~青いそよ風が吹く街角~

映画(主にミニシアター映画)の感想文を軸にマイペースで綴っていきます。

*『クスクス粒の秘密』* ※ネタバレ有

2011-11-14 01:43:09 | 映画【フランス】


  『クスクス粒の秘密』:プラネットプラスワン公式サイト

クスクス鍋

2005年に製作フランスでは2007年に公開。
北アフリカ出身のフランス人監督アブデラティフ・ケシッシュの3作目。
第64回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・国際批判家連盟賞をなど数々の映画賞を受賞。
移民問題やリストラなどの社会的背景の中、
古い船を買い取り、クスクス料理店を開業しようと奮闘するが
数々のトラブルに巻き込まれる60歳チュニジア人の男性スリマーヌの物語。

前半は会話中心で大きな騒動はないのですが、
後半、料理店で浮気相手を見かけたスリマーヌの長男が
クスクス鍋を積んだ車で失踪してしまう件からのトラブルは面白かったです。
単にドタバタしているというのではなく、
フォーカーフェイスの熟年男性の哀愁を効かせているあたりは
アキ・カウリマスキ監督の映画を彷彿させるモノもありました。

一瞬、実質の主役はスリマーヌの恋人の娘リムかと思っちゃった。^^
新しい家族であるスリマーヌの苦境を助ける為にぷよぷよのお腹をさらけだしてまで
汗だくで情熱的なダンスを繰り広げる健気さには心洗われる思いがしましたよ。
ちなみに、リム役のアフシア・エルジは役作りの為に15kg体重を増量したそうです。

スリマーヌはスクーターを諦めてタクシーで戻れば良いのに。。。
勝ち目がないのに悪ガキ達をもたつく足で追いかけるスリマーヌ。
その姿はリストラの波による世知辛い現状で融資もおぼつかない中、
レストラン開業に一縷の望みを託すスリマーヌの生き様にダブってきたり・・・。
その傍らでホームレスらしき人が女性からクスクス鍋をもらっている。
貧しい境遇でも欲しい物があっさり手に入る人もいる皮肉な現実・・・。
本来、この作品は父親の自己犠牲的な献身を描く為に、
監督は自分の父を出演させる予定だったけど、父親が亡くなった為に
チュニジア俳優にオファーしたものの、クランクイン直前にその俳優が病になった為に
父の友人だったハビブ・ブハールを代役で起用したそうです。
つまり、ハビブ・ブハールはプロの俳優ではなく一般人。

スリマーヌの長男の嫁は夫の浮気を物凄い剣幕で愚痴っていたけど、
一生懸命頑張っているのに認めてもらえず、
勝手な夫にブチ切れる気持ちはなんかわかる気もしたり・・・。
国によって社会背景は違っても家庭人の心境は万国共通なのかも?と思ったり・・・。

アブデラティフ・ケシッシュ監督は小津安二郎監督の映画を敬愛しているそうですね。
小津映画の影響を受けている海外の監督の多くは
小津の情緒やテンポなど、美しい面を継承する傾向だけど、
ケシッシュ監督は平凡な家庭の何気ない会話の中で思わず口にしてしまうブラックな本音など
サムイ空気になってしまう瞬間を取り入れているような?
チクリと風刺するようなケレン味を効かせているのが独特。
それに、ぷよぷよダンスのお腹を何度もドアップで撮っていたり、
一見、演出はクドイんだけど、
上辺だけのキレイ事は一切なく、本質を鋭く突く視点は潔くて
ある意味、スカッとしましたよ。
それでいて、明解なラストにはせずに
意味深なラストにつなげる奇をてらう発想には感心。

フランスって白人の国なイメージだったんだけど、
フランス映画を本格的に観るようになってからは
フランスは移民社会の国だという事を知りました。
この作品はフランス映画ではあるんだけど、
なんかラテン映画を観ているような感覚だったんです~。
それは単にリムがぷよぷよダンスを踊っているからではなく (^-^;
移民社会を背景に市井の人々の暮らしを美化する事なく描いているところがね。
この作品の登場人物は皆どこか欠点がある。
完璧な人は一人もいないし、言動は情けなかったりもする。
だけど、例え事が上手く運ばなかったとしても
自分なりのポリシーを見失わないように生きている活力はさりげなく伝わってくる。
そういう普通の人々が愛おしく感じた作品でした。(*^-^*


P.S.
クスクスは日本では馴染みのない料理だけど、
北アフリカから中東にかけての地域やそれらの地域から伝わったフランス・イタリア。
そして、ブラジルなどラテンアメリカからヨーロッパ広域の料理らしいですよ。

 クスクス – Wikipedia


2 コメント

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お疲れさまでした。 (rose_chocolat)
2011-11-14 12:58:07
お勧めしてよかったです。 これは楽天からTBします。

この映画の魅力って、型にはまらない所なんですよね。
典型的ってことが一切ないという意味ではものすごーくラテンでした(笑)

>スリマーヌはスクーターを諦めてタクシーで戻れば良いのに
ここもまさにそうで、あのぐるぐる~なシーンそのものが必要なんでしょうね。
そもそもこの話全体がモヤっと感だらけで、ハッキリと割り切らないというか、「そうしたくてもどうしようもないんだけど」というジレンマみたいなものを表してましたね。
それが思いっきり体当たりなんで、観ているこちらもすごく真剣になっちゃったりして。
いわゆる「意味のわからないフランス映画」=フランス映画なんじゃないかって私たちは思いがちなんですけど、実は全然そうじゃない、本作みたいに野性味あふれる魅力ある作品も存在します。

だからTIFFはやめられないんですよねー。 配給がない映画の中にもこういう力作があります。 これも日本で未公開っていうのは本当にもったいない。 
BC。さんも、貴重な鑑賞機会を逃さなくてよかったですね。
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ラテン。 (BC)
2011-11-15 19:10:19
rose_chocolatさん、こんばんは。

>典型的ってことが一切ないという意味ではものすごーくラテンでした(笑)

ホント、そうですよね。
何かの作品に似ているようで全然違うような。^^
型にはまらない味のある作風ですよね。

ある意味、あのぷよぷよダンスよりもぐるぐる~なシーンのほうが
監督が最も描きたかった場面(主題につながる場面)なのかもしれないですね。
日常の中で湧きあがるジレンマを直球でぶつけている感じでしたね。

私はフランス映画を本格的に観る前はフランス映画は難解な偏見を持っていたけど、
本格的に観始めると言いたい事はシンプルなんじゃないかと思ったり。
長尺の映画でも最後まで観ていると、クライマックスあたりで
「あっ、なんだかんだ言っても結局はこの場面をやりたくて、
こういう事が言いたかったんだな。」
とビビッドに伝わってくるからそういうのが面白いです。

6年前に掲示板時代のトピ主さんに東京駅でお会いした時に
「チケット獲っておくから、東京国際映画祭においでよ♪」
と誘われた事もあったんですけど、
例年、秋は仕事が忙しい時期なので上京は無理ですね・・・。
大阪では今週末から大阪ヨーロッパ映画祭が始まるのでワクワクしています。
映画祭は配給がついていない各国の秀作に出会えるのが嬉しいですよね☆
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