徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Vampire Killers 12

2014年10月09日 22時24分12秒 | Nosferatu Blood
 
   *
 
 ばたん!
 叩きつけられる様にして閉ざされた扉を見遣り、アルカードは適当に肩をすくめた――少しばかりからかいすぎたらしい。
 ああいう真面目なタイプは遊び甲斐があって面白いのだが、やりすぎるとたまにキレるのが問題だった――それはライル・エルウッドも同じなのだが、彼の場合はまだ洒落が通じる。
 自分の使っているロッカーを開けて、店の制服を取り出す――正確に言うと、女性用と違い男性用の制服の決まりは無い。
 最古参の男性スタッフであるアルカードの服装を、ほかのメンバーが真似ているというだけだ。一応ベストとネクタイの色を変えて、フロアスタッフの長であるアルカードとほかの男性従業員の区別をしている――もっとも色を指定する代わりに代金は持っているので、それが制服だと言えなくもない。おそろいで買っているわけではないので、細部がみんな違うのだが。
 着慣れたアンダーアーマーを脱いでアンダーシャツとスラックス、ベストのかかったハンガーを取り出してロッカーの扉に引っ掛けたところで、アルカードはふと思いついて笑みを浮かべた。
 フィオレンティーナの制服姿、こういうとなんだがなかなか似合ってはいる。
 チャンスがあったらフィオレンティーナがウェイトレスをしているシーンをこっそり写真に撮って、レイル・エルウッド以下メールアドレスを知っている全員のところに送ってやろう。デスクトップサイズで。
 そんなパパラッチみたいなアイディアを思いついてほくそ笑んだとき、更衣室の扉が控えめに三回ノックされた。
「アルカード? チャウシェスクさんが呼んでます。早く来てくれと」
 フィオレンティーナの声が聞こえて、アルカードはうなずいた。
「わかった。すぐに行くと伝えてくれ」
 
   †
 
 Domn batrin si vechi femeie――おじいちゃんとおばあちゃん。そんな意味になるらしい。
 チャウシェスク夫妻の経営する料理店は、そんな名前だった。
 英語やイタリア語と異なるルーマニア語のアルファベットまではフィオレンティーナには正確に理解することは出来なかったが、アルカードに言わせるとそういった意味になるらしい。
 日本でルーマニアの料理店というのはあまりはやらないのではないかと思ったが、案外そうでもないらしい――実際、昼前の客の入りは好調だった。
 客層は案外広く、若い女性からそこそこ年配の男性まで様々だ。
 きっかり一分で戻ってきたアルカードは、今は注文を受けたり料理を運んだりレジを打ったりと、とにかく忙しく働いている――チャウシェスク老人がシェフを務めているのか、しわくちゃの顔をした優しそうな老女がアルカードと一緒にそこらじゅうを駆けずり回っていた。
 今はそれが男性用の制服なのか、黒いワイシャツとスラックス、ベストとネクタイだけが赤い。金髪に黒と赤が映えて似合っているし、着こなし方のおかげか長身もさらに強調されて見えた。
「アルカード! 鱒のムニエルが出来たぞ!」
「はい」
「すいません、追加いいですか」
「はーい!」
 そこらから声がかかるたびに、アルカードが走り回る――ひと段落つくころには、アルカードはすっかり疲れきった様子でぐったりしていた。
 無論体力的にはどうということもないのだろうが、やはり神経をすり減らすらしい。
 それでもほとんどの席が埋まり、奥のほうの仕切りで個室化されたコンパートメントもすべて客が入っていた。
「あはは、店員さん疲れてますねえ」 近くのテーブルに向かい合わせに腰を下ろしていた女子大生と思しきふたりの女の子が、笑いながらアルカードのほうを見ている。
 ひとりは黒髪を伸ばしてポニーテールにしている――体育会系がよく似合いそうな、活発そうな女の子だ。二十になるかならずか、というところか――今年でようやく十八歳になるフィオレンティーナよりも年上なのはたしかだ。
 顔見知りなのか、アルカードが親しげに笑った。
「ん? ああ――うん、まあね。今は少し人手が足りないから」
「え? あのウェイトレスさんは?」 フィオレンティーナのほうを見遣って、女の子のひとりが疑問を口にする。フィオレンティーナも一応着替えておく様に言われてそうしたのだが、そのせいで右も左もわからない見習いも普通の店員に見えるのだろう――正直オーダーを取りに来いと言われても、なにも出来ない自信があったが。
「さっきからずっと、あそこで見てるだけみたいですけど」
「ああ、彼女は今日入ったばっかりでね――まだ仕事に慣れてないから、今日は見学。ところで、今日は――」
 アルカードが答えかけたところで、その言葉は怒声に掻き消された。
「っざけンな、コラァ! 責任者どこじゃ、出て来ンかい!」
 ガラの悪い怒声に、アルカードが顔を顰めて振り返る。何事かと驚いてほかの客たちも視線を向けた先に、丸刈りにスーツを着た目つきの悪い男がふたり、テーブルを叩いた体勢のまま立っていた。
 ふたりのうちひとりは頭がつるつるに禿げ上がっていて――剃っているだけかもしれないが――小太りで背が低い。もうひとりはまるで薪の様にひょろひょろの長身で、頬に刃物で斬りつけた様な傷があった。
 アルカードがどよめく客になんでもないという様に笑みを振り撒きながら、男たちのほうへと歩み寄る。
「失礼いたします、お客様。なにか私どもに失礼がございましたでしょうか?」
「ああ!? 失礼があったか、じゃねえぞコラ。見ろや。おんどれンとこの店は、客にゴキブリ入った飯食わせンのか、おぉ?」
 アルカードの長身を、どうせ身長で負けているのに身体をねじって、わざわざ下側から凄みのある表情で見上げながら、男のひとりがそう言ってアルカードの胸倉を掴む。
 そして、それに対してのアルカードの反応は――
 ほんの一瞬ではあるが、まるで壊れた電卓を見下ろすみたいな侮辱しきったオーラを背中に纏い、男たちの背後の硝子は心底馬鹿に仕切ったアルカードの表情を克明に映し出している。
 そう、そのオーラはまるで、1+1の足し算の答えを3と導く様な壊れた電卓に溜め息を吐くたぐいのものにそっくりだった――硝子に映し出されたその顔には、せめてもうちょっとひねれよといった彼の心中があからさまに書き出されている。
 テーブルから叩き落とされて無残に砕け散った食器と、老人が丹精こめて作り上げ、一度の食指にも触れること無く今は床の上で陶器の破片と混濁し、ただの生ゴミへと変えられてしまった料理を見下ろしながら、アルカードは口を開いた。彼は手を伸ばして胸倉を掴んだ小太りの男の手首を軽く掴み、
「それは大変失礼いたしました――お客様、ほかのお客様がたのご迷惑になりますので、よろしければお話はあちらで」
「ああ? ふざけんな! 誠意ってもんは無いんかい、こら」 と怒声をあげて、アルカードの胸倉を掴んだ男がアルカードの鳩尾に拳を入れ――るよりも早く、男が顔を顰めて小さく苦悶の声を漏らす。
 と同時に――ほかの客たちからは見えない角度でアルカードがどんな兇相を浮かべたのか、ふたりの男たちの顔から色が消えた。
 胸元を掴む手を軽く掴み返したアルカードの手に、あとほんの少し力をこめれば手首を圧し折れるほどの力がこめられていることに気づいたからに違い無い。
 周囲にいる客たちがまったく脅威を感じないほどに、まるで暗殺用の針の様に徹底的に絞り込まれた殺気に当てられて、もうひとりの男も動けなくなっている様だった。
 ほかの誰にも聞こえない様にだろう、アルカードがこうささやくのが聞こえる。
「選べ――このままここで腕を骨ごと握り潰されるのと、おとなしくついてくるのとどっちがいい」
「なにを――」
「早くしろ――俺がこんな店なんぞどうでもいいからおまえらを殺したいと思う前に、さっさと選べ」
 いったいどれほどの握力が込められているのか、男の右手の指先は紫色に変色している――掴まれた握力が強すぎて血流が止まっているのだ。指にももう力が入らないらしく、アルカードの着たベストの襟元にかろうじて引っかかっている指はまるで干からびた海星の様だった。
 アルカードはパッと手を離して人当たりよく微笑むと、
「さ、こちらにどうぞ――すまないが、こっちの片づけを頼むよ」 なんというか上司の貫録を感じる口調でフィオレンティーナにそう声をかけてから、アルカードはふたりを案内する様に右手を店の奥のほうに向けた。
 男の紫色を通り越して真っ黒になった右手が客の視界に入らない様に身体で視線を遮りながら、アルカードはふたりの男たちを連れて店の奥へと姿を消した。
 
   †
 
 完全に店の中から見えなくなったところで、アルカードは背後を振り返った――左足を軸に転身し、後頭部めがけて振り下ろされた黒い鞭の様なものを、腕ごと払いのける。
 黒い鞭――にしては短い。というか、目標を失って空振りし、だらんと垂れたそれは、すぐに分厚い黒い靴下だと知れた。爪先に近い部分だけがこんもりとふくらんでいるのは、中に硬貨かパチンコ玉でも詰め込んでいるのだろう。ブラックジャックは手軽に作れるが、命中させられさえすれば十分に効果的だ。
 命中させられさえすれば・・・・・・・・・・・、だが――
 背後から振り下ろしたブラックジャックをあっさりと躱されて、ぽかんとした表情を見せている背の高い男に向かって手を伸ばす――次の瞬間、男は首を掴み上げられて苦悶の声をあげた。
 爪先が床から離れ、指先で頸動脈を圧迫されて脳への血流が止まっているために顔が真っ赤に染まる。呼吸は問題無く出来ているのに脳に酸素が届かないという異常事態に、男の口が餌をねだる金魚の様にパクパクと開閉し始めた。
 男の体をゴミ袋の様に足元に投げ棄てて、アルカードは床の上に手を突いて咳き込んでいる男の後頭部を見下ろした。
「入れ」 ぞんざいに事務室の扉を親指で指し示し、ふたりの男に命令する。
「ああ? てめえ調子に乗ってんじゃ――」 首を掴み上げられたときに長身の男が取り落としたブラックジャックを拾い上げ、小太りの男が恫喝の声を発する――より早く、アルカードはさっと手を伸ばして男の手の中からブラックジャックを奪い取った。ツンと鼻を突く臭いに顔を顰め、
「臭いぞ。この靴下、ちゃんと洗濯したやつ使ったのか?」
 入れ、と再び繰り返す――ふたりの男が事務室に入ると、アルカードはあとから部屋に入って後ろ手に扉を閉めた。
「で? さっき叩き落とした食事の中に、虫が混じっていたとおっしゃってたか」
「おどれ耳遠いんか、こら――そう言うとるやろが」
 完全に劣勢に立たされているにもかかわらずそう恫喝の言葉を口にする小太りの男に、アルカードは口元をゆがめて笑った。
「へえ、じゃあ――」 アルカードはまるで足元の小石を拾い上げる様な何気無い動きで胸倉を掴んだ男の胸元に手を伸ばし、内懐から目当てのものを取り出す。
 取り出したのは小さなチャックつきの小袋に入った、ゴキブリや蝿の死骸だった。
「てめ、それ返せ!」
「じゃあどうして、おまえの胸元に虫入りのポリ袋なんて入ってるんだ?」
 そう告げてから、手近なデスクトップパソコンの画面を親指で指し示す。
「一応こんなちっぽけな店でも、防犯とトラブル防止のためにカメラはついててな――切り替わり式じゃなく複数のカメラで店全体を切れ目無く監視してる。おまえが出てきた食べ物の中に虫を入れるところもな」 ついでに言うと、俺も見て・・たんだがな――胸中でだけそう付け加えて、アルカードは目を細めた。
「調子に乗るな、穀潰し――ほかの客の手前おかしな噂を立てられても困るから、ことを荒立てずにおいてやったら図に乗りやがって」 恫喝の言葉を口にして、小太りの男の首筋に軽く左手の指を這わせる――指の隙間から猛獣の爪を思わせる様な小さなナイフが顔を出しているのに気づいたのだろう、鋭利な尖端の感触に竦み上がって、男たちは完全に色を失っていた。
 否――それもたぶん違うか。
 おそらく、ふたりとも理解したのだろう――アルカードがここにいる気・・・・・を失くしたら、こんなちっぽけな飲食店の存続などどうでもいいから彼らを殺そうと思ったなら、アルカードが一瞬の躊躇も無く首元に突きつけたナイフの鋒を引いて小太りの男の頸動脈を引き裂くであろうということを。
「本気で俺を怒らせたいんなら、来いよ――俺にこの店なんかもうどうでもいいって思わせるほど怒らせたら、そのときはこの俺がおまえらにじきじきに教えてやろう。おまえらの大事な小汚くて薄っぺらいベニヤの板切れなんぞ、単純に物理的に圧倒的に強い相手には虚仮脅しの道具にも楯にもなりゃしないってことをな」
 
   †
 
「――きはこの俺がおまえらにじきじきに教えてやろう。おまえらの大事な小汚くて薄っぺらいベニヤの板切れなんぞ、単純に物理的に圧倒的に強い相手には虚仮脅しの道具にも楯にもなりゃしないってことをな」 聞こえてきたのは途中からだったが――
 扉の向こうから聞こえてきたアルカードの言葉には、一片の虚言も混じらない恫喝がこめられていた――彼は本気だ。彼らがこれ以上この店にちょっかいをかけてきたら、アルカードは彼らが人間であろうがなんであろうが挽き肉にすることに躊躇したりはしないだろう。
 扉を開けると、アルカードがこちらに視線を向けて顔を顰めるのが見えた。金髪の吸血鬼は小太りの男の首筋に左手の指先を這わせて、その指先にはさみ込む様にして保持した獣の爪の様な形状の小さなナイフの刃を頸動脈のあたりに突きつけている。
 アルカードが必要が生じれば躊躇無くナイフの鋒を頸動脈に突き立てるつもりでいるのがわかったからだろう、ふたりの男たちは殺気を浴びて蒼褪めたまま身じろぎもしなかった。
「さて――」 アルカードがすいと左手を引っ込める。
「申し訳ございません、お客様。ほかのお客様のご迷惑になりますので、御代のほうは結構でございますから、今日のところはお引取りいただけますでしょうか?」 言葉だけは丁寧に、ただしはっきりわかる恫喝をこめて、アルカードはそう告げた。
「あ、裏口からな」 そう言って、アルカードが扉に向かって歩き出す。扉の前に立っていたフィオレンティーナに脇へどく様に手で促したとき、背後に立っていた長身の男が木製の鞘に込めてあった短剣を逆手で抜き放ち、アルカードの背中に突き立てようと振り翳した。
 おそらく正確な狙いは、アルカードの左肩口だったのだろう――この男たちが何者なのかは見当もつかないが、アルカードの対応がいきなり刃傷沙汰に及ぶほどにプライドを傷つけたらしい。肩甲骨と鎖骨の隙間から鋒を捩じ込むつもりらしく、刃筋を立てずに刃を横にして握った握りにくそうな持ち方で、アルカードの背中めがけて振り下ろし――
 フィオレンティーナが警告の声などあげるまでもなく、次の瞬間にはアルカードが体ごとその攻撃を躱している――攻撃を空振りして宙に泳いだ体を肩を掴んで引き寄せながら足を刈り払い、床に両手を突いた長身の男の首筋になにかを突き立てた。
「……え? ……」 アルカードが手を引っ込めると、長身の男の首筋になにかが深々と突き刺さっている――どこから取り出したものかは知らないが、すぐに刺殺用の細身の短剣だと知れた。
 身幅は十ミリ、鎬の重ねは五ミリ程度の菱形で、柄元まで突き刺さっていないためにいくらか露出した刃の形状は錐状短剣スティレットに近い――というよりも、本当に錐に近いのかもしれない。刃がついていないわけではないだろうが、菱形に近い四角錐状のあの形状では切れ味など望むべくもない。あれは純粋に、鎧の遊びから帷子の隙間を縫って刺し込むための武器だ。
「触らんほうがいいぞ」 確かめる様に喉仏の脇から飛び出した刃の鋒に指先で触れようとした長身の男に、アルカードが警告の言葉をかける。
 刀身がやや長いので、首筋から突き立てられて喉の脇から飛び出した鋒が見えている――完全に首を貫通して飛び出した鋒は、やはり四角錐の形状をした錐の様だった。
「動脈、神経、気道、すべて避けて刺した――だが脊椎を貫いて脊柱と動脈、気道に接触してる。柄頭を軽く指で弾いて、ほんの少し力を込めるだけで――」 酷薄に目を細めて、吸血鬼が続ける。
「わかるな? 自分の血に溺れて死ぬか、それとも首から下が動かなくなって一生寝たきりで暮らすかだ」
 ことここに至って自分の置かれている状況が理解出来たらしく、長身の男ががたがたと震え出す。
「選べ――おとなしく親分のところに帰って二度とここに来ないか、それとも逆らってここでこのまま死ぬか」
 小太りの男も、動けない様だった――おそらく彼は暴力に慣れた男なのだろうが、今目の前にいる吸血鬼の振るう『力』は彼らのそれとは決定的に異なる。
 彼らの『力』は相手を痛めつけ、恐怖と痛みで相手を従わせるためのものだ。負傷したり死ぬことはあっても、それは結果でしかない。
 だがこの吸血鬼は違う――相手の事情など一切斟酌せず、機械のごとく冷静に時間をかけず手早く相手を殺すこと、それを目的とした実力行使。
 彼らが従わなければ、次の瞬間にはアルカードは寸毫の躊躇も無く男の首筋に突き立てた短剣を手ではたくだろう――捩ったりもっと深く突き刺す必要は無い。ほんのちょっと短剣の柄を横殴りにはたくだけで、長身の男の人生は終わる。違いがあるとすれば全身麻痺で寝たきりの生活になるか、それとも肺に溜まった血で溺死するか、その違いだけだ。
 否、躊躇はするかもしれない――だがそれは死体の始末や周りの汚れをどうするかというだけのもので、彼らを殺害することそのものに対する躊躇ではない。表情、視線、口調、気配、感情を周りに示す要素すべてがはっきりとそう語っている。
「……わ……」
「返事ならゆっくりとしろ――大きく筋肉を動かすと、動脈や気道を傷つけるぞ」
「わかった、帰る――もう二度と、ここには来ない」 絞り出す様な口調で返事をした長身の男の言葉にうなずいて、アルカードが男の背中を片手で抑えつけて短剣を引き抜いた。抜いた拍子の激痛に男が苦悶の声を漏らすが、アルカードは眉ひとつ動かさない。
「ありがとうございます。それではせめてお見送りさせていただきます」 言葉遣いと口調だけは丁寧にそう言って、アルカードは開けっぱなしになっていた扉をくぐってこちらに向き直り、店の裏口のほうをぞんざいな仕草で示してみせた。
「お帰りはそっちだ――その有様で表からは出たくないだろう、ええ、ゴクドーさんよ」
 その案内に従って、男たちがおとなしく歩き出す――ややあって、三人の姿が店の外へと消えた。
「どうしたんだい、なにか騒がしかったが」 背後から声がかかって、フィオレンティーナはそちらを振り返った。店のオーナーの老人が厨房から顔を出して、不思議そうにこちらを見ている。
「大丈夫です、もう終わりました」 そう返事をすると、老人は首をかしげつつも納得したのか顔を引っ込めた。

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