翌朝は簡単な食事を包んでもらい夜明け前に宿を出た。
街道を黙々と歩き、午後には風光明媚な湯治場としても知られている山麓の温泉街を一方に臨む場所まで歩き着いた。
柔らかな湯気と湯の香りが街道まで温かく包み込んでいて、気まずく打ち解けぬままに長い道程を歩く允と彩玉の心身を優しく労ってくれているかのようだった。
ふと允が街道をそれ、温泉街に続く道へと進んだ。
「ナウリ・・・?」
怪訝に思った彩玉が声を掛けた。
「昨夜はあの様な宿で眠れなかっただろう。今日はここに泊まっていこう。」
「あ・・・でも・・・」
主に両班をはじめとした富裕層が利用する古い書物にもその名が記されている格式高い温泉保養地だった。允にはともかく彩玉には敷居が高い。
「私一人で泊まるわけにはいかないから、一緒に泊まろう。私も・・・少しゆっくり休みたいんだ・・・」
「あ・・・はい・・・」
改めて覇気がなく疲れた様子をした允の姿に心を打たれ、彩玉は允の言葉に素直に従った。
*** *** ***
允は温泉街を迷うことなく歩き、比較的気軽な構えをした宿を直ぐに選んで部屋を取った。
湯治などの長期滞在を目的とした両班たちではなく、旅の疲れを癒すために数日間長旅途上の裕福な商人たちが利用する宿であるらしい。
左捕盗庁にいた頃、この地で温泉の利権を巡って都の両班たちにも波及する複雑怪奇な殺人事件が起こったことがあった。王が行幸の際に立ち寄ったこともあるいにしえからの温泉地であったため、捕盗大将の特命を受け允とミジュンら数名が捜査に加わり、允も何度かこの地に足を運んでいたことがあったことをふいに彩玉は思い出した。
左捕盗庁が管轄する事件ではなかったため、彩玉は詳細はほとんど知らずその記憶自体すでに遥か彼方のものであったけれど、この宿はそのとき允が使った宿であるのかもしれなかった。
允は自分に構わずゆっくり温泉に浸かり髪も洗ってくるといいと言ってくれた。彩玉は曖昧に笑って聞くだけだったが、浴場の岩肌を豊富に流れ落ちる温泉を目にすると、やはり旅の疲れを洗い流していきたいと思う。
結局允の言葉通り時間をかけて湯を使い部屋に戻ると、允はすでに夕食の膳を前に風情ある庭を眺めながら一人杯を傾けていた。真新しい白い衣を着てゆったりとくつろいでいる様子は、思わず見とれてしまうほどの美々しさと気品に溢れている。
彩玉は入口に佇んだまま部屋に入ることが、それ以上允に近づくことができなかった。
彼には気高く堂々と生きてほしい。
誰よりもその様に生きる姿が似合い、清廉で高潔な彼にこそその様に生きる姿は最も相応しいものなのだと思う。
心が、身体が、自ずと一歩退こうとしたとき、彩玉の気配に気づいた允が振り向いてとても嬉しそうに微笑んだ。あまりに和やかで優しい笑みであったので彩玉もつられて笑い、ゆっくり休みたいんだ。と言った先刻の允の憔悴した様子を思い出した。允がやっと見せた明朗な笑顔を消し去りたくなくて、その笑顔に吸い込まれるように彩玉は部屋に一歩足を踏み入れた。
「いい匂いがする。」
彩玉の杯に酒を注ぎながら允が言った。
「あ・・・浴場で一緒になった商家の奥方様が、たくさん作ったからと仰って手作りの香油を分けてくださったのです。」
「そうか・・・」
良質の湯に潤い香油を含んだ豊かな黒髪が、いつもより数倍も艶やかに流麗に一つにまとめて結い上げられていた。冴えざえとした白い肌もより艶かしく光沢のある絹布のようで、允はその華麗なる美しさから目が離せなかった。
酒を勧め食事をするように言い、自らも膳に箸を伸ばした。その様にすれば、彩玉は酒が好きだし少しは気を緩めて食事もするからだ。
「私は、もう・・・。お注ぎします。」
彩玉が酒を注ごうとする允の手を遮って酒瓶を受け取り、允の杯を満たした。そのとき彩玉の髪が少し乱れていたので、允はそっと手を伸ばして綺麗に整えた。
最初から上手く結い上げられなかったその髪の乱れが気になっていた彩玉は、恥ずかしそうに俯いて両手を上げ自らもう一度整え直そうとしている。
ふわりと柔らかな湯の匂いが立ち上ぼり、芳しい香油の香りと彩玉自身の甘い香りが、允に優しく纏わりついた。
可愛らしく愛しく想う気持ちを抑えきれず、允は彩玉を抱き寄せた。
強く抱きしめてもはや抱えきれない心の痛みに呻くように懇願した。
「側にいてくれ。愛してくれなくてもいい。夫ではないと言うのなら、夫でなくてもいい。ずっと一緒に生きてきた。これからもずっと一緒に生きていけると信じていた。これからもずっと一緒に生きていくつもりだった。おまえと離れて生きることなど私にとっては最初から考えられぬ現実には到底あり得ぬことだった。側にいてくれ。頼むから私の側にいてくれ。ただ側にいてくれるだけでいい。ただ、ただ側にいてくれるだけでいいんだ。」
ただ・・・側にいるだけ・・・
愛し合うことも、想いを伝え合うことも、笑い合うことさえもなく・・・
彼が他の女性の手を取り、肩を並べて歩き始めても・・・
ただ・・・側にいて、この命が尽きるそのときまで彼の側で生き続けていくだけ・・・
できなかったわけじゃない。
それがどれ程辛く耐え難いことであったとしても、本当はそうするべきだったのかもしれない。本当はただ黙って見て見ぬふりをし知らぬふりをしてどの様な苦しみにも耐えて、ただ彼の側で彼の意のままに世の掟のままに生き続けていくべきだったのかもしれない。
そうすれば彼は幸せになれただろうか。苦しむことはなかっただろうか。
けれど、もしそうであるのだとしたら、ただ側にいるだけでいいのだとしたら、実はそれはそもそも私などいてもいなくても同じだと言うことに他ならないだろう。
だから・・・
「だめなのか。ただ側にいることさえも、もういやなのか。あの者を想っているからか。私から自由になって新しい誰かを想って生きていきたいと思っているからか。だからだめなのか。」
どれ程強く抱きしめて懇願しても彩玉はもはや決して允の言葉を是とはしない。
また、出て行ってしまうのだろうか。いつまでも纏わりついて決して彼女を手離そうとしない私を家に帰して、彩玉はまた一人、どこか遠い遠い所へ、もう二度と私に探し当てられぬ所へ、行ってしまうつもりなのだろうか。
強く抱きしめられた允の腕の中は、湯の残り香で潤い温泉と酒で体温が上昇した体が熱い熱を発していて、もう一度温泉に浸かっているかのような心地よさだった。彩玉自身の身体にも温泉の温もりと酒の酔いが程よく巡っている。
だから少し気持ちが緩み、彩玉は允が続けた言葉が滑稽にさえ思えて、允の胸の中でゆっくりと顔を逸らして庭に風流に配置された燈籠の灯を眺めた。
ときどき思い浮かべることはあっても、私が彼を斬ったあの男を今更想っているはずがない。
これまでならともかく、すでに彼にこの身を抱かれてしまった私がどうして今更彼以外の新しい他の誰かを想って生きていきたいなどと思えるはずがあるだろうか。
けれど允がそう言うのは、允自身にはその様な未来が内在するからだ。
男と女は違う。
私にとって彼は私の全てを奪った最初で最後の人だけれど、彼にとって私は最初の女でもなく・・・最後の女でもない・・・私との関係を彼なりに終わりにすることができたら、彼はまた彼に相応しい誰かと縁を結び、彼の欲望を十分に満たす美しい誰かを抱くのだろう。
だから彼は私に対しても同じ様に思って私には滑稽にさえ思える不可解な問いをこうも必死に問いかけるのだ。
男と女は、彼と私は、こうも違うのだ・・・
ゆらゆらと揺れる幻想的な燈籠の灯に言葉にできぬ想いを少しずつ紛らせて、彩玉は溢れそうな想いを静かに宥めていた。
機嫌を悪くした幼い子供のようにぷいと横を向いたまま何も言わない彩玉を、允はその幼さと不器用さゆえに愛する人を取り返しのつかぬ程傷つけてしまった少年のようにただ困惑して見つめていた。
腕の中の彩玉の重みが少し増したので横顔を覗き込んでみると、彩玉は頬をぺたりと允の胸に押しつけて大きな瞳の中に純真な煌めきをきらきらと踊らせながら瞬きを繰り返しうつらうつらと眠りかけていた。
昨夜允は一睡もしていないけれど彩玉も仮眠程度の睡眠をほんの数時間取っただけだった。
もう寝かせてやらなければと抱き上げようとしたところ、彩玉が頬を付け頭をもたせかけていた上衣の胸の辺りが濡れていることに気がついた。
湯上がりにまとめた彩玉の髪はまだ多分に濡れたままだった。
彩玉が座の脇に几帳面に重ねて置いてある手回りの品を引寄せ、白い布を肩に広げその上に結い上げた髪を解いて静かに下ろした。たくさんある髪を少しずつ手に取って櫛で梳いては布で拭い、時間をかけて乾かしていると、彩玉はいつの間にかすうすうと規則正しい寝息を立てて眠り込んでいた。
寝間に敷かれた上質の柔らかな布団に運んで寝かしてやったけれど、允の衣の袖を強く掴んでいるので允もそのまま横になった。
彩玉は夢を見ていた。
官婢に身を落とされて以来眠ったことがなかった贅沢な寝具の心地よさが、これまで一度も思い出したことのない幼い頃のあまりに遠い幸せな記憶を呼び起こしていた。
大きな屋敷に住んでいたまだ幼いながらもやっと一人で自由に歩き回れるようになったチェヒは、その頃、自分の部屋から広い邸内の遠く離れた場所にある兄の部屋まで一人で迷わず訪ねて行けるようになったことが自慢だった。
まだ眠りたくなくても夜は決まった時刻に寝かされてしまう。けれど、兄は遅くまで勉学に励んでいるので、皆が寝静まった頃にわずかな邸内の灯りを頼りにこっそり兄の部屋を訪ねた。優しい兄は笑顔でチェヒを招き入れ何度でも一人で迷わず来られるようになったことを誉めてくれたのでチェヒはいつも大満足だった。
膝の上に抱いてひとしきり話し相手をしてもらい、では一緒に学問をしようと誘われる。兄と同じことをしたいチェヒはまんまとその言葉に頷いて、真剣な顔をして難解な書物を見つめながらうとうとと眠ってしまう。
兄はチェヒを膝の上に抱いたまましばらくの間勉学を続けてから、すっかり眠り込んでしまったチェヒを布団に運んで一緒に眠ってくれた。
ふわふわとしたまだ幼く柔らかな髪を撫で、ころりと甘えて横を向き小さな身体を寄せていくと兄自身もまだ少年の幼さを残すしなやかな手で頬に触れ背中を温かく抱き寄せてくれた。
「兄上・・・」
可愛らしく兄を呼ぶ彩玉の声に、允は夢の中でも彩玉は兄と、チャン・ソンベクと一緒なのだと思う。
だがもうそれでもかまわない。
知らぬままとは言え彩玉はあれほど恋慕っていた兄と再会し、知らぬがゆえに本当の恋に落ち彼を愛してしまった。
その心には夢の中にさえも、もはや允が入っていく余地はなく、允はこれまで通りソンベクの彩玉の兄の代わりとして生きていくしか彩玉の隣で生きていく術がない。
兄でいい。兄の代わりでかまわない。
允はそっと手を差し伸べて、しっとりと豊かに潤う彩玉の髪を撫でた。
彩玉の夢は場面が変わり、成長したチェヒが雪山の中で允と剣の稽古を終えた後、ひととき視線を交えて朗らかに笑い合っていた。チェヒが真っ直ぐに允を見つめる瞳を彩玉は羨ましく眺めていた。
ずっとこうして彼を見つめていたかった。
誰にも邪魔されることなく、誰にも咎められることなく、ここで、この場所でずっとずっとこうして彼を見つめていたかったのに・・・
もしも彼が兄上だったら・・・
ふいにチェヒの視線の先にいた允が優しい笑顔のままそっと手を差し伸べてチェヒの髪を撫でたので、チェヒもこれは夢なのだと気がついた。
允がこの様に日常的に理由もなくチェヒの髪を撫でることなど現実の日々にはあり得ないことだったからだ。
夢の中でチェヒと彩玉の心が一つになって夢ならば大丈夫だと思い、声に出して呼んでみた。
「兄上。・・・兄上・・・。」
彩玉が甘えた様子で横を向き允に身を寄せるので、允は紅潮した瑞々しい頬を静かになぞり小さな背を緩やかに抱き寄せた。
允に本当の兄がしてくれたように優しく頬に触れ温かく抱き寄せられたことが嬉しくて、現実の日々には起こり得ない幸せな夢を見ていることがどこか可笑しくもありとても幸せでもあり、夢の中での幸運な出来事にチェヒと彩玉はくすくすと笑っていた。
誰を想っていてもいい。
私の腕の中でこうして笑っていてくれるのなら。
兄上だったら良かったのに・・・
今こうして目の前にいるのが兄上だったら、ずっとずっと一緒に生きていけたのに・・・
兄の代わりでいい。
側にいてずっとその瞳をその笑顔を見つめて生きていけるのなら。
ナウリが兄上だったら、ずっとずっと一緒に生きていけたのに・・・
私は私でさえなく他の誰かの彩玉の愛する男の彩玉の兄の代わりでかまわない。
これからもずっと彼女の側で彼女だけを見つめて生きていけるのなら。
*** *** ***
翌朝、美しく贅沢に設えられた温泉宿で一夜を過ごしてぐっすり眠った彩玉は、健やかに目を覚ました。
ふと昨夜気にかけていたのに髪を乾かさぬまま眠ってしまったことを思い出して手で触れてみると、髪は綺麗に梳いて乾かされ緩やかに編んで片方の肩に長く垂らされていた。
「よく、眠れたか・・・?」
「あ・・・はい。髪を・・・乾かしてくださって、ありがとうございます・・・」
彩玉は允のそうまでしてくれる細やかな優しさが嬉しかったし、允は彩玉が自分のしたことを嬉しく思い可愛らしく礼を言ってくれていることが嬉しくてならなかった。
見つめ合う瞳が互いに熱く引かれ合い、二人はごく自然に口付けを交わしていた。
一つの寝具で抱き合って健やかに眠り目覚めた愛し合う男女にとってそれは当然予期される行為でもあり、二人はしばしの間心に抱えるそれぞれの屈託を忘れ、甘い口付けと密度ある抱擁を熱く交わしていた。
やがて彩玉の愛は自分のものであることを知っている允の愛が、納得がいかぬと叫び出す。
愛しているのに愛されているのに、なぜ側にいることさえ許されぬのか。なぜ誰かの代わりでなくてはならぬのか。
愛しているのに愛されているのに、側にいるだけでよいはずがない。彼女の愛は私のものだ。彼女の全ては他の誰でもないこの私のものだ。
允は彩玉の身体を強く抱きしめて、頬を重ね、首筋から胸元に向かい熱くなぞるように口付けていた。上衣の紐を解いて胸元の白い肌を露にさせると、彩玉が允の衣を無意識に強く握りしめたので、允は我に返って動きを止めゆっくりと顔を上げた。
彩玉は顔を強張らせ涙に潤んだ瞳を困惑に揺らしていた。
「・・・すまない・・・。」
この想いが彩玉を追い詰めるのだ。
この私の男としての身勝手な愛欲が心に他の男を、チャン・ソンベクを恋しく愛しく想っている彩玉を追い詰め居場所を失くしてしまうのだ。
允は彩玉の乱れた上衣の胸元を合わせて静かに身を起こした。
起き上がった二人は気まずく視線を逸らしたまま、互いに固い背中を向け合っていた。
*** *** ***
允はもう一泊してもいいと言ったけれど、この様な贅沢な宿に二泊もすることはさすがに気が引けて、彩玉はいいえ、もう・・・。と首を横に振った。
今朝のこともあったし、允にはこれ以上どの様なことも彩玉に無理強いはできず、二人は温泉宿を後にした。
山道を歩いていると雲行きがあやしくなり大粒の雨がぱらぱらと勢いよく落ちてきた。
慌てて彩玉の手を引いて崩れかけた岩穴に駆け込んだけれど、足元に転がる瓦礫を踏んだ允はもう少しましな場所に避難すべきだったと一瞬悔やんだ。しかし、外はすでに滝のような雨が降り注ぎ、雨粒が地に激しく叩きつけられて水しぶきが上がっていた。
平らな岩にそれぞれ腰かけて降り注ぐ雨を見つめる二人の脳裏には、おそらく同じあの日の記憶が甦っていたことだろう。
「ナウリ・・・申し訳ありません・・・」
「何が・・・申し訳ないんだ・・・」
「私は・・・」
允は叫び出したいような思いで、次に続く彩玉の言葉を素早く遮った。
「今朝のことは、謝る。すまなかった。もう二度とあの様なことはしない。私はもう二度とおまえに指一本触れないと約束する。だから許してくれ。すまない。すまなかった。」
前を向いたまま苦しげに詫びる允の声を、彩玉は息苦しいほどに胸を詰まらせながら聞いていた。
長く己に仕えてきた、未来ある自身の人生まで犠牲にして守ってきた女が目の前にいれば、その女を我がものにしたいと思うのは男として当然の欲望なのだと思う。
自分はこれまで愚かにも何も知り得なかったけれど、允にも世の男たちと同様に女を抱きたいと言う当たり前のそして十分な欲望があり、彩玉自身も実はその様な允の欲望に値する女でありたいと願っているのだ。
悪いのは、責められ詫びねばならないのはやはり自分の方こそなのだと思う。
「私は・・・決して運命に変えてはいけなかったあの日の偶然を運命に変えてしまいました。あなた様と罪深い私との間に決して結んではならなかった容易には切り捨てられないご縁を結んでしまいました。
あの日の私はまだ幼くて・・・何の力もなくて・・・恐くて、怖ろしくて、どうすることもできませんでした。だから、あの日あの場所であなた様に出会ってしまったことを、心から申し訳なく思っています。私はあなた様の人生のこれ程までの重荷になってしまいました。許しを乞わねばならないのは私の方です。どうかお許しください。申し訳ありませんでした。本当に・・・本当に、申し訳ありませんでした・・・」
雷鳴が轟き、爆音とともに地が揺らいで昼間だと言うのに辺りは瞬時に真っ暗な闇に包まれた。
傷だらけの心から大切にしていたものは留めようもなく次々と流れ出し失われていった。大きな空洞を抱える允の心を支えていたのは、誰にも否定し得ないあの日の幼いチェヒとの出会い、確かに彼女と二人で生きてきた長い長い時間だけだった。
あの出会いが否定されるなら、あの時間が無きものとされるなら、私には一体何が残るだろうか。
暗い苛立ちと憤怒だけを胸に生きてきた。あの日の幼いチェヒは天から私に与えられた唯一の美しく煌めく無垢なる恩恵だった。
だが今そのたった一つの恩恵さえも天は罪深い私のこの胸に手を差し入れて持ち去ろうとしている。
再び大きな音を立てて地が揺らぎ允は一挙に崩れ落ちていった。
暗闇の中、先程足で踏み付け見下ろした瓦礫と今は同じ高さで向き合っている。
ここはどこで地に転がる私は何もので、一体何のためにここに存在しているのか。
目の前に転がる瓦礫と自分と、どちらが瓦礫でどちらが自分であるのか允にはもう分からなくなっていた。
※ 続 ※
◎あとがき◎
やっと^-^b(中)の巻が終了いたしました。転がる瓦礫とともに允の心も転がってしまいましたけれど(ってこら。ちひろ^m^)左捕盗庁で允との永遠の別れを決意していた彩玉の心はもうとうにばらばらに壊れて崩れ落ちていたのだと思います。これで二人はやっと同じ場所に立つことができて(允は転がってる^m^?!
←ってこら。ちひろ^m^!!
)ここからもう一度二人の心を今度こそ愛でもって一つに重ねていきたと思っています。
この様に喜ばしくなく展開するお話をここまで読んでくださって、本当にありがとうございます^-^ここまで読んでくださったからにはぜひとも(下)の巻最終話まで引続きどうぞおつき合いくださいね^-^b
ありゃりゃ~、…ちひろ姫さま、ユン、ころがっておりますよぅ?
チェオクの、心が粉々になる塗炭の苦しみを、ユンはその身に少しは引き寄せられたのでしょうか?
これから己とチェオクを、死より辛く悲しい苦しみから掬い上げ、もう一度その魂の縁を温かい想いとともに結び合うことができるのでしょうか
(下)を楽しみ~にお待ちしております
…にしても、ユン、可哀相だのぉ…
早速&ここまで読んでくださって、ありがとうございます
あ・あれ・・・確か「魂のホームレス
転がしてみました・・・雷鳴の爆音とともに・・・岩穴の瓦礫とともに・・・うっぷぷ・・・←ってこら。ちひろ^m^!!
違います違います。どえす
>ユンはその身に少しは引き寄せられたのでしょうか
>チェオクを、死より辛く悲しい苦しみから掬い上げ、もう一度その魂の縁を
いや~~ん。そこですよ。そこっっ
ドラマのようにチェオクの心もろくに掴めぬまま自分の言いたいこと言ってるだけじゃあ、結局チェオクには何一つ想いは伝わらぬままあのラスト
やっと同じ立場に転がる(ってだから。^m^
だからも少しくらい転がっててもだいじょぶです。だいじょぶです。ぷっ^m^
やっと(下)の巻の入口に辿り着くことができて、ちひろもほっ
年末年始にかけましては、まなかりさまもご多忙のことと思いますけれど、どうぞまたぜひぜひ引続き二人の「愛」の成り行きを読みに&遊びにいらしてくださいね~^-^
ちょこりどS。じゃなくて、ちょこりです
今日はアップの日だもんね~とスキップして帰ってきたら、そうだった…
今日はユンの「たまホーム」の日だった…
「魂のホームレス」…
オヤジしてる場合じゃありませんわっ
ユンちゃん、もうめためた…
嗚呼… これが、我が国にその人ありと知られたあの剣の使い手かいな? ぼろぼろやん
こんなに近くにいるのに、別世界に住むひとどおしみたい…
うわ~ん、ちひろ姫さま、こっからどうやって修復するんですか~
次のアップまで、ユン坊、もつかな~
ちひろ姫さまのドドドSの海を、渡りきるのだ~
まなかりさま~
>己とチェオクを、死より辛く悲しい苦しみから掬い上げ、もう一度その魂の縁を温かい想いとともに結び合うことができるのでしょうか…
↑わ~ん、もう泣きそうっす~
でも、ちひろ姫さま
ユン坊の、お風呂あがりの姿に、ぐらっときました
スキップしてご帰宅くださって&允の「たまホーム」の日でしたのに…
>嗚呼… これが、我が国にその人ありと知られたあの剣の使い手かいな?
嗚呼…ちょこりさま…ちひろってばその様なことはすっかり忘れて、ヘタレ
>ユン坊の、お風呂あがりの姿に、ぐらっと
きゃ^m^
なんですなんです。なので結局彩玉も↑の様な允をヘタレと分かっていても尊敬
なのでなので本当は当話ラストの申し訳ありません。だって裏を返せばそういうこと
…ぷっ^m^
まなかりさまのコメにちひろも思わずだいじょぶかしらん…
も少しその辺りに瓦礫と一緒に転がってれば
年末年始にかけては、ちょこりさまもご多忙のことと思いますけれど、やっと(下)の巻が進行
ユンくん、久しぶりにチェオクと二人ゆったり
>ふわりと柔らかな湯の匂いが立ち上ぼり、芳しい香油の香りと彩玉自身の甘い香りが、允に優しく纏わりついた
という状況につい酔って
>「側にいてくれ。愛してくれなくてもいい。…側にいてくれ。頼むから私の側にいてくれ。ただ側にいてくれるだけでいい。」
と、キミの気持ちはともかくボクはキミのこと愛してる
それに対してチェオクは
>ただ・・・側にいて、この命が尽きるそのときまで彼の側で生き続けていくだけ・・・
それならいてもいなくても同じ、死んでいるのと同じだと傷つき
>私にとって彼は私の全てを奪った最初で最後の人だけれど、彼にとって私は最初の女でもなく・・・最後の女でもない・・・
↑…チェオク、結構根にもつタイプ?
キーセンと遊んだこと、許してないね!?
ほんで、
>男と女は、彼と私は、こうも違うのだ・・・
そうよ、そうよ!
だから心も身体も重ねあわせて慈しみ合わないと
よ~し、ユン、オッコルムを解いたな
ここで気がつきました…
ちひろ姫さま、どえす
読者にも、どえすだった…
ユルユルの、でれでれの、甘甘の、うふふは、鬼が笑うんだろうなぁ…
ユ~ン、がんばろぉね~
オッコルムを解いてもいいよ
再度のご訪問、ありがとうございます
ってんも~~ぅぅぅ
鬼も大笑い
>キミの気持ちはともかくボクはキミのこと愛してるから束縛してもいいよね?ね?の今一つピントのずれた
あはは
キミの気持ちはともかく ね?ね?
って、お姉ちゃん・・・
だめですよねぇ。それじゃ。キミの気持ちも分からずに束縛しようだなんて・・・彩玉が承知するはずありませぬ
>↑…チェオク、結構根にもつタイプ?
>キーセンと遊んだこと、許してないね!?
きゃ~^m^
允はね・・・彩玉には悟られぬように細心の注意を払っていたと思いますし、やむを得ずに
彩玉もそれは分かっているし、責めるつもりはないのでしょうけれど、(おそらく天然でお上手ってきゃ^m^
>だから心も身体も重ねあわせて慈しみ合わないと理解できないのっ
きゃ~~っ
でもっまなかりさま。この件では流石に己の非を省みて酷い仕打ちにも黙って耐えていた允ナウリから抗議
政浩さまと素銀ちゃんは、王室御用達の温泉であんなだったのに、この冷たい仕打ちはあんまりではないかと・・・
頑張れ允