徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

運航乗務員の宇宙線被曝問題 (+RVSM)

 “日常生活やX線検査などで浴びる放射線に比べても、とくに高くないことが分かる”とは言っても、航空機を操縦することを生業としている Cockpit Crew にとっては由由しき問題で、随分と前から各社の乗員組合等では問題視してきたのが、この宇宙線被爆問題です。

国際線としていますが、関西―ソウル便などは、国内線の羽田―福岡便とほぼ同じと考えられますから、国際線の乗務に限らず日に3本飛ぶ1泊2日パターン(例:一日目…羽田-新千歳-羽田-福岡,二日目…福岡-羽田-伊丹-羽田)などの国内線乗務とて侮ることはできません。

まさに、『塵も積もれば山となる』です。

長距離国際線は、離陸時には最大離陸重量まで燃料を積んで飛び立ちますので、その重さゆえ、いきなり高高度での巡航は航空機の性能上無理がありますが、飛行するにつれて燃料を消費し、重量が軽くなりますので、航空路管制センターと調整して、より燃費効率の良い高い高度へと巡航高度を段階的に上げます。例えば、成田-ニューヨークなどは、太平洋に出て最初の巡航高度はせいぜい 33,000feet(約10000メートル)ですが、アラスカ~カナダを越えニューヨークに到着する間際の巡航高度は 41,000feet(約12500メートル)まで上がることも珍しくありません。

国内線は、余分な燃料は搭載しないので、一気に高い高度まで上がれます。例えば、福岡-羽田では、福岡空港離陸後、南へ進路をとり国東半島の西北西付近で左旋回し東へと転進し、巡航高度を 41,000feet を選択した場合、四国の高松上空手前には巡航高度に達します。その後、その高度で巡航するのは駿河湾の手前くらいまでですが、高度選択の自由度は国内線の方がより大きいといえるでしょう。

日本国内でも来月から RVSM: Reduced Vertical Separation Minimum 空域の運用(航空機の垂直方向の間隔を狭める方式)が開始されます。
※正確には、日本国内というよりも、陸地や沿岸上空の航空路でも、と言った方が良いでしょう。太平洋 NOPAC や PACOTS route 、本州南海上~沖縄にかけての航空路では既に RVSM 空域が実施されていますので。

計器飛行方式の場合、これまでは高度 29000feet (FL290) 未満は 西行きと東行きの高度差は 1000feet、FL290 以上では 2000feet に設定されていたものが、RVSM が開始すると FL290 以上でも 1000feet の高度差で運航できるようになります。
勿論、安全基準を満たした RVSM 適合の航空機でなければ RVSM 空域の飛行は許されません。

羽田-福岡間の高度を例にとると、これまでは
 福岡行(磁方位180°~359°)
 -FL390, FL350, FL310, FL280
 羽田行(磁方位360°~179°)
 -FL410, FL370, FL330, FL290
だったものが、それぞれ
 福岡行(磁方位180°~359°)
 -FL400, FL380, FL360, FL340, FL320, FL300, FL280
 羽田行(磁方位360°~179°)
 -FL410, FL390, FL370, FL350, FL330, FL310, FL290
と高度選択の自由が増えるのです。 

昨今の航空燃料高騰に伴って、燃費効率にはより一層気を遣った飛行計画が作られることになるでしょう。風や悪天域を考慮することは勿論ですが、これまでだったら、FL310 は揺れがひどく FL350 はジェット・コアで強い向い風、FL390 は Tropopause (対流圏と成層圏との間の圏界面)にかかって安定しないといった状況では、燃費を多少犠牲にしてでも低く這って行くしかなかったものが、RVSM では、FL320, FL340, FL360, FL380, FL400 と選択肢が増えるので、FL400 まで上がれば Tropopause を突っ切り成層圏で安定してかつ燃費効率の良い飛行ができる、といった事例も考えられます。

高高度を飛ぶ機会が増えれば、それだけ被曝量も増えるということになります。

高所恐怖症のパイロットさんが増えてしまうかも知れません。



国際線機上で浴びる宇宙線、被曝量をネットで計算 (朝日新聞) - goo ニュース
 国際線の航空機に乗った場合に浴びる宇宙からの放射線量を自動計算できるシステムを、独立行政法人・放射線医学総合研究所が開発し、16日からネット上で公開した。35都市への航路に限られるが、同研究所は「日常生活やX線検査などで浴びる放射線に比べても、とくに高くないことが分かる」と話している。

 システムでは、成田、関西の国際空港から欧米、アジアなどの主要35都市に飛んだ場合に浴びる平均的な宇宙放射線量が分かる。季節や高度、太陽活動の強弱などで変動するため、行き先だけでなく、飛行する月も指定する。たとえば、成田―ニューヨークは今月、往復で0.17ミリシーベルト、関西―ソウルは往復で0.009ミリシーベルトとなる。

 航空乗務員の年間被曝(ひばく)量は平均で3~4ミリシーベルトと推定される。文部科学省は現在、航空乗務員の目標値を年間5ミリシーベルト以下とする指針案作りを進めている。

 国連科学委員会の報告によると、地上でも自然界から年間に平均約2.4ミリシーベルト被曝する。ただし、地域によってかなり差がある。胸部CT検査を受ければ7ミリシーベルト近く浴びる。

2005年 9月17日 (土) 15:47
Comment ( 2 ) | Trackback ( 0 )
« 台風16号 (...きょうは“中秋... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (RUSAR)
2005-09-20 01:18:22
RVSM本格導入ですね。「FL310,350,390」って 長年”西行き”に使われてましたので、航空路管制から5年離れている私にとって、これらの高度が”東行き”に使われるのを見ると非常~に違和感を覚えます。レーダーやストリップで東行きの航空機アサインされているのを見かけると反射的に「ドキッ」としてしまいそうですよ笑。慣れるまでしばらく掛かりそう・・。
 
 
 
カウントダウンですね (PAX)
2005-09-21 05:28:00
「RUSAR」さん、おはようございます。

RVSM、カウントダウンですね。航空路管制では慣熟訓練も最終段階のことでしょう。

NOPACがRVSM空域となった直後、太平洋を越えたときのことですが、PFIS眺めててFL320でlevel offしたときは一瞬「ドキッ」としました。また、PACOTS Track2で1000feet下の某社機を抜き去ったときには「1000feet」という高度差の“近さ”を実感したものです。PACOTSの場合、同方向に飛んでいますから相対速度もゆっくりと眺められる程度でしたが、V17あたりを1000feet差ですれ違うのは迫力ありそうですねぇ。

Wake Turbulenceにも注意が要りそうですが....。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。