徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

BA038/17JAN PEKLHR - 事故機移動へ

 ロンドン・ヒースロー空港と言えば、ロンドンの空の玄関口。17日に発生した BAW の事故後、変則的な運用( Rwy 27L は Takeoff Only )で夥しい量の Traffic をさばいていましたが、通常の運用に戻すべく、事故機を移動させるそうです。

英国の航空事故調査委員会によると、現地時間の20日午前8時~11時〔日本時間の20日午後5時~午後8時〕に、当該機( G-YMMM )を東ハンガー地区に移動するそうです。

移動はするものの、機体に手を加えることはなく、そのまま調査を継続すると言っております。

Both Engine が同時に推力を失う、それも着陸を直前に控えた 600 feet AGL で、という双発機の Flight Crew にとっては他人事ではない事態、事故調の徹底した調査が待たれるところです。


【以下、タイトルとは直接関係ない愚見です】

当該機の EGLL への着陸に際しての PF (操縦担当)は F/O (副操縦士)でした。

当該便は北京からロンドンと長大路線の部類に入るので、duty hour (勤務時間)の制限により、3名の運航乗務員による所謂マルチ編成で運航されていました。

マルチ編成では、PIC: Pilot In Command (その便の統括最高責任者)に加え、SIC: Second In Command (第二責任者:PIC が飛行中休息を取る際に、PIC に代わり、その便の統括責任者の役目を果たす)が指定されます。

当該便の PIC は、機長が勤めておりましたが、SIC は着陸を担当した F/O だったようです。

本邦のキャリアでは、マルチ編成で運航する場合、SIC も機長有資格者が勤めます。一時期(数年前でしょうか)、本邦でも「 SIC を副操縦士でも可とする」(所謂、団塊世代の年代の機長が大量退職することから、マンニングが厳しくなり、国際線の相当数を占める長大路線のマルチプル編成に機長が2名とられるときつい事情が背景にあったのでしょう)動きがあったのですが、乗員からの反対運動で見送られました。

この動きがあったことからも解るように、SIC は必ず機長有主格者が勤めなければならないとの決まりはありません。

各国の当局が定めた要件に沿って、その国の航空会社が規則を定めています。

当該便を運航していた英国航空では、F/O の職に Senior First Officer (極めて乱暴な意訳をすれば「経験豊富な上級副操縦士」とでも言いましょうか)があり、当該便の着陸時の PF は、この Senior F/O でした。

彼が、Senior F/O に相応しい働きをしたことは、あの状況での冷静沈着な対応を見れば異論を唱える人はおりますまい。

この事故に関して最初に投稿した記事に掲載した上空からの写真を見ていただければお解りいただけるかと思いますが、推力を失って滑空状態となった機体を、GS Path からの deviation を最小限にとどめ、空港外周の交通量が多い道路を越え、外周フェンスに脚を引っ掛けることもなく越えて、しかもガストを伴う左からの横風の中、LOC からの deviation もほとんどない状態で降ろしています。

視程が more than 10km と良好で Visual Reference がしっかり得られたとは言え、緊急事態にあれだけの操縦を出来るとは PIC である機長が賞賛するのも当然といえます。

あの状態であそこに降ろすのは、1メートル先に置かれた縫い針の針穴に糸を通すようなものです。

ちょっとでもピッチが異なっていれば、バンク角が異なっていれば、あの結果は得られなかったでしょう。

勿論、PF だけの技量で成し得た結果ではありません。

当該便の機長が語った

“ Flying is about teamwork and we had an outstanding team on board ”

が心に響きます。

英国の航空事故調査委員会(英国内の民間航空機事故調査に全責任を持つ英国運輸省の一部局) AAIB: Air Accident Investigations Branch による調査結果を待ちましょう。

機長のスピーチにもありましたが、お怪我をされた9名のお客様( 1: serious, 8: minor )とそのご家族にお見舞いを申し上げるとともに、一刻も早い回復を祈っております。また、負傷した4名の Crew の方々にもお見舞い申し上げると共に、早期回復、そしてしかるべき休息の後、またプロフェッショナルとして空で活躍されることを祈っております。
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コメント
 
 
 
キーワードは「同時」? (Picorino)
2008-01-20 13:07:46
偶発的な故障で同時ということは、あまり考えられないので、「同時」と聞いた瞬間に「機内での電子機器使用の影響」ということが頭に浮かびました。
今どきのエンジンは電子制御でしょうから、その制御系統の電線に何かが混信して、エンジン停止の信号として作用したら、二つ同時も?と。
時として、着陸寸前に携帯電話が鳴ったりとか、CAが座った後でPCを開いて使っている人を見かけたりします。
不安ですね。
 
 
 
同感 (PAX)
2008-01-20 13:38:53
「Picorino」さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
私も「同時に」がすごく気になっています。
一発downなら、Bird StrikeやEngine Failなど考えられる要因は少なくないのですが、Both Engineが同時に、ということから本件を着目している次第です。
仰るようにEMIは「同時に」と密接に関連するかもしれません。Engine制御のコンピュータは多重化されているので(777は3系統でしたでしょうか....不確実お許し下さい)、それが同時にダウンすることも考え難いし、センサからの入力信号,コンピュータからの制御信号に何らかの誤作動を招くノイズが混入したのか。
何れにせよ、事故調がしっかり調べてくれることを期待し、下種な推測は止めにします。
海外のメディアのインタビューにあちらの専門家の方が「777のシステム的な欠陥とは考えられない」とのコメントを述べていましたが、現時点ではそう言い切ることもできますまい。何処も同じですね....。
 
 
 
藪の中・・・ (speedbird)
2008-01-20 21:03:32
今晩はPAX様。帰宅して自分のブログを上げていたら、早速PAX様も・・・。しかも同じところをついてます(爆)。この事故はFOが操縦を続けたことが被害拡大を食い止めたと思っております。
不謹慎な引用ではりますが、中華航空機の名古屋での事故。あの時はFOに任せていた操縦桿を途中から機長が変ってやってました。
コントロール・ループの中にいつもいて、最も安全で効率のよい仕事をする。これがBAのクルーには徹底して教育されているということが見て取れます。
しかし、FADEC同時故障とは是いかに。真相は事故調の報告をまつまで"藪の中"であります。
=業務連絡=
Greeのメッセージありがとうございました。迷惑メールが結構とどいたりと、メールの"放置"状態が続いており昨日気づきました。温かい、お言葉身に余る重いです。
明日は関東地方、雪のようです。通勤時お気をつけ下さい。
 
 
 
Re: 藪の中・・・ (PAX)
2008-01-20 22:18:13
「speedbird」さん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
Speedbird 038 とあってはspeedbirdさんも他人事ではありませんね。
# speedbirdさんの書かれたFADECの記事、大変勉強になりました。

本件に関しては仰るとおり、事故調の報告を待つしかありませんね。
が、双発機、殊にトリプルのFlight Crewにとっては気になることでしょう。
現時点で言える唯一のことは、“絶対”はあり得ないということですね。限りなく“絶対”に近くても、それはやはり確率論になってしまう。ETOPSとて、片肺になって残った一つで207分“絶対”飛べるとは限らない。あくまで確率論の世界なので、たとえ天文学的な確率であっても、ETOPS Alternateに向かっている途中で残り一発に何か起こってしまうこともあり得るわけですから。現場の方々(Cockpit, Mechanic, Dispatch, etc)のご苦労は想像を絶するものがあります。Professionalismで空の安全が守られていることを、改めて痛感している次第です。
 
 
 
残暑お見舞い申し上げます (KaVo)
2008-08-23 12:50:15
ご無沙汰しております。
PAX様、お元気ですか?
このブログ、大変興味あって更新を楽しみにしておりますが、もちろん私の書き込みでPAX様のご事情を邪魔してはいけませんので。こんな気持ちの方ほかにもいらっしゃるかと、思わず投稿してしまいました。
 
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