偏平足

里山の石神・石仏探訪

石仏640四方木・浅間山(千葉)磐長姫命

2016年02月12日 | 登山

四方木・浅間山(せんげんやま) 磐長姫命(いわながひめのみこと)

【データ】 四方木・浅間山 308メートル(地図に山名なし。四方木集落東南の308標高点)▼最寄駅 JR外房線・安房天津駅▼登山口 千葉県鴨川市の四方木集落▼石仏 浅間山東尾根の小ピーク。地図の赤丸印。青丸は富士山頂、石祠などの石造物があるピーク▼地図は国土地理院ホームページより



【案内】 四方木集落の南東にある小さな山に富士浅間が祀られている。登山口は不動滝の道に入ってすぐの浅間観音の手前を右に入り、民家の左脇に参道が続く。鳥居、石段、木祠と続いた先の道のない尾根を登ると、山頂手前の小ピークに「小御岳神社 磐長姫命 四方木村中先達」銘の石塔が倒れていた。高さ75センチ。裏面の銘から、明治17年(1884)に唐鎌六左エ門が願主となって立てたことがわかる。小御岳神社は山梨県の富士山スバルライン五合目にある神社で、富士山に古くから祀られていた神社。磐長姫命は日本神話に登場する大山祇神の娘、妹が富士山の神とされた木花開耶姫。


 ここにはもう一つの石塔「小御岳石尊大権現 大天狗小天狗」が立つ。こちらは「天保六年(1835)」の造立。高さ70センチ。石尊は丹沢大山の石尊大権現で小御岳に勧請されたもので、大天狗・小天狗はその眷属。ここから富士信仰とともに各地の里山に勧請された石尊大権現もある。この二つの石塔が祀られた里山の場所は富士山の五合目の小御嶽神社に倣ったもので、東京とその近辺にあった富士塚でも、磐長姫は中腹に祀られている。天保と明治の50年の間に二つ立てた理由は、明治の初めに祭神が小御嶽石尊大権現から磐長姫を祀る小御嶽神社にかわったため、この四方木でも遅まきながら明治17年に立て直したと理解したい。


 二つの石塔からさらに登ると、新しい「富士山頂 浅間大社」の石塔と石祠が祀られている四方木の浅間山山頂となる。石塔は高さ90センチで昭和62年の造立、石祠は浅間大社であろうか。石祠後ろの自然石にはかすかに「仙元」の銘が入っていた。四方木の里は富士信仰の熱い土地柄であるこがわかる。
【参照】 山の石造物・富士信仰





【独り言1】 四方木の名所は集落の東の谷に落ちる不動滝。清澄山から流れ出た小櫃川にかかる不動滝は静寂な滝です。房総の滝は水量が少ないこともあって、どこも静かな滝が多いという印象です。地図には不動滝からさらに奥に寺社記号があるので行ってみることにしました。ところが不動滝からの道は崩落していて通行止め。四方木の集落に戻って、北側の山越えの道から入りました。そこで見たのは二軒の廃屋、石垣の上の「熊野三社大神」の扁額がかかる大きな社殿。社殿下には別当寺。少し離れて墓地。そこは時間が止まってしまったような世界でした。それでも熊野神社には正月の松飾りが残り、境内もこざっぱりしていて時間は動いているようです。


 別当寺にある子安地蔵には「當村男女念佛講中 文化二年乙丑(1805)」とあり、側面に「石工 折木沢村銀左エ門     」反対側に「金二朱 施主」とありました。

【独り言2】 石仏の値段 ここから江戸時代後期の石屋の賃金と石仏の値段の話です。熊野神社別当寺にある子安地蔵の「二朱」を施主が出した金とするか、石工への支払い金とするか判断できませんが、文化時代の2朱が今のどれぐらいの金額になるのでしょうか。よく引き合いにだされる日本銀行金融研究所貨幣博物館の試算の一つを使って計算しますと、今の大工の日当を2万円とした場合の1両は32万2000円になります。そうすると1両は16朱だから、2朱は5万7500円。これを石工への支払いとすると、すごく安い金額ですよね? 当時の米価格で計算するともっとビックリするほど安くなります。
 では当時の石仏の値段はいかほどだったか、石工関係の本から拾ってみます。守屋貞治『貞治の石仏』には「壱体彫刻料甲弐分」(注1)の件があります。先の試算で計算すると16万1000円です。丹波佐吉『旅の石工』には「石狐一対 代金弐両」(注2)の件があります。ここでは1基1両でした。二人とも今では日本を代表する石工とされていまが、貞治は信州高遠、佐吉は丹波、地方の一介の石工でした。富幕山(静岡)で案内した方向寺の石仏は20万、昭和50年の埼玉県秩父札所31番近くの水子地蔵は13万でしたから、2朱(5万7500円)はやはり安く、石工への支払いではなさそうです。
(注1)守屋貞治(1765~1832)
    曽根原駿吉郎著『貞治の石仏』昭和44年、講談社
(注2)丹波佐吉(1813~?)
    金森敦子著『旅の石工』昭和63年、法政大学出版局


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 石仏639乗鞍岳(岐阜)天照大神 | トップ | 石仏641清澄山(千葉)種字・... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。