CELLOLOGUE

チェロローグへようこそ! 万年初心者のひとり語り、音楽や身の回りのよしなしごとを気ままに綴っています。

岡田暁生著『音楽の聴き方』を読んで

2009年12月02日 | 折々の読書
  
この本は,聴く態度,聴くための心得,そして聴いた後の楽しみ方を発見しようとする本である。
「『よかったぁ...!』と感嘆の声をあげるだけで満足するのではなく,もっと彫り込まれた表現で自らの音楽体験についての言葉を紡ぐのはもとよりそう容易なことではない。(中略)『音楽を語る言葉を磨く』ことは,十分努力によって可能になる類の事柄であり,つまり音楽の『語り方=聴き方』には確かに方法論が存在する」(はじめに)ということだ。

現在の音楽状況は個性化,個別化がことさらに進み,特定の集団のみに受け入れられればよい=好きな音楽を好きなように聴いていればよい,という傾向が顕著だ。また,「音楽に国境はない」とは音楽に関して最も言い古された言葉だが,本当にそうだろうか。
音楽史という,言わば特殊なフィールドからだけ見たのではなく,経済史,社会史の視点から音楽,音楽家,興業,趣味などを見直し,現在の状況を分析している。この辺は,著者の広く,豊富な知識に教えられるところが多い。特に演奏会の成立から現代の音楽産業の戦略まで詳しいので納得させられる点も多いのではないだろうか。(ドイツ人と雑音など,例として疑問な点もないではないが)

私はこの本を読んで,音楽の基本とは創る(作曲),弾く(演奏),聴く(鑑賞)であることを思い出した。音楽とは(あるいは音楽するとは)これら3つがうまくバランスすることである。音楽が発展する過程でそれぞれが独立,専門化の方向に進んだ結果,プロが発生し,独占や興業が成り立つようになった。しかし,もう一度この3つを一人の人間が包含するようなあり方を考えるのもよいのではないか。よい意味でのアマチュアリズムが現在の音楽状況にひとつの視野を与えることはあり得るのだと思う。また,それは私がチェロを弾いていることと重なる点でもある。

■岡田暁生著『音楽の聴き方;聴く型と趣味を語る言葉』(中公新書2009)中央公論社,2009年6月刊.


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