Augustrait





[提供:キネマ旬報社]
 昭和三十三年,大阪船場に暖簾を誇る矢島商店は三代にわたる女系の家筋であった.数年前に妻を亡くした当主の嘉蔵が美しい三人の娘を残して急死した.ほどなく開かれた親族会議で大番頭宇市によって遺言状が開かれ,総額数億円といわれる遺産分配が発表された.が,出戻りながら総領娘の座を主張する藤代,暖簾をつぐ気で養子を迎えた次女の千寿,花嫁修業に余念のない末娘の雛子,の姉妹はそれぞれ不満だった.その上意外にも嘉蔵には七年前から文乃という陰の女がいることが判り….

 大阪船場に暖簾を構える矢島商店は,三代続く女系家族で,死去した嘉蔵も婿養子であった.出戻りで総領の座を狙う長女,婿を取って矢島商店を継いだ次女は,野心を剥き出しにする.最年少の三女は,将来を真剣に考えず浮ついている.相続手続きに乗じて,我が意を得ようとする大番頭宇市,三女を養子にすることで家督を取り込もうとする叔母.共同相続財産の扱いと分配に睨みあいが絶えない中に,突如として存在が判明したのは,嘉蔵の妾.

 旧民法では,「長男」が家督相続人となり,単独相続を原則とする家督相続制度がとられていた.現行民法では廃止され,子や配偶者であれば平等に相続することができる法定相続制度に替わった.女系家族であれば,第一相続権をもつ男子不在のため,遺言の執行人として指名された大番頭が取り仕切る.さらに遺言状の「効力」は,それが複数ある場合には,日付の新しいものが優先する.劇のドラマを演出するこの単純な仕掛けが,最後に炸裂するのである.私欲にまみれた醜悪な人間性は,妾の懐妊(嘉蔵の子)を確認しようとする暴力沙汰に描かれるが,やや直截的すぎるか.

 妾の羽織を引きちぎるように脱がせ,懐妊の兆候を一族に知らしめる叔母は鬼女.金に眼が眩んだ女系の「我執」に弱々しく抗ったように見せた妾が,最後に披露する「切り札」には,一同,滝のごとく冷や汗をかく.遺影となって,遺産争いなどどこ吹く風といった体で微笑む嘉蔵は,生前には妻にいびられ自我を抑圧してきた.死後の大騒動は,彼なりの報復であったように見えてくる.妾が出産した子の性別は,やはり「女」だった.

斬る [DVD]
角川書店

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原題: 女系家族
監督: 三隅研次

製作: 永田雅一
企画: 土井逸雄 財前定生
原作: 山崎豊子
脚本: 依田義賢
撮影: 宮川一夫
美術: 内藤昭
編集: 菅沼完二
音楽: 斎藤一郎
助監督: 友枝稔議
出演: 若尾文子 高田美和 鳳八千代 京マチ子 田宮二郎
  • 111分/日本/1963年
    (C) 1963 大映