「2083―ー欧州独立宣言」日本語版

グローバル極右界の「共産党宣言」、現代世界最大の奇書

1.9 十字軍の実像(p137~)

2012-10-05 00:00:34 | 十字軍
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 過去を受け入れられぬ者は、畢竟未来をも偽造する――アレクサンドル・フンボルト

 十字軍は決して侵略者でも、欲深き掠奪者でも、中世の植民地主義者でもなかった。セントルイス大歴史学科のトーマス・メイデン部長が『十字軍正史』で描き出したように、十字軍は益なき大地に踏み込んだ防衛軍だったのだ。一般に流布している根拠なき神話をメイデンはばっさり否定する。

 神話壱、十字軍は平和的なイスラム世界に対する予告なき侵略勢力だった

 これは根本的に間違っている。イスラム勢力は預言者の代からキリスト教世界の征服を目指しており、北アフリカ、中東、小アジア、イベリア半島などキ古代リスト教世界の3分の2を制圧していた。パレスチナはイエス・キリストの生誕地で、エジプトは一神教発祥の地で、小アジアはパウロが最初の布教活動を行った地だ。キリスト教の中心部が制圧されていたのである。
 ムスリムたちはそれでも満足せず、帝都コンスタンチノープルを攻め落とそうとしていた。キリスト教勢力がどこかで団結していなければ、ムスリムはやがて1国ずつ西洋の国を屈服させ、やがては全欧州を征服していただろう。

 神話弐、十字軍は十字架を掲げていたが、真の目的は戦利品と土地を抑え、自分たちの欲望を満たすことだった

 これまでの研究では、欧州での人口増で土地を満足に相続できなくなった貴族・騎士階級の「次男坊」たちを欧州の外へ送り出す「安全弁」として十字軍がとらえられてきた。しかし、コンピューターによるデータ分析により、近年この説は破綻した。どの十字軍でも先陣を切ったのは「長男」クラスの者だったことが判明したのだ。
 十字軍への参戦には封土売却が必要なほど巨額の費用がかかった。海外の王国への関心は薄かった。しかし中世の領主たちは、今日の兵士と同レベルの忠誠心をもって聖戦に励み、故郷への凱旋を望んでいたのだ。
 第一次十字軍がエルサレムを光復して大成功に終わった後、参戦兵の大半は母国に帰還した。中東に新国家を建てたのはごく一部の勢力に過ぎなかった。
 戦利品も少なかった。十字軍が東方の豊かな富に惹きつけられていたのは事実だが、金銭も土地も原罪を晴らすというキリスト教的使命感に比べると二次的なものに過ぎなかったのだ。
 
 神話参、第一次十字軍は1099年エルサレムを制圧するなり、街路が鮮血で溢れるほどの大殺戮を行った

 これは十字軍を悪魔化する時の常套文句だ。十字軍のエルサレム制圧後に多くの死者が出たのは確かだが、これは歴史的文脈に沿って考えねばならない。
 前近代のユーラシアでは、陥落した都市の命運は人命も含めてすべてが勝利者の裁量に委ねられた。侵略者に対する降伏条件を交渉するのは領主の重要な任務だった。
 エルサレムの場合、抵抗者はエジプトからの援軍を頼みに最後まで抵抗した。そのため、陥落した後多くが討滅され、身代金の対象にされた。
 今の基準でみれば残虐かもしれないが、中世の騎士が現代に来れば、もっと多くの無辜の民がテロで犠牲になっていると主張するだろう。ムスリムの方が征服者扱いされていた都市では、十字軍は財産の保持を認め、寛容に振る舞っていた。「街路が血で溢れる」というのは、文学的レトリックに過ぎない。文字通りにエルサレムの街路を血で溢れさせるためには、中東の人すべてを連れてきても不可能だ。

 神話四、十字軍は宗教の衣装をまとった中世の植民地主義だ

 中世西洋はイスラムの中東に対して優位にはなかった。当時は欧州の方が第三世界だった。この意味で十字軍国家はアメリカを植民地化した英国と大いに様相を異にする。十字軍国家で支配階級となったカトリックの人口比率は常に1割以下だった。住民の大半はムスリムだったのだ。
 この意味でも、十字軍国家はプランテーション活動や工場建設をインド等で行った英国とは異なる。十字軍国家の目的はただ、エルサレムなどの聖地にやってくるキリスト教徒の巡礼者達の安全を守ることだった。十字軍国家を維持する経済的意味はなかった。むしろ、十字軍国家のために、莫大な西洋の富が吸い取られたほどだ。
宗教性以外では軍事的な意味でのみ重要だった。しかし、仲間内での争いを続けていたムスリムは団結し、1291年ついに中東の十字軍国家を全滅させてしまった。

 神話五、十字軍はユダヤ人も襲撃した

 ユダヤ人を襲うよう呼びかけたローマ教皇は存在しない。第一次十字軍では確かに正規軍と関係のないリファーフ軍が自分の欲望のためにラインラントの町のユダヤ人を誤った信仰心から襲撃した。しかし、地元の司祭はそれを止めようとした。第二次十字軍でもドイツで似たような事態が発生したが、聖ベルナールがそれを食い止めた。
 これらは確かに間違っているが、それと十字軍の大義とは関係がない。第二次世界大戦でも一部の米国兵が蛮行を働き、処罰された。しかし、それによって第二次世界大戦の時の連合軍の大義が傷つくことはない。

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