「大自然と歌声の国を訪ねて」 in リトアニア2009年夏

2009年の欧州文化首都であるリトアニアの首都ヴィリニュスでの滞在日記です。

「大自然と歌声の国を訪ねて」 ~リトアニア滞在記2009年夏~ 第1回

2009年10月21日 | 第1回

 

みなさま、こんにちは。学生の頃から旅行が好きで、これまでにクラシック音楽とアートをテーマとしてヨーロッパを中心に20カ国以上を旅してきました。

このたび、このブログの場をお借りして、2009年夏に訪れたリトアニア滞在記(付=ラトヴィア・フィンランド紀行)をアップさせていただくことになりました。まだまだ至らぬ点などがあるかと思いますが、頑張りますのでしばらくお付き合いください。

第一回目の今日は、私がリトアニア文化やリトアニアの作曲家・画家チュルリョーニスに興味を持ったきっかけや、リトアニア滞在のおおまかな目的・概要をお話しします。

 

まず、みなさまはリトアニアについてどのくらいご存じでしょうか?

リトアニアはバルト海の東南岸地域に位置し、北はラトヴィア、南東はベラルーシ、南はポーランド、南西はロシアの飛び地カリーニングラード州と国境を接しています。面積は65,200km²、つまり日本の北海道の4分の3ほどの大きさです。人口は334.6万人。カトリック教徒が多く住む自然に囲まれた国です。音楽の面でバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)は、4,5年毎に数万人規模の国民が参加する合唱祭や舞踊祭が行われていることでも有名です。実際、バルト三国の各国民にとって合唱とは民族意識高揚のための大切な文化のひとつとなっていて、特に、1988年にエストニアで行われた合唱祭は「歌う革命」とも呼ばれ、会場には30万人近い人々が集まり、ソ連邦からの独立回復へのきっかけをつくったことで知られています。長い歴史のなかで大国に翻弄され続けたリトアニアでしたが、1990年にソ連邦からの独立回復を宣言、1991年には他のバルト諸国、エストニア、ラトヴィアとともに独立が国際的に認められ共和国となり、さらに2004年にはNATO加盟に続いて、EUにも加盟を果たしました。 

私が初めてリトアニアを訪れたのはロンドン大学大学院留学中の2004年。NATO加盟に続きEUにも加盟したばかりのバルト三国を訪れてみたくなったのでした。ラトヴィアのリガから片道5時間かけてのバスの旅。行く先々で民族音楽やその土地の作曲家のCDを購入するのを常としていた私は、リトアニアやラトヴィアでも数枚のCDを入手し持ち帰り、そこで初めてチュルリョーニスの音楽に触れ、彼の音楽のもつ独特な素朴さに惹かれていったのでした。その後もバルト地域の歴史的背景などを学んだりするうち、リトアニアへの興味がさらに深まり、2008年には国立チュルリョーニス美術館のあるカウナスへも足を運びました。そこで画家としてもプロフェッショナルであったチュルリョーニスの絵画を目の当たりにし、強い衝撃を受けたのです。

「これほどまでに芸術分野全般に精通した芸術家が他にいただろうか?」

ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875-1911)とは、リトアニアを象徴する作曲家・画家であり、写真や文学の分野でも類まれなる才能を発揮させていました。画家としてのチュルリョーニスは1992年にセゾン美術館で展覧会が行われ、特に上記の絵画「第五ソナタ」(海のソナタよりフィナーレ)は、葛飾北斎の富嶽三十六景のなかの「神奈川沖浪裏」にモチーフが似ていることから話題となったのですが、彼は作曲家としても超一級なのです。この想いが通じたのか、2008年にはチュルリョーニス研究家でリトアニア独立回復の立役者でもあるヴィータウタス・ランズベルギス氏の著作“M. K. Čiurlionis: Time and Content” (1992) の邦訳の校閲作業やディスコグラフィー作成に関わる機会を得、それまで国内外にて買い集めてきた30冊ほどの画集や論文集や写真集、60枚ほどのLPやCDなどが思いがけず役に立ったのでした。

そして2009年夏、リトアニアにすっかり魅了された私はひとり、ヴィリニュス大学の4週間のリトアニア語講座に参加。留学の目的は語学習得のほか、今年ネリス川対岸に改装オープンした国立美術館で催されたチュルリョーニスの特別展「色と音の対話:チュルリョーニスと同時代の芸術家たち」と、UNESCOの無形文化遺産にも指定されている国民参加型の《歌の祭典》をその場でじかに体験することでした。民族衣装をまとった国民が集い、一心不乱に歌い・踊る姿からはバルト民族のもつ強い信念が感じられました。この強い信念こそがリトアニアをふたたび独立へと導いたのだ、と。私のチュルリョーニスの旅はそれで終わることなく、ヴィリニュス大学の4週間の語学講座に通いながら、ヴィリニュス旧市街ではチュルリョーニスがかつて住んでいた家(現・博物館)を訪れ、館長さんから貴重なお話と資料を頂戴したほか、チュルリョーニスが眠っている墓地も訪れました。演劇と音楽と映画の博物館ではチュルリョーニスが使用していたピアノに触れ、またヴァレーナにある生家跡、一連の有名なプレリュードを作曲した場所でもあるドルスキニンカイの記念館、チュルリョーニスが絵画に描いたベラルーシとの国境にあるライガルダスの谷へも足を運ぶことができました。カウナスではチュルリョーニス研究者にお目にかかり意見交換することができて有意義でした。そこで来年1月に行われるチュルリョーニス学会にもお招きを受けたのです。そしてなによりも幸運に恵まれたことは、ランズベルギス氏のピアノ演奏によるオール・チュルリョーニス・プログラムの演奏会を聴く夢が叶ったことでした。一生記憶に残る良い経験となりました。    

ヴィリニュスでの4週間の滞在のあと、ラトヴィアのリガとフィンランドのヘルシンキにも立ち寄り帰国しました。これらの滞在を日記形式で少しずつアップしていきますので、よろしくお願いいたします。


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