最高裁(第三小法廷)平成07年02月28日判決
〔憲法・定住外国人の選挙権-地方公共団体にかかる選挙権を国民に限る公職選挙法等の合憲性〕
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平成5年(行ツ)第163号・選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消請求上告事件
棄却
第一審・大阪地方裁判所平成05年06月29日判決(平成2年(行ウ)第70号)
上告人 金正圭 外八名
被上告人 大阪市北区選挙管理委員会 外三名
最高裁判所民事判例集49巻2号0639頁、訟務月報42巻1号217頁、判例地方自治143号22頁
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主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
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理 由
上告代理人相馬達雄、同平木純二郎、同能瀬敏文の上告理由について
憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである。そこで、憲法一五条一項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び一条の規定に照らせば、憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について定める憲法第八章は、九三条二項において、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三五年(オ)第五七九号同年一二月一四日判決・民集一四巻一四号三〇三七頁、最高裁昭和五〇年(行ツ)第一二〇号同五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の趣旨に徴して明らかである。
このように、憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(前掲昭和三五年一二月一四日判決、最高裁昭和三七年(あ)第九〇〇号同三八年三月二七日判決・刑集一七巻二号一二一頁、最高裁昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日判決・民集三〇巻三号二二三頁、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日判決・民集三七巻三号三四五頁)の趣旨に徴して明らかである。
以上検討したところによれば、地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙の権利を日本国民たる住民に限るものとした地方自治法一一条、一八条、公職選挙法九条二項の各規定が憲法一五条一項、九三条二項に違反するものということはできず、その他本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法の右各規定の解釈の誤りがあるということもできない。所論は、地方自治法一一条、一八条、公職選挙法九条二項の各規定に憲法一四条違反があり、そうでないとしても本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法一四条及び右各法令の解釈の誤りがある旨の主張をもしているところ、右主張は、いずれも実質において憲法一五条一項、九三条二項の解釈の誤りをいうに帰するものであって、右主張に理由がないことは既に述べたとおりである。
以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
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平成7年の判例は在日韓国人が自分達に地方参政権があると主張した事件ですが、正面から外国人参政権を違憲として、主文で上告を棄却しています。
判例の構造を読み解くと、
第一 原告の主張
1.在日韓国人が憲法93条2項の地方参政権を有する国民は「その地方公共団体に居住する住民であって、日本国民を指すものではない」
2.自分達の参政権は憲法上保障されている。
3.自分達に選挙権を保障しないことは地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項が憲法93条2項に反することになる。
4.だから自分達を選挙人名簿に登録しろ。
第二 最高裁判断
1.主張に対して(上告棄却)
(1)憲法93条2項の「住民」とは、「その地方公共団体内に居住する日本国民」を指したもの。
(2)この規定の「住民」を憲法15条の「国民」とは違うと読みかえることはできない。
(3)だからこの規定は選挙権をあくまで地方公共団体内に居住する日本人に限定したもので、同区域内に居住する外国人に選挙権を保障したものではないので、お前らに選挙権はない。
2.憲法の地方自治規定に関しての解釈(傍論)
(1)憲法第8章の地方自治の規定は、地方公共団体の公共的事務は地方自治の重要性に鑑み住民の意思に基づき地方公共団体が処理する政治制度を憲法上保障したもの。
(2)だから、永住外国人で地方公共団体と特段に緊密な関係を持つと認められる者がその意思を地方公共団体の事務に反映させるために選挙権を与える措置を講ずることまでを憲法上禁止したものではない。
(3)だからといって、外国人に対する選挙権付与は我が国の立法政策上極めて重要な問題だから、そういう措置をとらないことが違憲だということはいえない。
(4)だから、選挙権を日本国民に限るとした地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項は憲法93条2項、15条に反するということはできない。
となっています。
つまり、地方参政権について立法により外国人が参入する余地を認めましたが、だからといって立法措置を整えれば憲法問題にもならず外国人参政権を認めるとまでも言っていない判決です。
で、その論を見れば考慮する余地は認めているものの、やはり外堀まで埋め尽くしたうえで、外国人参政権についても明確に否定しているわけですよ。
※mixi識者に感謝。
〔憲法・定住外国人の選挙権-地方公共団体にかかる選挙権を国民に限る公職選挙法等の合憲性〕
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平成5年(行ツ)第163号・選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消請求上告事件
棄却
第一審・大阪地方裁判所平成05年06月29日判決(平成2年(行ウ)第70号)
上告人 金正圭 外八名
被上告人 大阪市北区選挙管理委員会 外三名
最高裁判所民事判例集49巻2号0639頁、訟務月報42巻1号217頁、判例地方自治143号22頁
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主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
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理 由
上告代理人相馬達雄、同平木純二郎、同能瀬敏文の上告理由について
憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである。そこで、憲法一五条一項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び一条の規定に照らせば、憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について定める憲法第八章は、九三条二項において、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三五年(オ)第五七九号同年一二月一四日判決・民集一四巻一四号三〇三七頁、最高裁昭和五〇年(行ツ)第一二〇号同五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の趣旨に徴して明らかである。
このように、憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(前掲昭和三五年一二月一四日判決、最高裁昭和三七年(あ)第九〇〇号同三八年三月二七日判決・刑集一七巻二号一二一頁、最高裁昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日判決・民集三〇巻三号二二三頁、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日判決・民集三七巻三号三四五頁)の趣旨に徴して明らかである。
以上検討したところによれば、地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙の権利を日本国民たる住民に限るものとした地方自治法一一条、一八条、公職選挙法九条二項の各規定が憲法一五条一項、九三条二項に違反するものということはできず、その他本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法の右各規定の解釈の誤りがあるということもできない。所論は、地方自治法一一条、一八条、公職選挙法九条二項の各規定に憲法一四条違反があり、そうでないとしても本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法一四条及び右各法令の解釈の誤りがある旨の主張をもしているところ、右主張は、いずれも実質において憲法一五条一項、九三条二項の解釈の誤りをいうに帰するものであって、右主張に理由がないことは既に述べたとおりである。
以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
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平成7年の判例は在日韓国人が自分達に地方参政権があると主張した事件ですが、正面から外国人参政権を違憲として、主文で上告を棄却しています。
判例の構造を読み解くと、
第一 原告の主張
1.在日韓国人が憲法93条2項の地方参政権を有する国民は「その地方公共団体に居住する住民であって、日本国民を指すものではない」
2.自分達の参政権は憲法上保障されている。
3.自分達に選挙権を保障しないことは地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項が憲法93条2項に反することになる。
4.だから自分達を選挙人名簿に登録しろ。
第二 最高裁判断
1.主張に対して(上告棄却)
(1)憲法93条2項の「住民」とは、「その地方公共団体内に居住する日本国民」を指したもの。
(2)この規定の「住民」を憲法15条の「国民」とは違うと読みかえることはできない。
(3)だからこの規定は選挙権をあくまで地方公共団体内に居住する日本人に限定したもので、同区域内に居住する外国人に選挙権を保障したものではないので、お前らに選挙権はない。
2.憲法の地方自治規定に関しての解釈(傍論)
(1)憲法第8章の地方自治の規定は、地方公共団体の公共的事務は地方自治の重要性に鑑み住民の意思に基づき地方公共団体が処理する政治制度を憲法上保障したもの。
(2)だから、永住外国人で地方公共団体と特段に緊密な関係を持つと認められる者がその意思を地方公共団体の事務に反映させるために選挙権を与える措置を講ずることまでを憲法上禁止したものではない。
(3)だからといって、外国人に対する選挙権付与は我が国の立法政策上極めて重要な問題だから、そういう措置をとらないことが違憲だということはいえない。
(4)だから、選挙権を日本国民に限るとした地方自治法11条、18条、公職選挙法9条2項は憲法93条2項、15条に反するということはできない。
となっています。
つまり、地方参政権について立法により外国人が参入する余地を認めましたが、だからといって立法措置を整えれば憲法問題にもならず外国人参政権を認めるとまでも言っていない判決です。
で、その論を見れば考慮する余地は認めているものの、やはり外堀まで埋め尽くしたうえで、外国人参政権についても明確に否定しているわけですよ。
※mixi識者に感謝。