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第68回京都旅歩き ラストミッション 「女と盗賊」

2016-04-16 19:19:34 | Weblog

 「女と盗賊」~『原典・今昔物語』~   作 大山哲生 

 

今となっては昔のことである。

京都に一人の侍がいた。この侍は身の丈六尺あまり。大きな体をもてあますかのようにゆさゆさと体を揺らしながら歩いていた。

 侍がある大路を歩いていると、家の中から手招きするものがある。侍が近づいてみると、若い女の声で「どうぞ、そこの戸を押して中に入ってください」と言う。侍は招かれるまま女の家に上がり込んだ。女を近くで見るとなかなかの美女なのであった。

「私は、あなたを一目見て、長い間探し求めていた人に会ったような気がしたものですから、このようにお呼びしました。私の思いをぜひとも受け入れてほしいのです」と女は言った。

 侍は、何がなにやらよくわからなかったが、女の色香が理性を超え、とにかく抱きたい一心であったので二つ返事で承知したのであった。

 その夜は、酒がふるまわれ見たこともないような料理が並んだ。そして、女と一晩中契りを交わし続けたのであった。

 次の日の朝、門をたたく者がある。侍は誰だろうと思い、門扉を開けると侍風の男二人と女房一人が入ってきた。三人は、美しい食器に盛ったごちそうを持ってきたのであった。それらのごちそうを女だけではなく侍にも食べさせた。

 次の日も、別の者が数人やってきては部屋の掃除をしたり食べ物をもってきたりした。

 侍は何かおかしいぞと思ったが、女の色香に心を奪われていたので、こういうものかと思ったのであった。

 何不自由ない生活が二十日ばかりも過ぎたころ、女が言った。

「思いがけず、このようにして夫婦の契りを結んだのも何かの縁だと思います。ですから、今から私のいうことについて、まさか嫌だとはおっしゃらないでしょうね」

 侍は、すでに女の虜になっていたので、一も二もなく「おう、そのとおりさ」と答えた。

 女は、水干袴、弓、わら靴を用意し、侍に身支度を調えさせた。

「今晩の子の刻に蓼中の御門に行き、人目につかないようにして笛を吹くと、同じように笛をふくものがいます。『誰か』と聞かれたら、『ここにおります』とだけ答えるのです。それから、頭の男の指図に従い、見張り番をするのです。その後、船岡山のふもとで獲物を山分けするでしょうが、けっして受け取ってはいけません」

 侍が言われたように行ってみると、三十人あまりの男たちがいた。中に頭と思われる色の白い小柄な侍がおり、大勢の男どもは頭の男を敬うふうで、あれこれと指図をうけていたのであった。

 侍は言われたとおり見張りをした。男たちは大きな屋敷に押し込むと手に手に獲物をもって走り去っていく。侍は、弓を構えて援護しようとしたがその必要がないくらい手際がよかったのであった。

侍が女の家に帰ると、湯がわいており酒とごちそうが用意されていた。侍は食事を終えると、その夜も女と肌をあわせたのだった。

 侍は、自分のやったことが盗賊の手伝いであることはわかったが、女と離れがたい心持ちになっていたので、もうどうにでもなれという気持ちであった。

 押し込みの盗賊団に加わることは八回に及んだ。

 侍が分け前として持って帰ったものを女はうれしそうに使うのであった。

或る時、女が鍵を一つ取出して侍に渡して言うには「これは六角の北にある蔵の鍵です。その蔵をあけて目につく物を盗ってきてください。あのあたりには車借(くるまかし)という者がたくさんいますから、それに積んで持って帰ってください」ということであった。侍は、言われるままに行って見ると実際に蔵があり、中を見るとほしい物が全部ある。「これは不思議なことだ」と思って、言われたとおり車に積んで持って帰った。このようなことをして、二年が過ぎた。

 侍は、女を喜ばせたくて自分一人で押し込みを働くようになった。侍はそういうことを何度かしているうちにとうとう検非違使に捕まってしまった。

 そこで、侍は女の屋敷に夫婦のように暮らしていたことなどをあらいざらい白状した。

しかし、あの女の屋敷には家も蔵も跡形すらないのだった。あの女は妖怪変化の類いであったのだろうか。

 検非違使に女や屋敷のことを厳しく問い詰められたが、侍は何がなにやらよくわからず自分の知っていることしか答えることができなかった。

 侍は、牢屋の中で、女に呼び止められたところから思い返していた。あの女の家は元々盗賊の家であったのだろう。女とは夫婦同然の契りを結んだのだが、自分はあの女にたぶらかされたのだろうか。それにしても、なぜ六角の北にある蔵の中にあるものまで言い当てることができたのか不思議だった。

 すべては、なにやら夢の中のような話だが、女から言われた通り押し込み現場に行った時に、頭と思われる小柄な男をたいまつの灯で見たときに、頬の具合や顔全体の様子があの女と似ていたことだけが確かなことだと思えるのだった。

 これは世にも不思議な出来事だと、人々は語り伝えたとか。

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