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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

監督・ばんざい!

2007-06-06 | 映画
フェリーニの『8 1/2』の線を狙ったわけでもないだろうが、キタノ監督の混乱ぶりがよく判る支離滅裂さである。

「暴力映画は二度と撮らない」と宣言して、次から次へジャンルの異なる映画に挑戦するのだが、全て撮りっぱなしで頓挫してしまうキタノ監督。
小津安二郎のフェイク映画「定年」に始まり、ラブストーリー「追憶の扉」と続き、比較的しっかりとしているのが、いま流行りの貧しかった昭和30年代をスケッチした「コールタールの力道山」である。この線で1本仕上げれば良かったと思うのだが、タケシの自伝的少年時代を描いたTVドラマや、『Always三丁目の夕日』が既にやってしまっている。
映画が挫折するたびに犠牲になるのが、タケシ監督と同じ学生服姿のタケシ人形で、身代わりに自殺してしまう。これも『8 1/2』のマストロヤンニ演じる監督の自殺願望に通じている。
その後、ホラー映画「能楽堂」と時代劇「蒼い鴉・忍part2」を経て、最後に到達したのがCGを駆使したSF大作「約束の日」だが・・・。
ここへ至る作品の屍の山の中には、タケシ独特の批評精神が読み取れなくはないが、いかにも中途半端な感じだ。

さて、このSF作品は小惑星が地球の軌道に接近しているというパニック映画でもあるが、途中から詐欺師の母娘と財界のボスとのドタバタになってしまい、井手らっきょ扮するマッド・サイエンティストが登場するに及んで、完全にTVギャグ番組になってしまった。
ロケットでの逃避のアイデアは面白いが、ここでも打ち上げられることなく侘びしく放置される『8 1/2』のロケット発射台が頭をかすめる。
タケシ監督は最後はSFに立ち戻り、撮りっぱなした全ての映画世界、全ての登場人物を巻き込むカタストロフへと向かい、破壊で終わらせてしまう。彼独特の自虐ネタで自爆したのである。

タケシ「先生、如何ですか」
ドクター「壊れてます」
確かに壊れて破綻した映画で、宣伝文句の「ウルトラ・ヴァラエティ・ムービー」というよりは、単なる「ヴァラエティ・ムービー」と言うほうが正しい。
色々なジャンルの断片的なストーリーにマッチした、丁寧な音楽をつけた池辺晋一郎の仕事ぶりは褒められるべきである。

同時上映は、北野武監督の3分間の短編映画、『素晴らしき休日』
カンヌ映画祭が世界で活躍する35人の映画監督に制作を依頼した、「映画館」をテーマにした短編映画の1/35である。たけし版の『ニュー・シネマ・パラダイス』か?


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2 コメント

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同感です。 (ヌートリアE)
2007-06-21 15:02:40
こんにちは。
この映画を見てから、というか、前作の「TAKESHI’S」の時から北野映画はどうなるんだろうと気にはなっていました。
いよいよ小さくなっていますね。よく私小説作家が骨身を削ってなんていう表現をしますが、そんな印象を持っていました。
表現すべきものもしくは表現したいものがなければ無理に映画を作らなくてもいい環境じゃないのかな、なんて思いますが何故映画を作るのでしょうか、、。
カンヌで「座頭市」で監督賞をもらった時も賞取りのイメージが先行し、変に迎合している感じでしたね。(結構、興行的にも成功したらしいですが)
今までの映画は何だったのかなあなんて思ってしまいます。北野ファンであるからして、きつめの評価です。
映画監督の業 (butler)
2007-06-24 11:29:49
>ヌートリアさん、

本来、創作は痛々しい作業と言うことは解るけど
フェリーニやゴダールがそれを芸術映画に
昇華させたみたいなことを
たけしもやってみたかったのかなぁ?

おちゃらけもいいけど、どっちつかずの中途半端が
いちばん始末に負えないことを 証明した感じでしたね。