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アトリウム巨額お手盛り融資に思う

2009-01-07 | 会計・株式・財務

お疲れ様です。

荒れに荒れている不動産業界。
そんな中、1月3日及び6日の毎日新聞でこんな記事があったとは
知りませんでした。
非常に興味深くかつレアな事例だと思いましたので、
自分のために記事を整理しておきます。
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<アトリウム>東証1部不動産会社社長、自社から20億円借金
■2009年1月3日(土)
 
◇担保割れ、引当金11億円

 大手ノンバンク「クレディセゾン」の子会社で、東証1部上場の不動産会社
「アトリウム」の高橋剛毅社長が、自社から約20億円の融資を受けて
ストックオプション(自社株購入権)で生じた所得税の支払いなどに充てていた
ことが分かった。株価低迷で担保の株の評価が下落し、ア社は貸倒引当金11億円
を計上。
会社に多額の損害を与える可能性があり、
専門家は「上場企業としては前代未聞のお手盛り融資」と厳しく批判している。


◇自社株購入に伴う納税に充当

 ア社によると、高橋社長は事前に定めた価格(権利行使価格)で自社株を取得
できるストックオプションの権利を04年1、12月に会社から付与され、
06年4月と07年3月に権利行使し計108万株を取得した。
株価は当時3310~3933円で、売却すれば権利行使価格(1株約200円、
総額約2億円)との差額約39億円の利益を手にできた計算になる。
しかし、うち105万株は売却せず、含み益に対する所得税と住民税計
約20億4000万円を課税された。

 高橋社長はいったん自己資金と金融機関からの借入金で税金を支払った。
しかし、08年4月ごろに借入金の返済期限を迎えたため、売却しなかった
自社株105万株を担保に、自社からの融資に借り換えた。
融資は
▽08年4月21日2000万円▽同28日19億円▽08年6月25日6700万円
――の総額19億8700万円に上った。
返済期限は13年で、ア社によると
「金利は会社の調達金利に1%未満を上乗せした」という。

 担保株の価格は、借入時は1株1096~1662円だったが、
08年8月29日には582円に下落した。
港区にある高橋社長の自宅を追加で担保設定したが、監査法人の指摘に従って
回収不能に備え、08年8月中間期決算で貸し倒れ引当金11億円を計上、
半期報告書に記載した。
決算後、さらに高橋社長が将来受領する退職慰労金にも担保設定した。

 高橋社長は毎日新聞の取材に
「株価上昇が見込めたことや、代表取締役が大量の株を売却すると会社の先行
きについて誤解を与える恐れがあることなどから株を売却しなかった」などと
文書で回答した。
ア社は「取締役会の承認を経た融資であり適切と考えている」としている。


■1月6日(火)


同社が高橋社長に約20億円を融資する際、担保の自社株105万株の評価額を、当時の時価相当額と同額(100%)と算定していたことが分かった。株は下落リスクが高く、通常は時価相当額の70~80%以下で評価する。金融機関ではあり得ない高い評価額とされ、専門家は「融資を承認した全取締役の責任問題になる可能性がある」と指摘。
 
同社では、「福利厚生を目的とした社内融資であり、適切と考えている。複数の
弁護士から『問題ない』との意見書も得ている」とした。

 しかし、証券関係者によると、
通常の融資では(1)株は元々下落リスクが高い(2)大量の株式を一気に売却
すると株価が下落する――などから、時価相当額の80%以下で評価するという。
銘柄によっては50%程度で評価することもあるとされる。

 また、今回のような証券担保ローンの場合、担保の株価が下落し時価総額が
融資額を下回りそうになると、返済期限(今回は2013年)前でも自動的に担保
を処分し債権回収する規定が付されていることが多い。
しかし、アトリウムは株価が融資時の6分の1以下の約300円で推移している
現在も株を処分しておらず、この規定を盛り込んでいなかった可能性がある。


                         (以上、引用終了)
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(コメント)

・本件については半期報告書の39枚目と70枚目に少しだけ記述があります。
   一応リンク張っておきますので、時間のある方はご確認ください。
     「半期報告書」 

・自分が株式を売ってしまうと投資家に株を勧められないという高橋社長の
考えは理解できます。通常の条件であれば自社からの借入もダメとはいえない
 とは思います。
 しかし、「ミスター内部統制」青山学院大大学院の八田進二教授の手に
 かかりますと、やはり「ダメ出し」の対象となってしまいますね。手厳しい。
 (3日時点。同紙にて)

 「ストックオプションは報酬であり、税金は社長個人が負担すべきだ。
  会社からの借金で賄うのは会社の私物化と言われても仕方がない。
  自社株を担保に約20億円を貸し付けたことは、返済できない場合、
  会社が同額で自社株を買うことになりかねず、資本を棄損する恐れがある。
  会社が高いリスクを負って社長に巨額の拠出をしたお手盛りの印象が強い。
  同族企業のようで、上場企業では前代未聞ではないか。」



・でもやはり問題なのは、6日に発覚した、
    担保掛目が10割であったこと、
    株価下落時に担保処分していないこと。
  これはさすがに弁護士からも法的な問題ありと指摘を受ける始末。
  正直、何でこんなバカなお手盛り融資をしちゃったんでしょうか。
  理解に苦しみます。


・皮肉なものです。
 12月に出た「アトリウムジャーナル」では高橋社長が
 株主からの質問に答えるような形式で、
 次のようなコメントをしておりました。

 多くの個人株主の皆様から自社株買いの要望をいただいております。
ただ、財務基盤強化を目的として9月末に劣後ファイナンスを実施させて
いただいた直後ということもあり、資本の払い戻しにつながる自社株買いを
行うことは現状合理的とはいえず、今すぐということでは
ご期待に沿える環境ではありません。


しかし、このままいくと、八田教授が指摘されているように、
 実質的には20億円で自社株を買い戻したことになり
 図らずも「株主の期待に沿う」ことに。
 融資を受ける段階で想像しなかったんですかねぇ?


・最後に気になるのが、
 9月末で、親会社クレディセゾンの林野社長(当社では相談役)が
 スッーと退任していること。

 退任理由は知りませんが、まるで何かを避けるかのように・・・・・。
 絶妙のタイミングと言ってしまうのは言い過ぎでしょうか。
(半期報告書18枚目)                

またいきます。

なかのひと

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3 コメント

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企業の財務情報 (就活太郎)
2009-01-10 23:29:59
管理人様、はじめまして。
いつもブログ拝見してます。
ブログの内容とは、ほとんど関係がないのですが少し質問があります。
今、私は就職活動をしていまして、やはり企業の経営状況などが気になります。ただ、財務情報などを見ても、大学の専攻は理工系なので良く分かりません。数字には多少強いと思いますが・・・。
売上高、営業利益、経常利益、有利子負債など、この数値を比較するとか、その企業経営の健全さが分かるポイントってありますか?
やはり一般の人が得られる情報だけだったり、専門的な勉強をしないと、企業の状態の良し悪しを判断する事って難しいのでしょうか?
よろしければ、ご教示の方お願いします。


返信する
取り急ぎ・・・・ (dancing-ufo)
2009-01-11 21:51:05

コメントありがとうございました。

ご質問の件ですが、
「財務分析」でググりますと、
いろんなサイトが出てきます。

たとえば、「決算書の読み方・財務分析のしかた」
というサイト
http://fsreading.net/
の中にある「安全性の財務分析」
http://fsreading.net/analysis/201.shtml
のページとか参考になるのではないでしょうか。

財務分析はかなり体系的に整理されていて
市販本でも入門書は沢山出ておりまして
どれも内容は大差ないと思いますので
まずは一読してイメージを理解してみてください。
でも大事なのは、実際手を動かして計算すること。
コレが大事です。

(無論、財務諸表がどうやって作られるのか
を知るために簿記の知識もあったほうが良い。)

興味が高まったら
ぜひ、証券アナリスト資格にもトライして
http://www.saa.or.jp/
みてください。
http://www.saa.or.jp/

就活、頑張ってください



返信する
返信ありがとうございます (就活太郎)
2009-01-12 23:31:14
管理人様、お忙しい中ありがとう御座います。

アドバイスを参考にして、自分なりに本やネットを使って、いろいろ調べていこうと思います。





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