遥かな轍(日々雑感)

大根サラダを食いまくってカリカリな体になってみよう(笑。

音轍~その1

2007年02月12日 13時39分17秒 | 音鉄Tips
芸備線急行「みよし」での録音風景。キハ58563(芸備線)2007.01.15


僕が音鉄の世界に足を踏み入れたのは、一昨年(2005)の夏の終わり頃、芸備線のキハ58達に会いに行った時からですが、元々、音鉄に興味があったとは言え、その頃は「ついでに」といったノリが強くて全体的な雰囲気さえ押さえれたら良いな位の感覚だったのです。音のクオリティーだとか、臨場感だとかはあまり意識してなかったように思います。芸備線を訪ねる少し前、僕は、盛岡の山田線と岩泉線を訪ねて、10数年振りにキハ58と対面する事となり、その魅力を再認識するに至った訳ですが、少し残念だったのは、彼の地のキハ58達のエンジンがオリジナルではなく昔の記憶を甦らせるには少し物足りなかった事で、そこで、塗色は違うものの今やキハ58が本来の役目を果たしている最後の列車、急行「みよし」を芸備線に尋ねてみる事に決めたのでした。

>音鉄を始めたきっかけ

いつもの事ながら少し脱線しますが・・・キハ58は僕にとっては非常に愛着のある鉄道車輌の一つです。僕が物心付いた頃辺りの記憶・・・今から30数年前の記憶を手繰り寄せてみると、583系「明星」や153系「新快速」と共にキハ58系が出てきます。日田彦山線を走っていた急行「ひこさん」「日田」「あきよし」。豊前川崎で見た黄色と赤色ツートーンの不思議なキハ58(あれは修学旅行色だったんですよね)。そして、今でも強烈な印象が残っている姫新線の急行「みまさか」「伯耆」「みささ」「やまのゆ」。大阪駅のホームの端から端まで、何と長い列車なのだろうと驚くと共に、それが中国勝山辺りまで来ると短くなっている不思議さ(笑。デッキに新聞紙を敷いて座り、母親と食べた冷凍ミカンの美味しかった事。津山でやっと席に付けた事。長時間の乗車に飽きてクルクル回る灰皿をオモチャにして従兄弟と遊んでいたら見事にひっくり返って中身を床にブチ撒けて親父にゲンコツを喰らわされ、それが途方もなく痛かった事とか・・・。もう上げればキリが無いのですけど、そんなセピア色の染まりかけている懐かしい思い出が沢山詰まっているキハ58。僕の幼少期の記憶はキハ58と共にあると言ってもおかしくないのです。そのキハ58が遂に終焉を迎える事が濃厚となった今日。そして期せずして盛岡でのキハ58との邂逅。しかし、昔の記憶とは明らかに違う音に違和感を憶え納得できず、それならばと、芸備線に昔の音を求めるに至った訳でした。
早朝の備後落合、駅に向かって登ってゆく坂道の途中でかすかに聞えてきた懐かしいアイドリング音。その時の何とも言えぬ感動と、その時突如甦った津山や中国勝山、豊前川崎、後藤寺、小倉での過去の記憶。思わず涙が出そうになり、誰も居ない備後落合でキハ58を前に妙に感傷的になっていた自分。これもまた最近の出来事とは言え、死ぬまで忘れる事が出来ないものになりました。そしてこの時の感動が僕の心の深い所で燻っていた鉄魂を完全に甦らす結果となり、脳内から沸々と沸き起こる、しかし完全ではない記憶の断片を一本の線に繋げるべく、残された僅かな時間でキハ58と触れ合う中で一つ一つ拾い上げながら呼び覚まそうと思った訳です。




過去の記憶を探る上で「音」というのは非常に重要な役目を果たします。例えば僕は、音楽なんかはそういった要素が非常に強い様に感じています。小学生の頃に流行っていた曲、中学生の頃にヒットしていた曲、高校生の頃に好きだった曲。所謂、思春期の頃、多感な頃の自分に印象強く響いたナンバーは時としてその頃の忘れかけていた記憶を呼び覚ます「魔力」が有ります。下手をすれば妙に艶かしく鮮やかに、その時の自分の感情までもが甦ってくる事が有ります。失恋してショックを受けていた時の悲しい記憶。仲間と連れ立って海に遊びに行った時の楽しい記憶。そういったものが、ある一つの名も無い音楽から突然甦ったりします。そういう面で見れば鉄道の音というのは一見、全く別のようにも見えますが、やはり音楽と通じるところがある用に思うのです。特にキハ58というクルマは音が独特で、一時期は誰もが知っていた音でした。あの重厚なサウンドと長閑なジョイント音は、僕たちの世代から上の人にとっては例えようも無い心休まる音に違いありません。
故郷に思いを馳せた時、必ず脳裏に焼き付いて離れないあの音が甦ってくる。そしてそこからありとあらゆる記憶が目を覚ます。僕は忘れていた何かをキハ58に見た思いがしました。そして、いろんな意味で印象深いあの音を具体化できないかと考えるようになったのでした。
キハ58の音を録るようになって1年半。今では、当初の思惑の上に、さらに、いかに良い音を押さえるか、いかに臨場感のある音を捉えるかに執着していますが、基本的には、昔の記憶の断片を綴る旅の延長である事に変りありません。そして、この1年半で得た多くの事を、僕と同じ思いに立った方の、はたまた、全く別の理由から鉄道の音を捉えようと思った方に、少しでも役立つようにお話しできればと思ってこのエントリを立ち上げました。何回かに分けて少しずつでは有りますが、現場での体験を交えながら紹介できればと思っています。次回からはまず機材に付いてお話ししようと思います。

音轍~その2へ行ってみる。



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