Augustrait





(提供:ワーナー=ギャガ)
 南アフリカ・ヨハネスブルグ上空に突如現れた巨大な宇宙船。船内の宇宙人たちは船の故障によって弱り果て、難民と化していた。南アフリカ政府は“第9地区”に仮設住宅を作り、彼らを住まわせることにする。28年後、“第9地区”はスラム化していた。超国家機関MNUはエイリアンの強制移住を決定。現場責任者ヴィカスを派遣、彼はエイリアンたちに立ち退きの通達をして回ることになるのだが…。

 南アフリカ共和国には、殺人事件発生率第一位の危険地域がある。大都市ヨハネスブルグ。アパルトヘイト後の社会は、失業と無業、犯罪行為のカオス状態となっている。外国人の一人歩きは、それだけで自殺行為とされるヤバさだ。MNUという多国籍政府のエージェント、ヴィカスは人並みに出世欲も持ち合わせているが、基本的には愚物である。ヨハネスブルグ上空に出現した巨大UFOは、停留したまま28年が経過。その思わせぶりな長期間と、異形のエイリアンが侵略目的ではなく、かといって友好的でもないことが独創的。彼らは、栄養不良で衰弱した難民なのである。


(C) District 9 Ltd 2009

 はじめは人道的見地から、エイリアンらを遇していた人類も、その存在がヨハネスブルグの治安悪化を加速させていることを疎ましく思い、第9地区と呼ばれる難民キャンプからエイリアンを10地区へ移動させる計画をすすめていく。エイリアンの粗暴さと従順さを丁寧に描きわけ、被抑圧者のコントロールを示している。小道具としての「猫缶」が可笑しい。本作に登場する異星人は、母星でも労働者階級として酷使されるソルジャーだったはず。その中にも、インテリジェンスに溢れる者・クリストファーとヴィカスの連立がとられ、宇宙船離脱のための重要なパーツをMNUから奪還するという共通目的を得てから、アパルトヘイトを連想させる御伽ばなしは、急速にSFアクションへとシフトする。それが、ある種の許容性を感じさせる苦笑を誘う。

 いかに荒唐無稽でも、人物のとる行動の理由は理解できる。展開はB級だが、内なる敵に向かう手助けをするのは、当初の外敵というセオリーを忠実に守る。ニール・ブロンカンプ(Neill Blomkamp)は、ヨハネスブルグに生まれ、黒人に対する白人の横暴や難民キャンプの劣悪さを、エイリアンの不遇に籠めて本作で設定した。すべての行動原理は、妻への愛でしかないヴィカスを演じたシャールト・コプリー(Sharlto Copley)は、ブロンカンプの友人で本職は映画プロデューサー。人類の利己的な傲慢さを、一身に背負って犠牲となった男の末路には、惻隠の情を寄せたくなる。


(C) District 9 Ltd 2009

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原題: DISTRICT 9
監督: ニール・ブロンカンプ
製作: ピーター・ジャクソン キャロリン・カニンガム
製作総指揮: ビル・ブロック ケン・カミンズ
脚本: ニール・ブロンカンプ テリー・タッチェル
撮影: トレント・オパロック
プロダクションデザイン: フィリップ・アイヴィ
衣装デザイン: ディアナ・シリアーズ
編集: ジュリアン・クラーク
音楽: クリントン・ショーター
音楽監修: ミシェル・ベルシェル
出演: シャールト・コプリー   デヴィッド・ジェームズ  ジェイソン・コープ  ヴァネッサ・ハイウッド   ナタリー・ボルト
□111分/アメリカ=ニュージーランド/2009年
(C) District 9 Ltd 2009