、昼に近くなると余計に暑くなります。あ、川の音です。たぶん堀株川というのでしょうか。ニセコ峠を分水嶺にして倶知安側は尻別川に、こちらは岩内線の線路に沿って岩内の海まで、ニセコや銀山からの水をすべて集めて行く川になるんですね。このところの豪雨もあって、本当に株があったりして堀株川ってそこから来たか、って感じでしょうね。こういう川にもオショロコマはいるのでしょうかね。え、日高までいかないといないって。あ、そうなんですか。」

「さて、テクテクテクテクと歩いて小沢駅まで着くと、写生の子供達はもういませんでした。がらんとした駅前から跨線橋を渡り、ホームに着いたのが列車到着の15分前でした。ま、帰りは見るものもなく一直線に帰りましたから、早かったですね。しかし、びしょ濡れです。下着は絞ると汗が落ちます。しかたないので、誰もいないことを幸いに上半身裸で、シャツはベンチで干すことにしました。」

右に買ったばかりのポカリみたいな飲料と例のビジネスバッグ、ベンチにはびしょびしょのシャツが干してある何気ない無人駅の風景
「でも、このホームの向こう側に一番線があってホームももっと立派だったんですよ。なんか見えませんか。あれ、汽笛も。また聞こえる。」

暑さでぼーっとした男が小樽方面を眺めていると、また、真夏の幻が見えてくるようです。男を迎えに来る列車は本当は「急行らいでん」小樽行きなのかもしれません。

次回は、岩内線幌内駅編をお送りします。