御伽話12

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一人きり 01

2009-04-29 23:09:40 | 日記
『一人きり』

 私はOLになった女。21歳で、いつも一人で暮らしている。恋人はいたが、19歳の時別れてから、それ以来彼氏を作らないようにと決めた。元々恋愛に向いている性格ではない。真っ暗な心が好きで、明るい色彩の心模様は私にはあまりない。リストカットは目立つので、腕に一文字の傷をたまにつける事がある。アームカットがなければ生きていけない訳じゃないけど、恋人と別れてから、傷跡をつけるようになった。
 遠くに離れているので、両親や数少ない友人とは交流が途絶えた。それでも、仕方なしだと思ってはいる。わざと私は過去を捨てたんだ。別に虐められていた訳じゃないけど、完全に一人になりたくてここに来た。ただ何となく私はこの地域に交わりたかった。
 パソコンで実際の伝票を確認してから画面に入力する。このソフトは会計の専用ソフトで会社の経済情報について、効率的にソフトで把握する。
受付の電話を取ったりするのも私の仕事の一つだ。女性社員は私一人しかいない。私も含めて3人の会社だ。社長は24歳でベンチャー企業を立ち上げている。部長は23歳で社長の弟らしい。営業に行く機会が二人とも多いので、私はお留守番もかねている。これもある意味仕事の一つに違いはないのだろうけど。

一人きり 02

2009-04-29 23:08:31 | 日記
公園で腕を切る。刃物なら何でもいい。ただ腕を切る。最近は仕事も覚えて退屈しのぎに、腕を切って行く。あまり痛みを感じない程度だから、傷口はすぐに薄くなる。右腕にしか傷が残らない。アパートで、一人で暮らしていると、頭がいかれそうになる。休日は一人で公園にいて、小さな子供たちがブランコで遊んでいるのを見るのが、日課になっている。余程楽しいんだろう。私は子供を作れば一人にならないで済むとは、分かっているが。しかし、子育てができる程強くない。それよりも一人に慣れた方が賢明だ。
 会社ではドライアイにならないように目薬をさしている。目薬が目に入った瞬間が気持ちいい。目が生き返るようだ。そして、また仕事に戻る。今月は決算の時期だから忙しい。
私は給料も無駄遣いせずに、少しの額ではあるが貯金している。それで将来、保険に入るつもりのために、とっておくという目的がある。自分のことは自分でけりをつけたい。
 会社は小さな貸しビルの3階にある。床には薄い灰色の絨毯が敷いてあり、後二人くらいはあるスペースはあるにはあるが。天井は黒い染みがあちこちあるにはある。壁は白色で、机も椅子もパソコンも中古で集めたらしい。それでもかなりの額の費用がかかったみたいだ。
 会社にいられるのも、いくつぐらいだろうかと考えてみる事がある。40までは最低でも働きたい。この会社でもなくていいかと思うときが時々ある。
結婚する意思はない。キャリアアップしてもっといい会社を探す事になるだろう。今は転職するつもりはない。社長も部長も私を猫かわいがりをしてくれるからだ。それが若い女性の特権なのかもしれない。女は一人しかいないし、他に増員するとすれば男だろうだから。
社長と部長は、格好は普通のサラリーマンと一緒でスーツに革靴を履いている。しかし、少しだけ違うのはネクタイを締めてはいない。重要な用件があるまでネクタイは締めない。 
社長は結婚しているらしい。子供が出来たと聞き、写真を見せてもらった。しかし、生憎だが私は変わり者なので、素直に可愛いと思えなかった。女がこれを見たら普通は可愛いと思うのだろう。私には理解ができないが。
 部長も付き合っている彼女がいる。プリクラを見せてもらった。中々美人の女性だった。私はうわべ使いをほんのり使って、あまりくどくないように軽く褒めた。部長も格好は悪くないから、きっと恋愛経験も相当あるはずなのに、さほど自慢はしないみたいだ。

一人きり 03

2009-04-29 23:07:07 | 日記
煙草は、学生時代は吸っていたが、今は金がないので吸うのを止めた。酒もいけるのだが、これも煙草同様金がかかるから止めた。
学生時代の思い出の一つだが、私はコンビニで缶ビールを飲み、そして飲み終われば、ゴミ箱に缶を捨てて、そしてガムを噛んで実家に帰っていた。恋人と一緒に飲む時は、白ワインを飲んでいた。その時の彼氏は酒好きで、休みの日は結構酒を呑んでいた。
 こんな事を考えながら、ベッドで寝ている。夢を見て、はっとして目を覚ました。夜中の三時だった。最近はよく夜中に目を覚ます。
懐かしい映像が目を覚まさせる。学生時代の頃をよく思い出す。しかし、そのセピア色に変化した思い出は、今の私には必要じゃない。あの頃はアムカをしていなかった。今思うとそれなりに良かった。息苦しかったけど、自ら金を稼ぐという行為をしないで済んでいた。
今なら、父親の辛さが分かる気がした。私よりもっとシビアな悩みがあったと思う。一人の為だけじゃない。家族の分まで養うために、働いていた。私は今頃になって、そう気づいた。
もっと給料の高い仕事を見つけるために。でも、女同士のいざこざがないから、今の職場でしばらくは丁度いいのかもしれない。揺れている。お金を取るか、働き安さを取るか。私は悩んでいる。
腕の切り傷もすっかり綺麗に戻った。最近はアームカットをしなくなった。ただ公園で外の空気だけをベンチに座って吸うようになった。もう孤独になれたのかもしれない。ここの地域に来てからもう何年が経ったのだろう。この街に馴染みすぎて、最初からこの街を気にいていた。一人でいてもあまり目立たない為だろう。もっとも公園の子供たちには目立っているのかもしれないが。
出会いがないし、お見合いする金もない。実家に戻ればそうできるだろうが。両親に何かあるまでは、実家には帰りたくない。だから、出来る範囲で、私は一人で生きようとしている。

一人きり 04

2009-04-29 23:02:05 | 日記
私は保険に入った。OLになって8年が経ち、ようやく生活にほんの僅かだが、ゆとりが出てきた。給料が私の労働力に見合ったぐらいの額になった。
 実家では、まだ両親二人で、トラブルなしで生きているようだ。仕方なく私は会社と実家の携帯番号を。会社だけにメールアドレスを教えている。携帯も何年も変えてはいない。変えるのが面倒なだけの理由なのだが。会話さえできれば、どの会社のどの機種でも構わない。一応殺風景な部屋に、机の引き出しに携帯に登録してある連絡アドレスを書き記している。携帯だけで、私と家族は繋がっている。最近は、両親ともどこか覇気がない。あれ程居心地の悪い家庭だったけど、今思えば独り立ちさせてくれたのも事実だ。
24歳の時もそう思った。今は27歳になり、ここ三年間で、両親が老いてしまったのだなと感じるようになった。でも、時間が経つにつれて。月日が流れるのにつれて。そう思うようになった。あれだけ仲たがいをしていたのに、もうその事は忘れていっている。でも、今更帰りたくないし、やはりこの街に住みたい。
 私はぶっきらぼうな口調から、優しい声で母親と話すようになった。母親は身体の調子がいいみたいだけど、父親が痛風を患っているらしい。それでも、元気だから心配はいらないよと言っていた。
 公園で、子供たちが遊んでいる。私は人の事を考えられるくらい大人になれた。できれば学生時代にもっと大人になれたら、こんなに両親を、淋しい思いをさせずに済んだのになと思った。少しだけ罪悪感を感じた。でも、独り立ちできたのは、良かったと今でもそう思っている。両親も経済力のある私のことは、あまり心配はしてないようだ。
 電話は月に一回から週に一回に変わった。娘の声を聞きたがっている。
結婚するつもりはないよと言うと、その方があんたらしいわねと言ってくれた。子供の顔を見るのを諦めたらしい。
 会社と両親に必要とされていて、尚且つ一人で生きていけるだけの力を身に付けた。今の方が学生時代よりもずっといいのかもしれないと思った。私は、パートナーは自分一人でいいと思った。その方が私らしいから。

二人の絆 01

2009-04-29 23:01:20 | 日記
  『二人の絆』

 私は煙草の湯気を眺めながら、隣にいる男を気にしている。雨が振っている。ワイパーが水滴を激しく飛ばしている。車は煙草の匂いがして心地よい。 男はくわえ煙草で、器用に運転している。目的地は男のアパートだ。小型車で、男の友人から受け継いだものらしい。シルバーの車体の色が渋い。真夏の今は、クーラーが気持ちいい。私は白いティーシャツに黒いジーンズと茶色いブーツをはいている。男は黒いティーシャツと青いジーンズを穿いていて、スニーカーを入っている。29歳で、一度サラリーマンをやっていたらしいが、両親の面倒を見るため、時間の融通のきくフリーターになる事にしたらしい。両親が死に、今は私以外に家族はいないらしい。
私は高校を中退して、バイト先で男を作った。アイスクリーム屋でフリーターをやっている青年と付き合う事になった。何となく二人とも惹かれあったみたいだ。デートはしない。ただ男のアパートで一緒に同棲をして、二人で一緒にいる時間を大切にしていた。
私の両親は健在だが、私はもう二度と生きているうちは顔を合わせたくない。私には5歳年上の兄がいる。私は兄に対して恨みはないが、きっと私に対する愛情は兄よりも、ずっと少ない。兄は官僚になっていて、両親の自慢の種だ。
妹の私は高校を退学して、それ以来、フリーターをしていた。そこでアイスクリーム屋でバイトをして、今の男と出逢った。
特に話が面白い訳でもなく、あれも普通だが、何となく一緒にいたいと思わせる雰囲気がある。ただ籍を入れただけで、私は結婚したと兄だけに伝えた。兄は祝福の言葉を言ってくれた。両親には内緒にしてくれるらしい。いずればれると思うが。
他にも新聞配達やその他のバイトもやっている。ずっと二人で同じ職場にいる。周りからは兄妹に思われているらしい。歳の割に男は老けて見えるようだ。それとも私が幼く見られているのかは、聞いたこともないのでよく分からない。
私はこのくらいの距離がいいと思う。ただ一緒にいる。酒は二人とも下戸だし、食欲も二人ともあまりなくて、共通項も結構ある。夫婦って気がしない所が結構いい感じだと思っている。それは私だけかもしれないが。
アパートのクーラーはいつもつけっぱなしでいる。二人とも共稼ぎだから、お金には不自由しない。シャワーを浴びて、キスだけして寝る事が多い。煙草の味のするキスを。いつか中古マンションを買おう。男の目標らしい。男の家は売ってしまったらしい。だから、後数年経てば夢が叶う。外で二人して煙草を吸う。会話は無い時もあれば、よく話す事もある。私からは話をする事はしない。だから、男次第だ。やりたい時にやらしてあげるし、できる限り、男の要求をのみたい。幸せって感じはあまりしないのだが、やはり家にいた時よりもずっといい。
私が20の時、男は中古マンションを買った。800万のでかい買い物だ。2LDKで寝室があり、狭かった前のアパートと比べて断然暮らしやすそうだ。
成人式には出席した。皆すっかり見違えるように見た目が変わっていたから、少々驚いた。昔の彼氏もいたりして、中々興味深かった。普段着で行ったから、昔の友人たちの振袖姿と比較してかなり浮いていた。まあ、クラスの中でも金髪で、中学校に行って、進路指導室で先生に注意された事もあるから、最初から浮いているって言えば、浮いているのだが。遅刻はしなかったが、途中で、学校を抜け出して、三人目の彼氏の大学生と遊んでいた事もある。
成人式が終ったら、すぐマンションに戻った。
マンションは和室が無い。4,5畳の部屋と6畳の部屋がある。二つとも絨毯だ。ウォシュレットのトイレに、ベランダは前の所と比べ物にならないほど広い。風呂も自動で湧かれるし。とにかく、生活が便利になった。アパートの近くのマンションだから、バイトにも支障がない。