ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

クラシック・カントリー映像の決定版 「Opry Video Classics」

2008-07-06 | アワード受賞・カントリー全般
 アメリカのレーベルTime Life社から、クラシック・カントリー・スターのライブ映像集の決定版といえるDVD8枚組みセット「オープリー・ビデオ・クラシックス」が、今年4月に発売されました。私、この手の映像を見るのはけして初めてでなく見たことのある映像もなくはないですが、このボリュームと演奏の質の高さ(音も良い)は圧倒的です。50年代~70年代の今やレジェンドと言われている多くのカントリー・スターが次から次へと登場し、カントリーが真の意味で個性的なスタイルを保っていた時代の名曲を、スタジオ音源使った口パクなど一切なくライブで歌ってくれるのですから、資料的に貴重という小さな話でなく、時間を忘れて楽しんでしまいました。ここではオープリーに出演していたほとんどのビッグ・ネーム(西海岸のバック・オウェンズやマール・ハガードの他にも、なぜいないの?って人もいるにはいるけど・・・)の概ね全盛期の姿が、こうしてまとまって見る事が出来るのは壮観です。映像も抜群に美しく(YouTubeのチマチマした見にくい映像がイヤになります)、カラー放送になってからは往時のスター達の異次元のような華やかなファッションも存分に楽しめます。各DVDは「Legends」「Queens of Country」「Duets」「The Hall of Fame」「Honky-Tonk Heroes」「Love Songs」「Pioneers」「Songs That Topped The Charts」の8つのテーマに合う曲が収録されています。

 映像のソースは、グランド・オール・オープリーを放送しているラジオ局WSM関係のWSM-TVが50年代~70年代にかけて断続的に製作し、ABCなどの全国ネットで放送していた幾つかのプログラムからセレクトされたもの。そしてその肝心の中味の方なのですが、さすがに全ディスクをフォローするのは膨大になるので、今回は昨年から単品売りされていた「Legends」と、「Queens of Country」の2枚について取り上げさせていただきます。この2枚は、Time Lifeのホームページでセット売りもされていますので。


「Legends」
 

 クラシック・スターの中でもトビっきりの大物を集めたディスク。別にある「The Hall of Fame」との棲み分けがややこしいですが、そちらは最近オープリーにレギュラー出演している(た)“Little” Jimmy Dickins、Bill Anderson、そしてPorter Wagonerらを集めたものなので、やはりこの「Legends」こそが一番の目玉ディスクと言えるでしょう。

1. George Jones(ジョージ・ジョーンズ) - White Lightning 1962
 御大ジョージ・ジョーンズが堂々オープニングを飾ります。カントリーというより、ロカビリー~プリ・ロックンロールの勢いでグイグイ迫ってきます。若かりし頃の御大の顔、なかなか危うくヤバそうです。さすがのアーシーな歌も良いのですが、リード・ギターがイイ!キレとコクとスピード感が素晴らしく、ロックン・ロール・ギターのルーツを感じます。コーラスの「シューッ」のところで両側から手が伸びてきて、御大の耳を捻る不思議な演出も見もの!?これはこのDVDセット全体に言えますが、バックの演奏も注目に値するものです。カウボーイ・ファッションだったり、背広着たりして、直立不動で一見淡々と演奏されているようですが、その音はカントリーの素朴さに溢れつつ骨太で腰があり、強いです。ここで聴かれる南部独特の音がポピュラー音楽に刺激を与え、60年代を通じてつんのめりぎみのビート・ポップスからヘヴィなロックへと変わって行ったルーツだったのだろうな、と思います。なお、ジョージ・ジョーンズのパフォーマンスは、タミー・ワイネットとのデュエットも含め、セット中多数収録されています。

2. Marty Robbins(マーティ・ロビンス) - El Paso 1960
 荒涼とした西部の夜景のイラストをバックに焚き火をしながら歌うという、いかにも昔風のセットでメランコリックなカウボーイ・ソングの名曲を美しい声で歌ってくれます。マーティ・ロビンスは8枚組みのセットを通じてこの1曲だけというのは、あまりに少なすぎるのでは?"Don't Worry"も見たかった。

3. Don Gibson(ドン・ギブソン) - I Can’t Stop Loving You 1963
 レイ・チャールズで有名になった"愛さずにはいられない"。この人がオリジナルで、レイが憧れた、当時ポップなカントリーと言われた”ナッシュビル・サウンド”で歌われました。ここではストリングスなしのプリミティブで骨太な演奏、そしてコチラも大物コーラス・グループ、ジョーダネアーズを従えて抑え目に歌う様がクールです。

4. Jim Reeves(ジム・リーヴス) - Four Walls/Tennessee Waltz/He’ll Have to Go 1963
 クールと言えば、このパフォーマンスのクールさったらない!ビロードの声を持つジェントルマン・ジムの、自身もギターを弾いてのバラード・メドレー。冒頭、ギターを爪弾きながら司会のTommy Cutrerとおしゃべり、そこからさりげなく演奏がスタートします。曲間も笑をまじえて実にリラックスしたライブ感溢れるパフォーマンスで、名曲"He’ll Have to Go"に到ってはオーディエンスも拍手喝采。苦言を言わせてもらうと、もう少し長く演奏してほしかった。短すぎ。

5. Faron Young(ファロン・ヤング) - Hello Walls 1961
 クリアで明るい声が魅力のこの人。この人もこの1曲だけというのは少ないです。ウィリー・ネルソン作の名曲です。

6. Ray Price(レイ・プライス) - City Lights 1962
 有名な自身のバンド、チェロキー・カウボーイズがバックを付けての、これぞ正統ホンキー・トンク・サウンド。レイ・プライスは本当に息の長い人で、50年代の"Crazy Arms"から、70年台に入ってのカントリー・バラード"For the Good Time"までセットに収録されています。

7. Patsy Cline(パッツィ・クライン) - Crazy 1962
 これもウィリー・ネルソン作の名曲を、スタジオよりも気持ち抑え目でさり気なく、それでいてさすがにソウルフルに歌われます。私、Cimarron BallroomのエモーショナルでダウンホームなライブCDを聴いていたものですから、この穏やかさは意表を突かれました。さすが、歌う場をわきまえてTPOしてますね。コレは全国ネット向け番組ですから。ファッションは、柄は派手ですがワンピースを着ていて、他のカントリースターと比較するとシックでモダン。本当に雰囲気と存在感のある永遠のカリスマです。

8. Willie Nelson(ウィリー・ネルソン) - Hello Walls/Funny How Time Slips/Night Life/Crazy 1965
 ライマン公会堂で、自身のペンによる名曲をメドレーしています。どうもウィリーの歌と風貌は、レジェンドたちの中にあってどこか異質な感じがします。この当時は歌手というよりもソングライターとして有名だったはずで、70年代から現代にかけての活躍によりここに収録されたのでしょう。

9. Johnny Cash(ジョニー・キャッシュ) - Ring of Fire 1968
 カーター・ファミリー(奥さんのジューンも)をコーラスに従え、ライマン公会堂での堂々の演奏。リード・ギターは、なんとカール・パーキンスです。Sunレーベル当時からの友人。

10. The Statler Brothers(スタトラー・ブラザーズ) - Flowers On the Wall
 今年Hall of Fame入りを果たしたカントリー・コーラス・グループの初ヒット曲。

11. Tammy Wynette(タミー・ウィネット) - I Don’t Wanna Play House 1967
 クール・ビューティの極み、ファースト・レディ・オブ・カントリー・ミュージック。この後出てくるドリーやロレッタとの個性の違いが分かりやすくて、面白いです。皆個性強いな。

12. Ernett Tubb(アーネスト・タブ) - Waltz Across Texas 1968
 ジョージ・ストレイトの最新作「Troubadour」は、このアーネスト・タブのニックネーム”Texas Troubadour”から拝借したのは明らかでしょう。スト様が尊敬するホンキー・トンク・カントリーの生みの親です。だいぶお年を召してからのゆとりのパフォーマンス。

13. Dolly Parton(ドリー・パートン) - Coat of Many Colors 1971
 スタジオ盤がアコースティックな優しみに満ちたスタイルだったのに対し、ここではポーター・ワゴナーのバンドによるホンキー・トンク調で、そのエレクトリックで力強い躍動感が素晴らしいバージョンになっています。ボリュームタップリのヘア・スタイルが時代。

14. Conway Twitty(コンウェイ・トゥイッティ) - Hello Darlin'
 ロレッタ・リンの曲紹介でスタート。素晴らしくのびやかなカントリー・ボイスが楽しめます。なお、二人のデュエットによる必殺の"After the Fire Is Gone"は「Duets」で見れます。

15. Loretta Lynn(ロレッタ・リン) - Coal Miner’s Daughter
 説明不要のロレッタの代表曲。そして余裕の歌声です。すこし軽めに歌っている感じ。


「Queens of Country」
 

 タイトルどうり、女性レジェンドがまとめられた盤。話題のマルティナ・マクブライドのライブDVDでクラシック曲3曲("You Ain’t Woman Enough""Rose Garden""Help Me Make It Through the Night")を披露していましたが、その全てのオリジネイターによる旬のパフォーマンスがバッチリ見る事が出来ます。これら新旧見比べると、カントリー・ミュージックの何が変化し、何が変わらず守られているのか、しみじみ考えさせられ楽しいです。

1. Jean Shepard(ジーン・シェパード) - Second Fiddle (To an Old Guitar)  1965
 50年代の女性スターによる、60年代のパフォーマンス。善良なお嬢様風ドレスを着ていますが、既にお年は召されているよう。終盤のヨーデルがスゴイ。そして、伴奏のギター・ソロも聴き物です。

2. Kitty Wells(キティ・ウェルズ) - Makin’ Believe 1955
 これはこのディスクの目玉の一つ。カントリー界初の女性スターによる、1955年の貴重な超名曲のパフォーマンス。シンプルながら、普遍的なメロディ。エミルー・ハリスもやっていましたね。若々しいロイ・エイカフが司会進行してます。カメラアングルは2方向だけで、ほとんど正面からの映像なのと、演奏の間、ロイ・エイカフ始め出演者が後ろで手持ち無沙汰に待ってるというのが、のどかな演出で時代を感じます。古い映像ですが、現在の技術で見やすくなっています。

3. Patsy Cline(パッツィ・クライン) - She’s Got You 1962
 ここでもしとやかに名曲を歌い上げてくれています。このセットで、他に"Imagine That""Leavin’ On Your Mind""I’m the One Who Loves You"が見れますが、"Walking After Midnight"がなぜか抜けてるな。あのリズムが強調されたソリッドなバージョン、私は好きだったので残念。しかし、伝説のPatsyがこれだけまとまって良い映像で見れたのだから感謝です。1963年、"Leavin’ On Your Mind"が収録された翌月、飛行機事故で帰らぬ人に、その名は永遠のものになりました。60年代はこのような悲劇が多かった。

4. Skeeter Davis(スキーター・デイヴィス) - The End of the World 1965
 カントリーの、と言うよりオールディーズの名曲。竹内まりやも歌っていました。スキーターの声は、伝統的なカントリー・ボイスですが、ポップ・サイドから聴くと結構エンジェル・ボイスで、現在のアリソン・クラウスに通じるような。ファッションも、このボックス内で見る事の出来る"I Forgot More Than You’ll Ever Know"当時(Davis Sistersでの#1ヒットを単独で歌い再ヒット)と比べ、ポップにイメチェンしています。

5. Connie Smith(コニー・スミス) - The Hurtin’s All Over 1966
 今回の全てのDVDの頭で、マーティ・ステュワートが簡単に内容を紹介してくれていますが、その彼の奥様。本当に美しくかわいいのですが、声は結構太い人です。

6. Jeannie Seely(ジニー・シーリー) - Don’t Touch Me 1966
 ジョージ・モーガンの元奥様で、ロリー・モーガンの母親。90年代に見た時は、しゃがれ声で調子のいいおば様になってましたが、若い頃はとても清楚な歌声と容姿だったのですね。ボーナスのインタビューでも登場しますが、かなりお年をめされました。

7. Loretta Lynn(ロレッタ・リン) - You Ain’t Woman Enough 1968
 このセットに収録のロレッタ・リンの映像の中で唯一60年代の、最も若い彼女の超素晴らしいパフォーマンス。ギターを弾きながら満面の笑顔でハツラツと歌う様は、カワイイ!なんて思ってしまいました。しかし、自由奔放に歌っているようでも完璧にコントロールされた歌声、その技術はスゴイ。特にリフレインの~sta-aaaa-nd right here~と声を張り上げるところの強さが強烈!美しい映像で見れて良かった!・・・と思っていたら、このTime Life社が、1963年~1967年までのライマンでのパフォーマンスをまとめたCDをリリースしました。こちらについては、また別途。

8. Dottie West(ドッティ・ウエスト) - Country Sunshine 1974
 この曲は当時のコカ・コーラのキャンペーン・ソングだったもの。アトランタが本社ですからね。60年代から自作曲でヒットを飛ばし、70年代後半には大物になる寸前のケニー・ロジャースとデュエットしていました。80年代まで活躍した息の長く多才な人でした。

9. Lynn Anderson(リン・アンダーソン) - Rose Garden 1973
 60年代後半から70年代にかけて活躍した彼女、その超クロスオーバー・ヒットのパフォーマンス。同時期のポップ番組、ミッドナイト・スペシャルで、トム・ジョーンズと踊りながらデュエットしている映像を見た事がありますが、それに比べると動きは少なく歌に専念しています。これもTPOをわきまえたってとこかな。このセット全般で見る事の出来る、当時のカントリーのステレオ・タイプ的な田舎風セットが嫌いだったようで、よく口論していたそうです。

10. Jeanne Pruett - Satin Sheets 1973
 Martina McBrideが「Timeless」で素晴らしいカバーをモノにしていた名曲のオリジネイターがこの人。あんまり歌上手くないのね・・・(失礼) でも、この腰のあるミディアムの名メロディーに、彼女のやわらかく幅のある声が上手く合っているのだと思いました。このライブ、今回のような企画がないとなかなか見れなかったと思います。これ以上ないダウンホームなリードギターもナイス!

11. Tammy Wynette(タミー・ウィネット) - Stand By Your Man 1975
 綺麗なブロンドと原色グリーンのドレス、まさに南部ファースト・レディの真骨頂。キレのある泣きの歌声は生でも見事です。

12. Barbara Fairchild(バーバラ・フェアチャイルド) - Teddy Bear Song 1973
 なんともかわいらしいタイトルの曲。この人は知りませんでした。正調カントリーとは違う、シンガー・ソングライター的な佳曲。

13. Donna Fargo(ドナ・ファーゴ) - The Happiest Girl In the Whole U.S.A. 1972
 付けまつ毛が気になる、"ファニー・フェイス"。というタイトルの曲ももう1曲、セットには収録されています。この2曲が連続してミリオン・セラーになりましたが、それは女性カントリー・シンガーとしては初めての事だったのです。"The Happiest Girl In the Whole U.S.A."なんて、チョッとベタなタイトルですが、なかなかキャッチーで印象に残る良いメロディのコーラスです。

14. Sammi Smith(サミ・スミス) - Help Me Make It Through the Night 1971
 カントリー・ミュージック史上最高の名曲の一つ。そのオリジネイター、サミ・スミスの素晴らしい生歌。スタジオ・バージョンに対し、よりスムーズにアレンジされた伴奏と、すこし崩し気味にした歌唱が実に味わい深く素晴らしい。余計な感情移入など不要、さりげなく情念を表現しています。そして特筆すべきは、その影のあるブラウン貴重の美しい映像世界。そして音楽とのマッチングも見事。この映像は、セット全体を通じても実に個性的で異次元の質感を持っていると思います。カバーの多い曲ですけれども、この曲をこれだけのクオリティで表現できたのは、やはりオリジナルのサミだけだったんではないか、と思ってしまうくらい素晴らしいパフォーマンスです。

15. Dolly Parton(ドリー・パートン) - Jolene 1974
 いわずと知れた、ドリー・パートンの大出世曲のライブ。しいて贅沢を言っちゃうと、スタジオ・バージョンに対し演奏がチョッとモタツキ気味に聴こえてしまいます。それだけこの曲のオリジナル・バージョンのサウンドが画期的~当時ブラック・ミュージックでホットなサウンドだったファンクのリズムとヒルビリーのメロディをハイブリッドした、と私は信じています~だったのだと、このライブ・パフォーマンスを見て妙に納得した次第です。逆に言うと、カントリーのスタジオ・ミュージシャンはやはり最高のテクニックを持った選りすぐりの精鋭達なのだと言う事です。ドリーの歌はグッドですよ。


 8枚組みという事で、そう気軽に買うわけにはいかないですけれども、カントリー・ミュージックの基礎の基礎を確認できる、クラシック・カントリーを知る為のマスト・アイテムだと思います。単品売りの「Legends」だけでは相当に物足りない、と思わせるくらいこの8枚セットには冗長なところがなく、高い映像と音楽のクオリティで一気に見せてくれるのです。


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