アジア映画巡礼

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そろそろ本腰入れて『バーフバリ 伝説誕生』を語ろう<2>壮大な物語の背景

2017-02-19 | インド映画

『バーフバリ 伝説誕生』ご紹介第2弾です。


前回、「ある大河物語の引用もほの見えて」と書きましたが、実はこの作品、インド古代叙事詩の「マハーバーラタ」が下敷きになっているのです。観客がそれに気付かされるのが、日本版予告編の冒頭に出てくるこのシーンです。

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河を流されていく赤ん坊、というイメージは、インドでは、箱に入れられて河に流される「マハーバーラタ」のカルナか、あるいは残虐な伯父カンスの手から逃れるために、ヴァースデーヴァによって篭に入れられてヤムナー河を渡っていくクリシュナが連想されます。映画の中でもトップシーンに登場するこの「河を流されていく赤ん坊」を見て、観客はおぼろげに物語のその後の展開を感じ取るのです。しかも、このスチールからもわかるように、赤ん坊は女性(ラムヤ・クリシュナ)の手によって支えられて河を流されていきます。水中に没しながらもなお、この赤ん坊を生かすために不死の存在となる女性。この強烈なオープニングシーンで、観客はぐっと物語に引き込まれるに違いありません。

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その後、前回ストーリーで書いたように、赤ん坊は近くに住むサンガ(ローヒニ)夫妻とその配下の人々に助けられ、シヴドゥと名付けられて成長します。シヴドゥはなぜか村はずれにある大きな滝に引きつけられ、そこにやってきては滝の上流にある世界を想像し、何度も何度も滝を登ろうとします(この滝のシーンが素晴らしくて、CGでの合成とわかっていながらも惹きつけられます)。やがてたくましい若者に成長したシヴドゥ(プラバース)は、シヴァ神の象徴であるリンガに灌頂(水を掛ける行為)を行って願掛けする養母の苦労をなくすために、巨大なリンガを滝の下まで運んでしまうような剛力の勇者となっていきます。上にスチールを付けたこのシーンも本編中の見せ場なのですが、皆さんには大画面で見ていただきたいため、動く映像は付けないでおきましょう。

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こうして力を付けたシヴドゥはある日滝の上まで辿り着き、女戦士アヴァンティカとの出会いによって、マヒーシュマティ王国を巡る争いの中へと巻き込まれていくことになります。巻き込まれる、というよりも、本来彼がいるべき場所へと引き戻されていく、といった感じでしょうか。そして前回の家系図に書いたような、ビッジャラデーヴァ(ナーサル)とその弟ヴィクラマデーヴァとの王位継承問題に端を発した、王国の運命がフラッシュバックで語られていくことになるのです。弟ながら王にふさわしいとして王国を継いだヴィクラマデーヴァですが、フラッシュバックが始まった時点ではすでに亡くなっており、本作では姿を現しません。兄のビッジャラデーヴァは自分の左手に障害があるため王に選ばれなかったのだ、と思い、そのことを恨みに思っているのですが、ヴィクラマデーヴァ亡き後国政を引き継いだのはビッジャラデーヴァの妻シヴァガミ(ラムヤ・クリシュナ)だということからもわかるように、ビッジャラデーヴァは王の器ではないのです。このあたりの卑小な人物像を、ベテラン俳優のナーサルが実にうまく演じています。ナーサルは、日本で公開されたタミル語映画にいっぱい出ていますので、皆さんもご存じですよね。

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この、王族の兄弟のうち、兄に身体障害がある、というのもまさに「マハーバーラタ」。「マハーバーラタ」は最終的にはパーンドゥを父とする5人の王子と、パーンドゥの異母兄であるドリタラーシュトラの息子である百王子との争いになるのですが、ドリタラーシュトラは盲目なのです。「マハーバーラタ」は人間だけでなく、神もたくさんからんだ複雑な物語で『バーフバリ』はもっと単純化してあるものの、兄弟の対立に端を発した王国の三世代にまたがる壮大な物語は、「マハーバーラタ」に勝るとも劣らないスケールの大きさです。前編である『バーフバリ 伝説誕生』ではまだ明らかになっていない部分があり、シヴドゥの父親であるアマレーンドラ・バーフバリ(プラバース二役)はどうして亡くなったのか(意外な人物が「私が殺した」と告白しますが、理由は後編に持ち越されます)、そしてその王位をビッジャラデーヴァの息子バラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)が継いだのはどういった経緯からか、という大きな謎がまだ解き明かされていません。また、アマレーンドラ・バーフバリの妃であるデーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)が、なぜ鎖に繋がれて王宮に幽閉される身となったのかも知りたいところです。そんなわけでインドの観客たちも、4月28日に公開される続編『Baahubali: The Conclusion』を首を長くして待っている最中です。日本でもぜひ、『バーフバリ 伝説誕生』がヒットして、すぐに後編も公開されるようになってほしいものですね。

S. S. Rajamouli at the trailer launch of Baahubali.jpg

脚本も担当したS.S.ラージャマウリ監督(上の写真はWikiより)は、「前編も後編も、『マハーバーラタ』の影響を受けている」と語っており、『バーフバリ』が完結したあとには、「マハーバーラタ」を映画化したいという希望も持っているようです。巧みなストーリーテリングはラージャマウリ監督作品の特長の一つで、『バーフバリ 伝説誕生』でもそれに酔わされますが、その彼が「マハーバーラタ」をいかにうまく料理するか、大いに楽しみです。また、ラージャマウリ監督はカメオ出演が好きなことでも知られていて、本作でもアマレーンドラ・バーフバリとバラーラデーヴァが王国のスパイを探して探索に赴く歓楽街シーンで、酒屋のオヤジとして出演していたのですが、なぜかインターナショナル版ではこの歓楽街シーンはカット。残念ながら、日本のスクリーンではお目にかかれません。確かに、この歓楽街でのソング&ダンスシーンは踊り子役に外人女性を起用したこともあって、「マハーバーラタ」の世界が一挙に「パリコレ」になったような違和感がありました(笑)。そんなちぐはぐさもあって、監督は自分の出演シーンも含め、バッサリと落としたのかも知れません。でも、ちょっと見たいですよね。というわけで、このカットされたシーンの後半部を付けておきます。

Manohari Full Video Song || Baahubali (Telugu) || Prabhas, Rana, Anushka, Tamannaah, Bahubali

『バーフバリ 伝説誕生』の公式サイトはこちらです。4月8日(土)より新宿ピカデリー、なんばパークスシネマほかで期間限定ロードショーとなりますので、公開されたらすぐ見に行って下さいね。



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