アインシュタインメモ☆ブログ

 特殊相対性理論が発表され、はや101年。 新世紀の世に捧ぐ、愛と希望のサイエンス・ラプソディ☆

マイノリティ・リポート

2006-02-12 04:20:48 | 映画評論
 

 西暦2054年、ワシントンDC。政府は度重なる凶悪犯罪を防ぐ策として、ある画期的な方法を採用し、大きな成果をあげていた。それは、“プリコグ”と呼ばれる3人の予知能力者によって未来に起こる犯罪を事前に察知し、事件が実際に起きる前に犯人となる人物を捕まえてしまうというもの。ジョン・アンダートンはその犯罪予防局のチーフとして活躍していた。しかし、ある日、ジョンは自分が36時間以内に見ず知らずの他人を殺害すると予知されたことを知る。一転して追われる立場になったジョンは、自らの容疑を晴らそうと奔走するのだが…。  (以上、yahoo!ムービーから抜粋)

 スピルバーグ監督がトム・クルーズを抱きこんで、またやってくれた。この作品のメインストーリーは犯罪予知、というもの。プリコグ、と呼ばれるシステムの発案者を遺伝子学の権威と設定していることからも分かるように、スピルバーグは最近流行の先天性の遺伝子異常(欠損)をテーマに取り上げているのだ。
 
 人間の細胞核には23対の染色体があり、それをほぐすと二重螺旋構造のDNAが出てくる。DNAは塩基と呼ばれる4種類の化学物質で構成されていて、その配列によって遺伝情報が決定される。昨今ヒトゲノムの解明により、どの部分が何の情報を遺伝しているのかが判明してきた。同時に、どこの配列に異常があるとどういった病気に罹りやすいといったことも分かるようになり、これが先天性遺伝子異常と呼ばれるものの正体だ。

 先天性遺伝子異常の中には、精神に関するものも含まれる。そのことに派生してアメリカでは、殺人犯に共通する塩基配列の異常を分析することで、生まれつき危険因子を持った人物の特定をし、犯罪を未然に防ごうという動きがある。将来的には、先天性異常者に発信機を付けて監視しようというもので、スピルバーグは本作品を以って、このことに明確に反対の立場を表明しているのだ。

 物語の後半で、プリコグ(預言者)がジョン(トム)の自宅で言う。「この家は愛に溢れている・・」 そのシーンは、人間が犯罪者を犯すのは決して、先天性の遺伝的特性のせいではなく、根本的原因は後天性(主に家庭)にあるのだと暗示している。そして、自身の力で未来は必ず変えられるのだと。作品中で、ジョンがそうしたように・・。

 もうひとつ、私が主要だと感じたテーマは、タイトルでもある「マイノリティリポート(少数派の意見)」というものだ。犯罪予知システムをめぐり、作品中登場人物たちが何度も口にする。「完全なシステムというものはこの世には存在せず、また、それを取り扱う管理者の不備(故意を含む)によって、その正常な運営が妨げられてしまうのだ」と。スピルバーグはまずその問題点を掲げて、それ故、マイノリティの意見に耳を傾けるべきなのだと訴えかけているのだ。言わずもがなそれは、議会制度に於いて安易に多数採決をしてしまう、現在の民主主義制度に対する警笛を意味している。

 アメリカは一部、業界団体が強力な影響力を持っていたりするが(今話題のBSE問題もこれに起因する)、トータルバランス的には、実に合理的なシステムを堅持する国だ。そんなアメリカでさえ、このような危惧をしているくらいだから、これに比べたら、日本はどうなるのだろうか。僕が学生の頃、日本はアメリカに50年(ヨーロッパには100年)遅れていると言われていたが、こう考えるとまだ20年近くは後進しているのかも知れない。少なくとも、冷戦終結後10数年経過してなお、アメリカの年次要求のみを指針に国策を図る政党(例えばこの人)が政権を保持し続けているうちは、何ひとつ本質的解決には到れない気がする・・。


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