「局長暗殺の真実」 作 山脇一郎
私は、新選組副長、土方歳三に会うため、壬生寺に急いだ。
壬生寺の入り口には門番が二人立っていた。
「すみませんが、土方さんと話がしたい。とりついではもらえないだろうか」
「なに、怪しいやっちゃな。おまえみたいなやつを副長に会わせることはできん」
「おい」
「あ、副長」
「かまわんから、そいつを通せ」
境内では、浅黄色の羽織を着た男達がにぎやかに談笑している。中には剣術のけいこをしている者もあった。
私は、奥の部屋に通された。
「あんたのくるのはわかっていた」土方は言った。
「まさか」
「夕べ、明日重要な人が訪ねてくるという夢をみた」
「そうでしたか。では単刀直入に聞きますが、新選組局長芹沢鴨の暗殺についてですが」
「そっちの時代ではどんなふうに伝わっているのかね」
「長州藩が殺害したとか、将棋で負けた近藤さんが殺害したという話があったりなかったり」
「はっはっは、そうかね。じゃあ、まあ順を追って話をしよう。実は新選組には局長が三人いたんだ」
「へえ」
「芹沢鴨、近藤勇、新見錦だ。その中で芹沢さんが筆頭だった」
「はじめて知りました」
「芹沢さんは、剣の腕は並ぶ者がないほどで、なおかつ実に剛胆なひとだった。文久三年の六月には大阪で五十人ほどの力士と乱闘事件を起こして勝ったんだからな」
「へえ、すごい人だったんですね」
「ところがあの人は酒乱でね。島原の角屋では大暴れするし、大阪新町の吉田屋では、なじみの芸妓小虎に振られて狼藉を働く。とうとう九月には朝廷から芹沢さんの逮捕命令が極秘で出たんだ」
「なるほど」
「その逮捕命令で動いたのが近藤さんだ。近藤さんは、私、沖田、原田らを集めて暗殺計画を立てた」
「近藤さんと芹沢さんは対立していたんですか」
「近藤さんは江戸試衛館・天然理心流の四代目、芹沢さんは水戸天狗党の流れをくんでいる。その溝が根本にある。だから新選組のなかには近藤派と芹沢派があったんだ」
「なるほどね」
「九月十八日、新選組は島原の角屋で芸妓総揚げの宴会をした。その後、芹沢さんらは、壬生屯所の八木邸で飲み直した。私は近藤さんの指示で八木邸に行き芹沢さんにうんと酒を勧めた」
「酔っ払わせてしまおうってことですね」
「芹沢さんがぐでんぐでんに酔っ払ったところに、手はず通り私と沖田、藤堂、御倉伊勢の四人が一斉に襲い掛かった」
「近藤さんの指示だったんですね」
「芹沢さんは、真っ裸のまま隣の部屋に飛び込んだが文机につまづいて転んだところをずたずたに切りつけた。これが芹沢さん暗殺の真実さ」
「じゃあ、近藤さんが将棋で負けたというのは」
「芹沢さんは卑怯にも待ちゴマをするんだよ」
「あ、やっぱり負けたんですか」
「近藤さんは負けたのでない。とっさに王の行き場所が見当たらなかったと言っていた」
「では、長州藩がやったという話は」
「近藤さんが、『賊のため芹沢は横死をとげ候』と会津家に届けたからそういう話になったんだろう」
「なるほど、ここから近藤局長・土方副長体制ができるんですね」
「そういうことだ」
「それでは土方副長、今日は貴重な話をありがとうございました。えーと、それから、これから先なにがあっても箱館五稜郭にいって戦うことはおやめになった方がよいかと思います」
「なんのことかよくわからんが、心にとめておこう」
私は、壬生寺の境内をでると、軽いめまいを覚えた。
振り向くとそこにはしんとした境内の壬生寺があった。そして、私は芹沢鴨の墓の前にたたずんでいたのであった。
土方歳三は、この六年後、箱館五稜郭の戦いで銃弾を受け戦士。享年三十五歳。
奇しくも、前年江戸で斬首された近藤勇も享年三十五歳であった。
戦国時代と同じく激動の時代でしたね。
新選組は幼い時から耳にしましたが、
TVドラマ化され良く取り上げられています。
五稜郭を訪れた時、資料館にも立ち寄りましたが、
土方歳三など若き英雄に頭が下がりました。
この時代があって現在があるのですね。