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 「ある脳科学者の悲哀」 

2015-04-10 20:59:36 | Weblog

 「ある脳科学者の悲哀」  作 大山哲生

 

×月十四日

  私はジョン。脳科学者である。

 私は臨死体験の研究をしている。最先端技術でヒトの脳の働きを調べるのである。特に臨死体験と呼ばれる現象は、実に興味深く謎に満ちている。

 臨死体験のなぞを調べているうちに私はヒトの脳の一部にあたかもブラックボックスのごとく、解明されていない部分があるのを知ったのである。

 

 しかし、こうしていても頭を離れないあの事件からもう十年がたとうとしている。私の家の裏に大きなベンチがある。そこで妻ケイトが銃で撃ち殺されたあの事件だ。本当に私と深く愛し合った貞淑な妻ケイトが殺されるなんて。撃ったのは当時十九歳になる次女のキャロラインだった。ケイトはキャロラインをかわいがっていたしキャロラインも母親であるケイトを人一倍慕っていたのになぜ。

 しかし、キャロラインは銃で殺害した。キャロラインは、撃った後母親の死体を見て半狂乱になり、警察に連絡をとったことすら覚えていないらしい。

 警察がきてから事情聴取が行われたが、キャロラインは動揺し泣き叫ぶばかりであった。キャロラインはあまりのショックでその後精神に変調をきたし、廃人同様になってしまった。

 私は、家族の二人を失うことになり、ただうちのめされるばかりであった。

 私自身も体調を崩し、あのころは脳の研究も一時やめざるを得なくなった。

 

×月二十二日

 ヒトの脳のブラックボックスとも言える部分の特定に成功した。どういう働きをしているのか、全くわからない。

 

×月二十四日

 ブラックボックスの解明に成功した。脳の一部には記憶が凝縮して蓄えられているのだ。

 そして、脳が死に瀕するとブラックボックスの記憶が脳全体へと広がるらしい。どうも、これが臨死体験の真相のようである。おそらく、過去に死んでいった無限の人たちもこのブラックボックス内の記憶を、死ぬ直前に一瞬意識した人もいたと思われる。

 

×月二十七日

 ブラックボックス内の記憶は、細胞内に蓄積されているようだ。ある部位の細胞のDNAを取り出して電極をあてると、その記憶DNAが意志を持つことを発見した。これは大発見だ。私の前途は洋々である。

 

×月二十九日

 こっそりと私の研究室に保存していた妻の記憶DNAに電極をあて、死ぬ直前の記憶を映像化することに成功した。

 そして、そこに出てきた映像は、銃をかまえる次女キャロラインの姿であったのである。キャロラインが銃で妻を殺害したことは間違いない事実だ。つらい。

×月三十日

 私は、ケイトの記憶DNAがもう一つあることに気がついた。そのもう一つの記憶DNAに電極をあて、意志を確認した。そこには、ケイトのメッセージがあった。

「キャロラインニ ウワキヲミツケラレタ。キャロラインヲコロソウトシタラ ジュウヲウバワレタ」

 

 

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