ディキシー・チックスDixie Chicksの結成当初からのメンバーで姉妹のエミリー・ロビソンEmily Robisonとマーティ・マグワイアMartie Maguireの2人によるユニット、コート・ヤード・ハウンズCourt Yard Houndsのアルバムです。元々はチックスのアルバムをレコーディングするつもりだったようですが、リード・ボーカルのナタリー・メインズNatalie Maines側の準備が整わず、2人によるプロジェクトに変更したようです。今回のアルバム、バンドの亀裂を意味するものではなくて、ディキシー・チックスとしては6月8日から、イーグルス、キース・アーバンと共に久々のスタジアム・コンサート・ツアーに繰り出そうとしているところなので、今後はグループとしての活動に期待できるでしょう。
元々チックスはブルーグラス~テキサス・ウェスタン・スウィングをベースにスタートしたバンド。その音楽を支えてきた中軸の2人ですから、ブルーグラス・テイストの作品になるとの情報もありましたが、これがアンニュイでジェントルなアコースティック・ポップが中心となるアルバムになっているのです。チックスのソリッドで快活なルーツ志向のポップ・サウンドともひと味違うもの。ここでのメイン・ウーマンは、妹のエミリー。彼女がほとんどの曲を書き、甘く優しみ溢れるボーカルを披露してくれています。エミリーは、ドブロ・ギターの奏法でも日ごろから独自の研究を重ねている、などとインタビューで語っていたように、テキサス・カントリー・ルーツを大切にしつつも(このアルバムもテキサスはオースティンでのレコーディング)実験精神が旺盛な人で、サラ・マクラクランSarah McLachlan からシェリル・クロウらの音楽を吸収し、ここに花開かせました。
エミリー
ミニマムな編成ながらも洞察力に溢れたナチュラルなサウンドが良心的で、パーソナルな印象。それもそのはず、エミリーは本作制作前に、テキサスのアーティスト、チャーリー・ロビソンCharlie Robisonとの離婚という不幸な経験をしており、多くの曲でそれにまつわる心情が歌われているのです。レイドバックしたブルーな雰囲気とユニークなコード進行が、オーソドックスなカントリーとは一線をかす"Skyline"、ジェイコブ・ディランとのデュエット"See You In The Spring"、テイラー・スウィフト時代に呼応した、大人の"Fairytale"、ラストを締めくくる"Fear of Wasted Time"などのスロー曲で聴かせる、エミリーの情感を感じさせる飾り気ないボーカルは悪くないです。後半でテンポ・チェンジするアレンジの"Delight"では、私、デビュー当時のビー・ジーズの音を思い出しました。この曲、そんなアレンジやコーラスのサイケ・ポップ風なところが結構気に入っています。一方、姉のマーティも1曲のみですが自作のバラード"Gracefully"を切々と歌ってくれています。このサウンドですから、なかなかマーティのフィドルが聴かれないのが残念ですが、その代わりに物悲しげなストリングスが曲に深みを与え印象的な仕上がりです。
マーティ
アップテンポ曲で、アルバム中一番フックがあるのが、やはり"Coast"。ハンド・クラッピンもフィーチャした、ウェスト・コースト・ロック風の爽やかなコーラスが、アルバムに勢いをつけます。ジョージ・ハリソンのようなリード・ギターもナイスな雰囲気。クールなカントリー・ロックです。血が繋がっている父親に認めてもらえない子、という社会的なテーマを歌った"Ain't No Son"は、最もラウドで喧騒にあふれたナンバー。これは唯一の姉妹による共作です。エミリーのボーカルって、確かにカリスマ性と言えるほどの強い個性はないので、作品トータルとしての押しの強さに今一歩の感がありますが、聴き手一人ひとりに優しく語りかけてくる好盤であることは間違いないと思いますよ。
この作風なので、ビルボードのHot200には7位にランクインしましたが、カントリー・チャートではランキングされていません。恐らくは、カントリー・ラジオが反応していないのではないかと・・・・数年前の、ナタリー・メインズのブッシュ批判からカントリー・フィールドとの亀裂、そして(西海岸の)グラミー賞受賞の流れは、結構我が国でもマスコミに取り上げられ、正義と栄光の軌跡みたく語られてきました。この過去があるので、なかなか以前のようにカントリー・フィールドをターゲットにした活動をする気になれないのだろうとも思われますが、チックスの結成当初からの音楽スタイルの変化を見れば、元々彼女達は自身のスタイルの変化と新しいファン層の獲得を目指した活動を、常に続けて来たとも言えます。イーグルスやキース・アーバンとのツアーも、けして彼女達が全くカントリーに背を向けているわけではない事を物語っていると思いますね。だから、このプロジェクトも、そんな彼女達の新しいスタイルへの、全く自然な取り組みだと考えられるでしょう。
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ジャケットのアートワークも凄く良かったので期待大で早速購入しました。
まず、最初に思ったことは、「シェリル・クロウ」にそっくりだということ・・・。サウンドもそうだけど、まさかマーティーとエミリー二人の声がここまでシェリル・クロウに似ていたのは想像していませんでした。
Dixie Chicksもシェリル・クロウも聴き込んでいるので、じっくり聴くと何となく違いが分かる筈なんですが、やっぱり似すぎ・・・。
ナタリーの歌声がここまでDixie Chicksとしてのボーカルの重要な位置を占めていたことを再認識させられる結果となりました。
でもでも、アルバムの内容としては気に入りました。
Dixie Chicksの時と比べてハードなサウンドで構成されていますが、ボーカルも思ってた以上に力強いのでバランスはいいと思います。
でも個人的にはやはりDixie ChicksはDixie Chicksであるべき。ナタリー不在では、やはり輝きが数段落ちる事を思い知らされた形にもなって複雑な思いでした。
ナタリーも早く復帰して、一日でも早くDixie Chicksとしての新作をリリースして欲しいです。
Chicksの新譜がそろそろ聴きたいなと思っていた今日この頃、ベストアルバムが出ていることを知りました。
そこで、Dixie Chicksのデビュー20周年を記念して、彼女達のキャリアを総括したレビューをbigbird307様にお願いしたいと思います。
勝手なことを言って申し訳ないのですが、ぜひご検討下さい。