墓石クリーニングの女

お墓と向き合うことで『大切なもの』を日々感じながら、あつく生きる女…それが、アタシ。

朝日新聞 プロメテウスの罠より

2013年12月11日 | スジャータプロジェクト
(プロメテウスの罠)残ったホーム:1 おら、おいでがっちゃ
2013年12月10日05時00分


 阿武隈高原に広がる福島県飯舘村は、原発事故で「全村避難」が続く。人口6千人のほとんどが去り、役場も福島市に移った。特例で開いている事業所もあるが、泊まることは許されない。

 そこに一つだけ、夜も人が住んでいる建物がある。役場の向かいの特別養護老人ホーム「いいたてホーム」。今、64人が暮らしている。

 看護師の佐藤智恵子(さとうちえこ)(51)が、ホールで風呂上がりのお年寄りの爪を切っている。「ちょうど、あの日も同じことをしてたんです」。木造風のホームは天井が高く、天窓から木の床に光が注ぐ。ハイビスカスや観葉植物が目にやさしい。

 ホームは16年前、ゴミ捨て場の跡地近くにできた。初めは「姥捨山(うばすてやま)でもつくるのか」「どうせ誰も入らねえべ」と冷ややかな声が多かった。ところが好評で、30床だったものが120床まで増えた。

 事故後の2年9カ月で、112人いたお年寄りのうち48人が亡くなった。この7月には、「最期までここにいたい」と言っていたスイ(92)が願い通り静かにその時を迎えた。佐藤が体をきれいにふいてあげた。

 介護する職員は66人いた。今は約半分の37人。避難先から通いだが、夜通しの夜勤はもちろんある。

 ホームが残ったのには、理由がある。避難でお年寄りの体調が悪くなるのを防ぎたい。介護士の雇用を確保したい。そんなことで村が特例を望んだことがひとつ。

 国の避難基準は年間被曝(ひばく)線量20ミリシーベルトだ。それを超えなければ村に残れる。だから汚染の恐れがある外には出ないようにしている。

 しかし、それ以上に切実な理由がある。事故後、家族が迎えにきたのがたった1人だったのだ。

 村人の避難の様子をテレビで見ていたステノ(94)がつぶやいた。

 「おら、おいでがっちゃ」

 自分は置いていかれてしまった――。

 ほとんどが認知症の人だ。家族にはそれぞれ事情があるだろう。重介護の人を抱えて避難するのは大変だと思う。とはいえ……。

 このお年寄りを支えるのは私たちしかいなかった、と佐藤はいう。

 ホームを訪ねると、キクエ(96)が記者のほっぺたをヒョイとつまみ、「めんこいなぁ」と笑った。(生井久美子)

アタシもキクエさんと沢山お話をしました。


      ◇         

 「全村避難」をした村に、避難せずに残った老人ホームを訪ねます。









残ったホーム:2 だれも来ない夏祭り
2013年12月11日05時00分

仮装姿の「いいたてボンバーズ」    
 飯舘村の「いいたてホーム」で、看護師の佐藤智恵子(51)は現場のリーダーだ。村の生まれ。高校を出て上京、個人病院で働きながら看護師になった。

 35歳で離婚。2人の子どもを連れて村に戻った。母親は「恥ずかしくて外に出らんねえ」と嘆いた。翌年ホームがオープンしたとき、看護師募集に手をあげた。

 仕事がある佐藤は忙しい。そのかわり、村の人が子どもたちの世話をしてくれた。「村に育ててもらったようなものです」。今の仕事は村への恩返しでもある。

 ホールのソファには、相撲取りのように大きいクマのぬいぐるみが二つ、どっかと座っている。その向かいが夜勤の詰め所だ。

 夜勤は4人態勢。夕方に引き継ぎをし、夜10時、午前1時、3時、5時に巡回する。おむつ交換や、床ずれ防止に体の向きを変える。コールがあると部屋にかけつける。

 介護士のリーダーは西恵子(にしけいこ)(51)。16年前の開設時から佐藤と苦労をともにしてきた。

 50歳をすぎての夜勤はつらい、と西はいう。村にいるときは、家から車で10分だった。いまは避難先の福島市から1時間以上かかる。人手不足で有給休暇もとれない。

 疲れから神経がいらだち、お年寄りに優しくなれない自分に気づいてハッとする。

 「ホームの将来が見えないと、働いてても不安になるときがあって」

 震災前に38歳だった介護職員の平均年齢は、いま47歳。妊娠中や、幼い子どもがいる若い職員がやめていったからだ。後任は集まらない。

 入居者は2年9カ月で48人減った。部屋は50も空いている。入居待機者は85人いるが、介護の人手が足りないので受け入れができない。

 8月、ホームの夏祭りがあった。

 震災前は毎年、ホーム前の広場で村民も参加して盛大にやった。しかし今はだれも来ない。外でできないので、ホールに赤い小さなやぐらを組み、提灯(ちょうちん)や屋台を並べた。お年寄りは焼き鳥や綿あめをほおばる。

 西がリーダーの職員グループ「いいたてボンバーズ」15人が歌って踊る。男性のバニーガール、女性のセーラームーン。仮装がすごい。お年寄りもアヒルやクマの帽子、大きなサングラスでごきげんだ。

 「来年も、ホームがあるかどうか分がんねがらな」

 だれもいない村で、ホームだけがにぎやかだ。

 (生井久美子)

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