コンスエラも生身の人間となり,不死を失った代わりに,性欲と子孫を手に入れた.ゼッドとコンスエラがザルドスの内部で白骨化するまでの過程は,ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)の交響曲第7番第2楽章の調べに乗せられ描かれる.荘厳さとユートピア・ボルテックスの薄気味悪さを超えた末に手に入れた,人間であるがゆえの生々しさ.このラストは忘れがたい.コンスエラを演じたシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)の冷徹美もいいが,何よりゼッド役のショーン・コネリー(Sean Connery)のフェロモンと男臭漂う生命力が,「優秀な生殖力」とストレートに表現されていることが傑作である.無為に怠惰となった向上心もない,骨抜きになった楽園世界を破壊して人間性を取り戻させる.ここでいう人間性は,ヒューマニズムではなく肉欲,衝動性といった獣性にも通じる「生への餓え」である.
エロスと衝動性と死に向かう欲求があって,人間の生が完結する真実から目を背けるな,というメッセージを主題に据えたのかと思いきや,そうでもない.鳴り物入りの割に低予算(100万ドル)の製作費であったため,コネリーへのギャラはブアマンのポケットマネーから支払われた.本作の象徴ともいえる飛行岩ザルドスは,夢に出てきそうなほどのインパクトがある.この顔は,ブアマンがモデルとなっているという.また,映画でゼッドに射殺される農耕作業中の獣人は,ブアマン本人.「趣味で好き放題やらせてもらった」とほくそ笑むように,彼自身のジオラマであり世界観である.なお,邦題に「惑星ザルドス」とあるが,異なる惑星の物語ではない.あくまで未来の地球の話である.Zardozの語源は『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of Oz)をWiとofを除いて繋げたもの.同書へのオマージュであり,神と崇められたオズの正体は軟弱な科学者であることと,ザルドスを開発し操縦しているのは,やはり人間であることに失望する本作の設定は同一である.
(C) John Boorman Productions 1974
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Title: ZARDOZ
Director: John Boorman
Cast:
Sean Connery
Charlotte Rampling
Sara Kestelman
John Alderton
Sally Anne Newton
▽106分 / イギリス / 1974年
(C) John Boorman Productions 1974