徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

まだまだ解せない…

 一つ前の投稿“解せない”に関する話題が続きます。

このことで“判決が示される”“刑事裁判が行なわれる”こと自体、「解せない」話でして、その点については、約7時間前に“ポンコツ瞬間湯沸かし器”が燃料を大食いしながら吠えたところであります。

判決について言及するのは、裁判が行なわれたことを肯定することと誤解されかねないので、慎みたいところなのですが、一言・二言、言わせてください。

至極当然な判決と言えましょう。所詮、罪に問うこと自体が間違っているのですから。

論点の馬鹿馬鹿しさと、こんな裁判を行なったところで航空の安全には全く寄与するものでないことは、前投稿で駄文を重ねた通りですが、それだけではまだ煮えかえった怒りがおさまらないので、もう一回“ポンコツ瞬間湯沸かし器”が火を噴きます。

判決文を見ていないので何とも言えませんが、『便名を間違えて~』と引用記事には書かれています。(重箱の隅でお恥ずかしいのですが)正確に言うならば『その時点でのコールサイン【無線電話呼出符号】』です。

便名とは、あくまで定期運送に供する航空機に割り当てられたものであり、通常は運航会社に割り当てられた電話略号+数字から構成されています。

当時接近した2機のコールサインは便名を用いた;
 Japan Air NIN-er ZE-RO SEV-en (JAL907)
 Japan Air NIN-er FIFE AIT (JAL958)
と発音され、交信されておりました。

その時点でのと限定したのは、航空機側のコールサインは、クリアランス(飛行承認)を得てから目的地に到着するまでずっと同一(航空機運航会社の電話略号+便名)とは限らないからです。

コールサインについては、「航空機局の無線呼出符号の一時的変更」として、

他の航空機局のコールサインと類似しており混同の恐れがある場合、管制機関は混同の恐れが解消されるまでの間、コールサインを一時的に変更することがある。

と定められています。

今回の事例がそれにふさわしいかどうかは、その空域の輻輳状態などにより一概には決められませんが、その時の関東南セクターにおいて担当者が『あ~っ、Japan Air は紛らわしいコールサインが多いなぁ』と判断した場合には、

Japan Air 907, change your call sign to Japan Air 907 Alfa until further adviced due to similar call sign.

のような措置をとることも許されていた訳です。

そのように、無線交信に依存している航空管制においては、過去の苦い教訓をもとに、出来るだけ不安全要素が入り込まないようにとの考えがなされています。

当該事故では異常接近(ニアミス)が起こり、お客様・CAが負傷されたことは残念なことです。

それ故に、何故、異常接近してしまったのか、その経緯を究明することは極めて大事なことです。

が、それを行なうのは、同様な惨事が二度と起こらないためにはどうすればよいかのためであって、悪者探しをするためではありません。

異常接近に至るまで、現場の視界は良好で、結果的に異常接近した双方のコックピットでは、相手を視認出来ていました。

一方で、計器飛行方式で定期運送に供されていた双方の機にとって、管制指示は「国土交通大臣」の指示であり、原則としてそれに従わなければなりません。

第三者も多数いる中での「無線を介した音声通信」のみで行なわれている管制機関と航空機間とのコミュニケーション、しかも航空機側はPTTであり、送信している間は受信音声は途絶えます。一方、地上側では、同一の周波数を用いて複数の航空機をさばいているわけですから、2機が同時に呼びこみしてきた場合は混信がおこりますし、管制側が送信中に第三者(送信相手ではない航空機)が同一の周波数で呼びこみしてこないとも限りません。

航空管制がパイロットと管制官との間で、無線を用いた会話通信によって行なわれている今日、ICAO でも様々な基準を設け「より安全で確実な航空管制」を目指していますし、本邦でもAIPや管制方式基準などを改定しつつ、安全性の確保に努力しています。

この裁判と判決により、それらの活動を上回る「安全性を向上させる何か」が得られるのでしょうか....。

今回検察(警視庁)は当該事故時の管制官を「業務上過失傷害の罪で在宅起訴する」という暴挙に出たことを受けての裁判でした。

検察は先にパイロット側に対しても「業務上過失傷害の罪で書類送検する」という愚行を行なっているのですが、それは既に「嫌疑不十分で不起訴」となっています。

ICAO Annex 13 より

【3.1 調査の目的】
事故またはインシデント調査の唯一の目的は、将来の事故またはインシデントの防止である。罪や責任を問うのが調査の目的ではない。

【5.4.1 調査実施国の責任】
勧告-罪や責任を科す目的のいかなる司法・行政上の手続きも、本付随書の定める規定に基づく調査とは分離されるべきである。

ICAO Annex 13 Printed Copy (Book)

まだまだ解せない我が国の航空事故対応。

そもそも我が国の ICAO Annex 13 にも反したこの解せない行為の元凶はどこなのか。

当時の運輸省と検察庁が取り交わした以下の「覚書」ではありませんかねぇ。

『事故調査が犯罪捜査に支障を来たさないようにするものとする』
 


日航機ニアミス事故、管制官2人に無罪判決 東京地裁 (朝日新聞) - goo ニュース
 静岡県焼津市の上空で01年1月、日本航空の2機が異常接近(ニアミス)し、乗客・乗員多数に重軽傷者が出た事故で、業務上過失傷害の罪で在宅起訴され、いずれも無罪を主張した管制官・蜂谷(はちたに)秀樹被告(31)、指導役の管制官・籾井(もみい)康子被告(37)の判決が20日、東京地裁であった。裁判では便名を言い間違えた蜂谷管制官の降下指示が問題となったが、安井久治裁判長は「降下指示自体は危険な指示ではなく、過失はなかった」として2人に無罪を言い渡した。

 判決はまた、「両機で空中衝突防止警報装置(TCAS)が作動しなければ危険性は生じなかった」と指摘。そのうえで「TCASが作動することを踏まえて管制官が指示を出すことは予定されていない」と述べ、管制官が事故の発生を予想することはできなかったと認定。降下指示と事故の間に因果関係がないとして無罪と結論づけた。

 検察側は蜂谷管制官に禁固1年、籾井管制官に禁固1年6カ月を求刑していた。

 事故は(1)蜂谷管制官が水平飛行中の958便に出すべき降下指示を、便名を間違えて907便に出し、籾井管制官も気づかなかった(2)この指示の直後、907便でTCASが作動、上昇を指示したが、機長は管制官の指示を優先して降下を継続(3)958便でもTCASが作動し、降下の指示が出たため、機長はTCASに従って降下(4)両機とも降下したため接近し、衝突回避のため907便が急降下――という経過をたどった。

 公判で検察側は「言い間違いがなければ事故は起きなかった」と主張。

 一方の弁護側は、「言い間違った指示に従って907便が降下しても、両機でTCASが作動せず、958便がそのまま水平飛行していれば、両機は十分に安全な間隔を保って交差できた」と反論。事故原因は蜂谷管制官の降下指示の後に両機でTCASが作動し、かつ907便がそれに従わずに降下を続けたことが原因で、そうした事態は管制官には予想できない事態であり過失はなかった――と訴えた。

 さらに、TCASの指示に従わなかった907便機長の判断の背景には、当時、TCASの指示と管制官の指示が食い違った時にどちらを優先すべきかの規定があいまいだったことがあるとし、事故原因は言い間違いではなく制度上の不備だったと訴えた。

 判決は、こうした弁護側の主張をほぼ全面的に認める形となった。

2006年 3月20日 (月) 15:11
便名言い間違えで日航機ニアミス、管制官2人に無罪 (読売新聞) - goo ニュース
 静岡県焼津市上空で2001年、日本航空907便と同958便が異常接近(ニアミス)し、907便の乗客ら57人が重軽傷を負った事故で、業務上過失傷害罪に問われた国土交通省東京航空交通管制部の管制官籾井(もみい)康子(37)、同蜂谷(はちたに)秀樹(31)両被告の判決が20日、東京地裁であった。
 安井久治裁判長は「蜂谷被告が、便名を言い間違えて907便に降下を指示したこと自体は、事故を招く危険性のある行為とは言えない」と述べ、籾井被告(求刑・禁固1年6月)と蜂谷被告(同1年)にいずれも無罪を言い渡した。

 判決によると、01年1月31日午後、焼津市上空で907便と958便が接近した際、蜂谷被告は衝突を避けようと、958便に降下指示を出そうとしたが、便名を言い間違えて907便に降下指示を出した。907便は、管制指示後に作動した衝突防止装置(TCAS)が上昇を指示したにもかかわらず降下し、TCASに従って降下した958便と異常接近。907便は衝突を避けようと、さらに急降下したため、乗客が、けいついねん挫などの重軽傷を負った。

 判決は、「907便がTCASの指示に従わずに降下を続けたのは、機長の判断によるもので、蜂谷被告の指示は一要素にとどまる」と、蜂谷被告の責任を否定した。

 警視庁は、両被告のほか907便の機長(46)も書類送検したが、東京地検は04年3月、機長については嫌疑不十分で不起訴としている。

2006年 3月20日 (月) 15:32
Comment ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
判決要旨文 (mmasuda)
2006-03-21 04:07:47
http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2006032001004844_Detail.html



またもやURL張りのみにて。
 
 
 
Re: 判決要旨文 (PAX)
2006-03-21 09:02:52
「mmasuda」さん、こんにちは。



有益な情報をありがとうございました。
 
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