青年時代の悲恋から,コールマン・シルク/アンソニー・ホプキンス(Philip Anthony Hopkins)は家族とも縁を切り名門大学古典学の学部長にまで大成する.恋が破れた直接の理由は,シルクの“出自の痕跡”.肌の色からは予想もつかない秘密が,理不尽な風潮に火をつける.シルクの両親に面会した恋人の笑顔は一瞬にして凍りつき,縁談は即座に破談となる.秘密を誰にも明かさずに社会的成功を収めたシルクは,人種差別で失職するも,彼の不十分な弁明の理由は誰にも分からない.弁解できる立場にないことすら第三者には想像の外なのである.虐待の連鎖と取り返しのつかぬ過ちを犯した女性フォーニア/ニコール・キッドマン(Nicole Mary Kidman)とシルクの交際と衝突は,実力派の俳優二人の芸が小器用に思えるばかりで,どこか上滑りの観がある.それぞれの抱える悲哀の腰が弱いといってよい.